第2話 同盟結成
「リンダ」
「あれ、アレックス?」
唐突に声を掛けられて、ぎょっとして振り返れば、黒髪短髪で目つきが悪い男性に見下されていた。
いつの間にロナードの家に来ていたのだろうか。随分と久しぶりな幼馴染だ。
昔は家の近さからも身分の近さからも、リンダ、ロナード、アレックスの三人でよく遊んでいたものだった。
歳をとってもロナードとは仲の良さは変わらなかったけれど、アレックスには少し距離を置くようになってしまって、パーティーで顔を合わせる以外ではプライベートで会ったのも久しぶりだ。
先ほど自分がヘンリーを脅かしたのに、今度は自分の方がアレックスに同じ様な状況で驚かされたのがなんとなくおかしい。
「俺にもそれ一口のらせろ」
「へ?」
一口ってなんだろう。一瞬、思考が止まってしまった。
婚約者に浮気をされているという話をアレックスにも立ち聞きされてしまったようなのに、少々のきまり悪さを感じるが、アレックスの方がなぜか怒っているような顔をしている気がする。
「リンダ……忘れてないか? テレーゼ嬢の婚約者はアレックスなんだよ」
「えー……忘れているというより、知らなかった」
アレックスが婚約したような話は聞いたような気もするが、相手が誰か聞かなかったし。
わかっていないようなリンダに、ロナードのフォローが入ったが、それを聞いて、色々と理解をせざるを得なかった。貴方は私と同じ立場の人なのですね、と。
もしかしたら、婚約者の悪口を思い切り言ってたのを聞かれたかな。別にいいか。
「アレックスは、テレーゼ様が浮気? しているのは気づいてなかったわけ?」
「ああ、まったくな」
友人の家にたまたまきたら、知りたくもなかった衝撃の事実を知らされたということか。哀れな。
「えと、アレックスは私の方を信じちゃっていいの? テレーゼ様を信じなくて」
「さっきのお前の怒り具合を見れば、お前の方が信じられるだろ。テレーゼとよりお前の方が付き合いも長いしな。お前の嘘ついてる顔はわかるし」
そんなに私はそんな正直な顔をしていると思わなかった……。
ちゃんと裏も取るけどな、と言い訳っぽく言っているけれどアレックスの目が据わっている。これは相当怒っている顔だ。
「よし、じゃあ、手を組もう。目的は私はヘンリー、アレックスはテレーゼにこちらが非がない形として婚約破棄するためにお互い協力するってことでいいの?」
「それだけじゃないぞ。精神的、社会的にも抹殺するんだろ。ダメージをここぞとばかりに与えてさ」
がしっと二人で手を繋ぎ、そして同時に「ふふふ」と黒い笑いを漏らす。そして二人のそんな様子をぼーっと見ているロナードの手ももう片方の手で強引に掴んだ。
「ロナードが俺らのブレインだから」
「ええ、そうね。三人寄ればいい知恵も湧くでしょう」
三人で悪戯をする時は、いつもロナードが計画を立てて、そしてアレックスが実行し、そしてリンダが後始末をしたり謝ったりをする係だった。
いつの間にか自分もそんな珍妙な同盟に入らされてしまっていた、ロナードが目を丸くするが。
「なんで僕までが……」
と、遠い目をして嘆くしかなかった。
****
「まずさぁ、なんで君らがあんなのと婚約してるのってところから突き詰めようよ」
ロナードから言われ、期せずして二人してまるっきり同じ言葉が出た。
「親に言われた」
「あー、はいはい、典型的な政略結婚ですねー」
性的嗜好の問題で親に泣かれたとはいえ、それを親に認めさせ、愛する人との仲を勝ち得たロナードからしたらこの二人の素直さはあり得ないものだったりもするが、貴族だったらリンダやアレックスの方が普通だろう。
「じゃあ、発想を逆にしよう。ヘンリーの家のマルタス侯爵家とリンダの家のアナルトー伯爵家が結婚するメリットがなくなったら、婚約を維持する必要がなくなるよね。それなら婚約解消できるんじゃないの?」
「婚約解消だと生ぬるいんだけれど……」
「それを考えるのは後! 一度に色々しようとしないの。順序立てて考えるから!」
「たぶん、うちの方はあちらの侯爵家という家格狙いじゃないかな。向こうはうちの財産目当てで」
財政的に難あり侯爵家とそれなりに富裕な伯爵家の婚姻はあり得るだろう。
ふむふむ、とロナードがうなずき、それじゃアレックスは? とそちらを向く。
「うちは多分、同じ派閥同士だからじゃないかな。正直うちの伯爵家にメリットはあまり感じてないんだよ。母親同士が仲が良かったから、くらいなもんか?」
テレーゼはともかく、その母親は社交的なようだ。親がそれほど乗り気じゃないのなら、テレーゼの不貞を暴けば、アレックスはそのまま相手の責任で破談にできそうな気もするが。
「いわゆるあれか? 余り物同士でくっつけられたってやつか?」
「余り物いうなよ……」
アレックスがげんなりした顔をした。事実だけれど。
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