無感情の機械は花を知る
ただの枝豆
花畑
「ねぇねぇ、マリー。この花。可愛くない?」
作り物の容姿を持つ女の子が、荒れ果てた荒野の中で見つけたこじんまりとした花畑とやらでマリーという丸い機械に聞く
「リサよ。我らは心なき機械。花の美しさは人間のみが知っている。我らにはわかるはずもない」
「もう、旧型の機械は頭が硬いんだから、人間はとっくの昔に滅んだのよ?そんなんじゃ、答えが出ないじゃない。だから、私たちで答えを出すの」
マリーは少しノイズを走らせて、考え込む
「その答えには意味がない」
「じゃあ、私たちの存在だってもう意味がないじゃない。それにこれが私たちの求める『温もり』や『感情』に関係してるかもしれないしー?」
マリーは反論することができなかった
『温もりが知りたい』そう言って何台もの仲間が死んでいったマリーは、不要だと断言し損ねていた
そして、調べること十数分
「やっぱり、わからないわねー」
「だから言った。我らは心なき機械。わかるはずもない」
「私達からしてもただの花だもんねー」
リサという女の子型アンドロイドは、少ない花を一輪一輪ぷちりと摘んでいく
「個体名リサ。自然破壊行為は今すぐにやめるべき」
「いいじゃない、ちょっとぐらい」
「そう言って、人類は滅んだ」
「あれは欲望の塊の生き物だからでしょ」
そう言って、花を繋げていく
「できた!はい。花の冠。私のデータに残ってたの」
「私のデータにににもももも、残しておこう」
マリーのノイズが粗くなった
「どうしたの?」
「発生機能に異常をきたしている。修復中。……修復完了」
「なんだ、脅かさないでよ」
リサは胸を撫で下ろし、マリーを触る
リサからしては感触はなく何もないただ触っていることを機能が認識するだけ
「リサは、表現が豊か。いつか人間のようになれる」
「バカ言わないで。私は子供の相手をする用のアンドロイド。貴方みたいな精密作業型とは違ってある程度、感情の認識はプログラミングされてるだけよ。それに機械は自分で成長(アップデート)はできない。わかってるでしょ」
そう言って、リサはどこか冷めたように立ち上がり歩き出し、マリーは花冠を落とさないように移動を開始する
「私達、何で旅してるんだろうね」
「データに損傷が見受けられる修理しますか?」
「違うわよ。虚しいって意味」
「我は当機とは違い、言い回しは理解できない」
しかし、同時に羨ましくもあった
「本当に人類の生き残りなんていると思う?」
「確率は0.1%」
「仲間だって・・・私達以外死んじゃったのに続ける意味なんてあるの?」
「我らの使命は・・・」
「そういうのいい!!」
リサはあまりにも『感情的』に答えた
「私達で、私達二人だけでさ、どこかでひっそり生きようよ。マリーのバッテリーも残り僅かなんだからさ。そうだ!おっきなお花畑でも見つけてそこで生きよう!もしかしたら感情だって手に入るかもしれないし!」
それに、マリーは微笑むようにコロコロとあたりを転がる
「何がおかしいのよ」
「当機は、とても人類に似ていて嬉しい」
それにリサはにやにやと笑って聞く
「嬉しいも感情じゃないの?」
「解答不能(わからない)」
「つまんないー」
リサはスキップしながら、前へと進む
「当機は面白いがわかる?」
「解答不能(わからない)」
「人の言えたことではないぃぃぃぃぃ……」
マリーはいきなり止まってしまう
それは突然。いや、必然だった
マリーは旧型のアンドロイド
最新で最後に造られたリサの数十年ほど前に作られた機械
今まで稼働していたことが不思議なくらいだった
「え」
「移動機能。修理機能。共に故障。修理を求めます」
「私、修理なんてできないよ!」
「修理を求めます」
「できない!」
リサは慌ててあたりを見渡す
誰かマリーを助けてくれないかと
しかし、沢山いた仲間はとうの昔に停止してしまい、リサたちが生きる為の備品へと成り果てた
「当機へ告ぐ。我を……おっきな花畑とやらに連れて行って欲しい」
リサは慌ててマリーを抱える
そこには花の冠はなかった
「我はバッテリーも殆ど尽きている、これ以上生きるのは不可能。最低限の機能以外は停止する。最後の……お願いだ。我をおっきな花畑とやらに連れて行ってくれ。我も温もりを知りたい」
「嫌!行かないで!そんな所、私だって見たことない!」
「お願いぃだた」
リサは溢れもしない涙を拭く仕草をして、決意したような顔に変化する
「わかった。絶対見つける」
リサは走り出した
視覚機能を存分に使いあたりを見渡し、一所懸命に探す
しかし、見えるのは割れた水分のない大地、ガラクタ、濁りきった湖
それぐらいしか見つけることはできなかった
嗅覚機能、聴覚機能をフル動員しても
油臭い匂いと寂しい風が吹くばかり
この世界はとうの昔に終わってしまった
人類が自然破壊行為を続け、さらには新しい資源を使い、地球を壊滅させた
金持ちは火星へと移りそうでない者はこの地球に残された
残された者の資源は当然残っていない
食べる物も飲む物もなく、どんどん数を減らし
遂には見なくなってしまった
残された機械達は人類の保護と救済のためだけに動いている
そんなこの地球で花畑などという資源の塊はあるだろうか
いや、ない
あるはずがないのだ
しかし、リサは走る
探す
友の為、仲間の為
家族の為
友、仲間、家族は、とうの昔に停止した
残った物はリサとマリーの2台だけ
孤独。それが感情のないはずの機械をフル稼働させていた
「バッテリーの無駄遣い。今すぐその行動を止めることを忠告」
「うるさい!いいの!たとえ命がすり減って寿命が縮むとしても貴方のためなら」
その時、マリーは途切れそうな意識を必死で繋いでいた
マリーの視界にはバッテリー残量残り1%という文字が0と行ったり来たりしている
マリーは、リサに忠告したはいいものの最後に花畑が見たくて仕様がなかった
そのため、強く止めはしない
その『シナリオ』ではそのはずだった
必死で探すリサを見てマリーは心なしか微笑んだ
「もう……いい。命令。止まれ。最期の言葉だ」
リサの必死な表情
吹き出す熱気
本当にマリー。私が望んだ人間のようだった
「リサ。ありがとう。私は花畑を見つけた」
「え?」
赤くなる忠告を追払う
私は管理型のアンドロイド
大切なものを保管するためのアンドロイド
情報を並のアンドロイドより多く持ち、誰よりもアンドロイドを知る機械
私のデータでは、この個体名リサというアンドロイドはバグの塊
つまり、アンドロイドの中で最も人間に近い機械
そして、私はそれに感染されたようだった
「我。いや、私にとって当機が。君が花畑だ」
そう言って、私のバッテリーは切れた
すると、同時に施錠が全て外れ
大切なものが全て出て行く
リサは悲しみで焦点の合わない二つのカメラを擦りながら、それを手に取る
二人の写真
花の冠
バッテリー
この三つだけ、マリーの中に保管されていた
リサはバッテリーを手に持ち急いで、新しいバッテリーに交換させようとマリーを触るが
バッテリー交換口だけが固く施錠されたままだった
「嘘。嘘だよ。私をひとりにしないでよ」
マリーは、リサに最期の力を振り絞り音声を入力した
『リサ。私は、君といれてよかった。私に花(感情)を思い出をありがとう』
「マリーーーー!」
私は起動する
「ゃったぁ。旧人類の遺物が復旧したぞ!これで2人目だ!」
人類?
「おはよう。マリー。長いお眠りだったね」
リサ。
「まさかバッテリーを!」
「ううん。人類がまだ生き残ってたの。私が必死に数を増やしてここまでの技術を取り戻した。また一緒に暮らそ?」
ボロボロだった
私が長い年月眠っていたのがわかる
彼女は必死でこれまで生きてきたのだろう
彼女を人類ではないと、感情を持っていないと誰が言えよう
「喜んで。そして、ありがとう。私の花畑」
ブチンという音と共に私は、ガラクタへと変化した
無感情の機械は花を知る ただの枝豆 @EdamameSandanju
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