腹黒くてドライな妹が、僕と幼馴染をくっつけたがる理由

szk

僕の妹は腹黒くてドライ

 ……今日、洗面所の扉が開かなくなった。



 いや、正確には鍵をかけられたと言った方がいいだろうか。

 今までうちの家族の中に、浴室に通じる洗面所の鍵を閉めるような迷惑な奴なんて、誰もいなかったのだ。



 「なんだよ、せっかく歯磨いて寝ようと思ったのに……。母さん! 洗面所の扉開かないんだけど!?」

 「伊吹いぶきがお風呂入ってるんでしょ? あの子が出るまで待ってなさい!」



 母親がキッチンの方から、わずらわしそうに返答する。

 中学一年生になる妹の伊吹は、現在思春期真っ盛り。ついこの間まで、裸同然で家の中を歩き回っていたガキんちょも、今じゃ花も恥じらう乙女気取りってわけだ。

 僕だってもう中三だ、百歩譲ってその辺の女の子の事情については分からんでもない。だが許せないのは……。



 「たく、いつまで入ってんだよ……。おい、あとどれくらいで出るんだよ!?」



 僕は洗面所の扉を叩き、風呂場にいる妹に聞こえるであろう大きな声で問いかける。

 しかし、いくら呼び掛けても妹からの返答はなかった。



 「この野郎……無視してやがる」



 というのも、この妹の伊吹というのがけしからん奴で、この中学三年の偉大なる兄を、まるで虫けら同然に見下しているのだ。

 全く、世間一般じゃ、やれ妹萌えだの、やれお兄ちゃんと呼ばれたいだの、妹ってやつに過度な幻想を抱き過ぎなんだよ。

 本当の妹なんてものは、親に兄のことを告げ口したり、基本何もなければ向こうからは一切口をきいてこないような、腹黒くてドライなロクでもない存在なんだ。



 「鍵なんか閉めやがって……お前の風呂なんて、お金積まれたって誰ものぞかないっつーの」



 洗面所の扉を壊すわけにもいかないので、僕は小声で捨て台詞を吐き、部屋に戻ろうとする。

 しかし僕が踵を返した瞬間、鍵がかかってビクともしなかった開かずの扉は、何かに反応するように突然開かれたのだ。



 「んだよ……やっと出たの……ぎゃ!!」



 カコーン! という響きの良い音と共に、振り向きざまの僕の顔面へ風呂桶が命中する。



 「イテテテ……何すんだ!!」

 「ふん!」



 洗面所の中を見ると、湯煙の中、浅黒い体をバスタオルで包んだしかめっ面の妹が、無言のまま再び勢いよく扉を閉めたんだ。

 どうやら、先程の僕の捨て台詞がよっぽど気に喰わなかったみたいだな。



 「なんだよ、やっぱりちゃんと聞こえてるじゃないか……」



 このように、僕の妹が実にけしからん奴だってことが、少なからず分かってもらえたと思う。

 まずは皆んな、妹ってもんに対する幻想を捨てるところから始めよう。そんなもの、“人類皆友達”なんていうお花畑な妄想に匹敵するくらい馬鹿げているのさ。



 「……こんのクソガキ、ふやけてしまえ!!」



 誤った前提からは、誤った答えしか導き出すことはできない。まずはこの最低限の前提を押さえておいて欲しいんだ。

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