第6話 鳥かごの中でカワイイ服を着せられています 2
お姫様抱っこをされたまま硬直しているレイラを、ラディスが神妙な顔をして覗き込んでいる。
「傷は完全にふさがっていたはずだが」
「人間は図々しい生き物ですが、ぜい弱ですし……」
金髪の青年シルファが神妙な顔をして返事をする。
「本来の力とラディス様の力が混じりあって、何が起こるかわかりませんからね」
「わかった。目を離さないようにしておこう」
ラディスとシルファの話し合いを聞いているうちに、レイラも落ち着いてくる。
ラディスは見た目と口調から、怖そうな印象を受けていたが、先ほどからレイラのことを心配してくれているようだ。
もしかして、見た目や魔族とか魔王とか、レイラの常識にとらわれて変な印象を持っていただけで、いい人なのかもしれない。
考え込んでいたレイラが、ふと顔を上げると、部屋の壁にかけてある大きな鏡が目に入る。
……えっ?
レイラは驚きに目を見開いた。
自分の状況が把握できるまで、しばらく硬直する。
「え、私? わ、若っ!」
「今度は何だ?」
「私、見た目が、なんか若く……ない?」
レイラは思わずラディスに言いかけて、言葉を詰まらせた。
レイラは普段、大人っぽいや、美人といわれることが多く、大きくくりっとした茶色がかった黒目に、大人びた卵型の輪郭をしている。
栗色に染めた髪はそのままだが、艶やかになっていて、流れるように肩にかかっている。
確かに見慣れた自分の姿だ。
元々、レイラは40歳という年齢よりも多少、若く見られることが多かった。
美容グッズの会社に勤めていたこともあって若いころから継続的に試作品を試していたのも理由の一つかもしれない。
肌は若い時から、紫外線を避け、保湿と血流をよくして代謝をうながしていると、年を取ってからの違いがでてくるのだ。というのは社長の受け売りだ。
だが若く見えると言っても40歳にもなれば、多少の変化はある。
それなのに、今のレイラはどう見ても20代前半に見えた。
しかも、激務の末にボロボロのヨレヨレだった髪も艶が出て、しっとりまとまっている。
レイラは鏡を指さしてパクパクと口を動かしながら、思わず答えを求めて、自分を抱き上げているラディスを見上げた。
「あ、わかりました。若くなった容姿の変化に驚いたんですね」
くすくすとシルファが笑う。
「俺には違いがわからんが」
「まあ、人間の年齢と見た目なんて、私たちからしてみれば些末な問題ですよね」
そういうと、シルファは色気駄々洩れの笑みを浮かべた。
ラディスはため息を漏らす。
「シルファ、説明してやれ」
シルファはレイラににこりと人懐っこい笑みを浮かべた。
「胸を一突き、血まみれで死にかけてましたよね?」
レイラは正面から魔族の男ともども光の槍に貫かれたことを思い出し、こくりとうなずいた。
怪我なんて生易しいものではなかった。
傷跡も痛みもないので、あれは夢ではなかったかと思ってしまいそうになる。
けれども体を光の槍が通過する痛みを通り越した熱さも、生臭い血の匂いも鮮明に覚えている。
「人間のままでは助かる傷ではありませんでしたが、ラディス様があなたの体を魔力で満たして陛下の眷属としたのです。陛下の眷属ならば胸を貫かれた程度では死にませんから」
「眷属って? 魔族って何?」
「はい。とても幸運でいらっしゃいましたね。人間の身のままではありますがラディス様の眷属となれたのですから」
彼の声音は優しいが、魔族が人間をどう思っているか、はっきりとわかるものだった。
「私の姿が若返ったのも?」
おや、冷静ですね、とシルファは感心したようにつぶやいた。
「私たち高位魔族は何千年もの間、肉体が最も美しく力を持つ全盛期のまま保たれます。あなたもラディス様の眷属として魔力の供給を受けるのでラディス様が死ぬまで、全盛期の肉体を保ち続けます」
まるで子供に言い聞かせるように、シルファは優しく言った。
まだすべてを理解したわけではないが、レイラはとりあえずうなずいた。
何千年……というか、ファンタジーな世界すぎる。
「私は4千歳をこえます。陛下はまだお若いですよ。1500歳を超えたばかりですから」
途方もない数字に、頭がついていかない。
頭がついていかないと言えば、まだお姫様抱っこは継続中で、降ろしてもらえていない。
とりあえず、今の自分の状況を正確に把握しなくては。
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