★俺は魔王だ

「陛下」

「ガタカ」


 ユキトは、転移魔法を使って現れた配下であり、自身をこの世界に召喚した魔物を見る。蛇のような肌に赤い瞳。

 初めて見た時は、思わず怯えてしまったことまで思い出して、髑髏の仮面の下で、彼は失笑する。


「情が沸きましたか?」

「そんなことはない」

「それであれば勇者を殺していただけますか?」


 ガタカは赤い瞳を冷たく光らせて、彼に問う。

 魔王としてユキトは5年近く過ごしてきた。

 思いのまま力を振え、馬鹿にされない。

 味方などいないが、虐めるものなどいない。

 そもそも攻撃されても反撃できる力がある。

 誰に頼らなくても、彼自身に力があった。

 元の世界に戻るなど、彼には考えられなかった。

 しかし、勇者は、あのミオだった。彼が仄かな想いを抱いた女の子。

 6年の間に身長が伸びていたが、あの顔立ち、瞳……。

 ミオに間違いはなかった。


「来ましたよ!さあ、あなたが殺さなければ彼女があなたを殺すでしょう。彼女もあなたを裏切ったのですよね?」


 ガタカにはミオのことを話したことはない。

 ただ元の世界の奴らに裏切られ、誰も信じられないと話しただけだった。


 勇者専用の鎧を身に着けたミオは剣を携え、ユキトへ向かってきていた。



 ーー海部野(あまの)


 あの時の少女は髪を伸ばしていて、風が吹く度にさらさらと揺らぎ、その度にドキドキしたことを思い出す。

 茶色の瞳はいつもキラキラ輝いていて、毎日憂鬱な気持ちで過ごしていた彼には眩しかった。

 盗み聴きしたミオとクラスの女子の会話が脳裏に響く。


「陛下」


 この世界に来たばかり、彼は少し怯えていた。そんな彼に安心感をもたらせたのは、ガタカだった。蛇のような肌に赤い瞳の人型の魔物。

 優しい言葉をかけることはないが、彼に力があることを教え、更に強くなるために力を貸してくれた。

 日本にいた時は裏切られたばかりだったが、この異世界に来て彼は唯一の味方を得た。


「殺す。俺は魔王だ」


 ミオも所詮彼を裏切ったのだ。

 表では彼に優しくしてくれたが、裏ではほかの奴らと同じように馬鹿にしていた。

 ガタカは何も言わず、ただ首を垂れるとその場から消えた。

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