『夜行さん』

やましん(テンパー)

『夜行さん』


 『このお話しは、あくまでフィクションであり、あらゆるこの世の中のこととは、一切、無関係であります。ただし、『首なし馬』伝承の存在は事実であります。』






 『夜行さん』という現象を伝えている地域は、けっこう、全国あちこちにあるようだ。


 わたくしの両親の出身地である、四国のとある町にも、その伝承がある。


 その後、同じ市内になっていても、町によっていくらかの違いもあるらしい。


 出現する時期も、地域によって、節分だったり大晦日だったり夜行日という特定の日だったり、いろいろなパターンがあるようだが、通る道筋はおかた特定の縄目筋といわれる、この世とあの世の境目を通る。


 また、首のない馬というところは、だいたい共通してることが多いが、馬さんだけだったり、乗っているのは、武士だったりお姫様だったりもするらしい。


 両親の話では、『大晦日の晩、首のない馬に首のない人が乗って、山から海に向かって降りてくる。それを見ると、病気になったり死んだりするので、通り道の家は、大晦日の晩は、雨戸を堅く閉ざすのだよ。』


 ということだったと思う。


 地域によっては、それがもともと何者だったのか、も、伝わる場所もあるらしいが、両親の話には、その正体は出てこなかった。


 子供ながらに、このお話は、大変に不可思議で、怖かった。


 いやいや、いまだに怖いと言うべきか。




 ある大晦日の晩、ぼくは、そういう伝説がある場所を、自動車で走っていた。


 はっきり言って、田舎道で、交通量も多くない。


 人が出ることも、めったにはない。


 しかし、その先には、それなりの街があった。


 で、つい、スピードを出し過ぎたのだ。



 まさか、ここに検問があるとは思わなかったのだが、後ろから猛スピードで追い上げてくるものがある。


 『ぴ、ぴ。ぴ。止まりなさ~い。』


 真っ赤な回転灯が輝いたので、これはまずかったかなあ、と、思い、停車した。


 すると、大きなお馬さんに乗っかった、警察官の方が現れたのである。


 しかし、なんと、その警察馬には、首から先がない。


 そうして、警官自体にも、首が無かったのである。


 ぼくは、一瞬、震えあがった。



 『あああ~~~あなた、急いでましたか? 免許証をはいけ・・・・・・おや。おわわわ。し、失礼しました、いいです。お気をつけて。』


 『え、いいの? じゃあ、すみません。』



 ぼくは、そのまま自動車を走らせた。


 路を間違うと大変なことになるので、きちんと縄目筋に沿ってゆかねばならない。


 ちょっとしたことから、ぼくは、ある人たちにほのかな恨みを抱いていたのだから。


 しかし、相手は偉い人たちで、いまさらどうにもできないから、こうして、定期的に竜星5号で街中を走りぬける。


 もう、そうなってからも、随分長くなった。


 まさか、警官の同類さんに出会うとは、思わなかったが。


 ある時に、聞いたところでは、あの馬さんも警官さんも、実はロボットさんなのだという。


 暴走運転に業を煮やした警察署の新兵器らしかった。


 それが、亡霊化したらしい。



 で、ぼくにも、首が無かった。



         **********


 ぼくは、街中に入った。


 もっとも、海に面するその街は、かつては非常に栄えたが、ある時、核攻撃で破壊され、いまは、山から海まで、もう砂漠のようになっている。


 いまや、節分や大晦日の晩などには、たくさんの、ぼろけた自動車に乗った首のない人が集まる。


 夜行さんの集結地点である。


 彼らの恨みは、けっして、浅くはない。


 それも、随分と、少なくはなってきたけれど。



       ♰     卍



 まあ、もっとも、わざわざ見に来る人も、逝った人の幸いを祈る人も、もう、誰もいなかったのだが。


 

 


    ***************


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

『夜行さん』 やましん(テンパー) @yamashin-2

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る