6話―炎の獅子、アシュリー
「全部で十四人、か。フン、なかなかの数が入り込んでおるのう」
「幸い、どいつも末端の職員だな。一人残らず取っ捕まえて、ブタ箱にブチ込んでやる!」
数十分後、教団の手先によってギルドに紛れ込んでいる密偵の正体が明らかになった。敵の素性が記されたリストを片手に、ダズロンはフンと息を吐く。
執務室に戻ったコリンとアシュリーは、成り行きを見守る。ここから先は、ダズロンの仕事だ。
「衛兵、倉庫にいる奴も含めてそいつらを帝国軍に引き渡せ! これからたっぷり、罪を償わせてやる」
「ハッ! ほら、着いてこい!」
教団の手先である男たちはお縄につき、憲兵の詰め所へ連行されていった。騒動が無事終わり、三人はホッと息を吐く。
「いや、助かったぞコリン。おかげでギルドに潜んでた密偵どもを把握出来た。あとは、連中を取っ捕まえるだけだ」
「わあっはっはっはっ! お役に立てたようで、わしとしても恐悦至極じゃ。教団の連中にも、一泡吹かせられようて」
「だな! さてと、俺は早速ギルドの浄化作戦を始める。ボウズたちは依頼を受けて来たらどうだ? 今の時期は討伐依頼がわんさか来てるはずだぜ」
「そうさせてもらうよ、オヤジ。行こうぜ、コリン。改めて冒険者デビューだ!」
「うむ!」
意気揚々と、コリンたちは執務室を後にする。一階ロビーに戻り、依頼を受注しようとして……集まっていた冒険者たちに捕まった。
「よお、見てたぜ坊主! あんなに強かったなんて思わなかったよ! さっすが、期待のルーキーだな!」
「ホントにギアトルク様の子どもなのか半信半疑だったけど、あんな凄い魔法見せられたら信じる以外にないわ! あたし、ファンになっちゃーう!」
「おああっ!? こ、これ! そんなに詰め寄られたら潰れてし……むぎゅう。アシュリー、ヘルプミー!」
「ったく、またかよ!? 毎回助けるこっちの身にもなれっての! おめぇら、コリンから離れろ!」
アシュリーが助けに入り、何とかコリンは難を逃れた。気を取り直して依頼が張り出されている掲示板に向かい、物色を始める。
「のうアシュリー、これなんてどうじゃ? シャドウヴァイパー討伐、五匹で銀貨六枚じゃぞ」
「ちょっとレートがよろしくないな、その程度は他の連中にやらせりゃいい。それより、これなんてどうだ? コリンのデビューにはピッタリだと思うけど」
コリンが提示した依頼をバッサリ切り捨てつつ、アシュリーは別の依頼が記された紙を指差す。そこに記されていたのは……。
「なになに、レッドドラゴンの肝集め? ふむ、それはいい。Cランクのわしでも受注出来るようじゃしのう」
「危険な魔物を相手にしないといけない分、報酬も豪華だぜ? 金貨八枚に、肝以外の部位を総取りだ。悪くないだろ?」
「うむ! ではこれにしようぞ!」
受け付けカウンターにて手続きを済ませ、二人はギルドを経つ。祈念すべき冒険者ライフが、今ここから始まるのだ。
街の外に向かいつつ、アシュリーは帝国全土が描かれた地図を広げる。地理に疎いコリンに、目的地を説明するためだ。
「いいか? 今回のターゲット、レッドドラゴンが生息してるのがこのクリガラン渓谷だ。帝都からは、だいたい馬車で半日くらい西に行ったとこにある」
「なるほど、ちと遠いのう。……ん? 北の方に随分と広い自治領があるのう。……なになに、『ウィンター家自治領』とな?」
「あー、ウィンター家についてはまた今度教えてやるよ。今は依頼に集中だぜ、コリン」
「じゃな。しかし、馬車で半日か。ちと面倒じゃな」
地図を眺めた後、コリンはそう呟く。半日もの間、馬車に揺られるだけなのは退屈らしい。
「しゃあねーだろ。飛竜便を使えばもっと早く行けるけど、常用出来る値段じゃないし。一回につき金貨二十枚かかるンだぜ? ボり過ぎだっつうの」
「なるほど。……ならば、
「アレ?」
「うむ。いい乗り物があるんじゃよ、ふふふ」
街の外に出た後、コリンに案内されアシュリーは人気のない草原に向かう。コリンはキョロキョロと周囲を見渡し、他に人がいないことを確認する。
「こんなトコに来て、一体何しようってンだ?」
「うむ、乗り物を呼び出すんじゃよ。結構な
コリンは空中に縦向きの魔法陣を作り出す。少しして、轟音と共に
草原をしばらく直進した後、Uターンしてコリンの元に戻ってくる。メタリックブルーの塗装が施された、流線型のボディが美しい……大型モーターバイクが。
「なぁ、コリン。これなんだ?」
「これはのう、わしの故郷にて最近発明されたキカイ仕掛けの乗り物じゃよ。魔力をエネルギーにして動く、ゴツくてイカした流行の最先端じゃ!」
「キカイ!? へぇー、話は聞いたことあるけど、本物を見るのは初めてだな! なあなあ、コレ触っていいか?」
「よいぞ。ただし、ハンドルはダメじゃぞ? 下手にいじると発進してしまうでな」
イゼア=ネデールには存在しない、異界の技術の産物を前にアシュリーは大興奮していた。バイクの周囲をぐるぐる回り、あちこち触っている。
「うひゃー、こりゃすげぇ! いいなぁ、こんなカッケー乗り物持ってるなんてよ」
「わし専用にカスタムされた特別製じゃ! さ、わしの後ろに乗るがよい。クリガラン渓谷まで飛ばすぞい!」
「おう! そうこなくっちゃな!」
コリンはシューティングスターと名付けたバイクに跨がり、アシュリーを手招きする。サドルの後ろ側に座らせ、魔力で作った固定ベルトで機体と身体を繋ぐ。
「ん? なんだこのヒモとベルトは」
「ソレで繋いでおかんと、走行中に放り出されてしまうからのう。パワーがありすぎるのが玉に瑕なんじゃよなあ、こやつは」
「ふぅん。ま、いいや。出発しようぜ、コリン」
「よし、しっかりとわしに掴まっておれよ。しゅっぱーつ、しんこー!」
「おおー!! ……おおおおおおお!? は、はやぁぁぁぁっ!?」
魔導エンジンが起動し、アクセル全開でシューティングスターが走り出す。馬の全力疾走をゆうに越える猛スピードで、西へと向かう。
二時間後、野を越え山を越え、二人は予定よりも遥かに早く目的地であるクリガラン渓谷に到着した。……が、アシュリーは早くもダウンしていた。
「あ、あんな速度が出るとは思わなかったぜ……。キカイの乗り物、あなどれねぇ……」
「どうじゃ、爽快じゃったろ? さあ、ここからはドラゴン狩りの時間じゃ! たっぷりと肝を集めようぞ!」
「だああ分かった! 分かったから引きずるなって! 自分で歩くから!」
バイクを魔法陣の中に帰した後、コリンはアシュリーの首根っこを掴んで渓谷の中へ入っていく。しばらく奥へ進んでいると、広い水場にたどり着いた。
ターゲットである深紅の鱗を持つ竜が、三体ほどがのんびりと水を飲んでいた。木の陰から、二人は竜たちの様子を窺う。
「ふむ、警戒もせずにのんびりしておるのう。どれ、一丁首を落としに……」
「いや、ここはアタイに任せなコリン。そろそろ、お前にアタイの実力を見せてやるよ」
闇魔法でレッドドラゴンたちを瞬殺しようとするコリンを制止し、アシュリーはニッと笑う。すると、右の頰に二重の円で囲まれた獅子の顔の紋章が浮かぶ。
「おお、それは……」
「見てな、コリン。【カーティスの大星痕】の力を。百獣の王、獅子の暴れっぷりをな!」
そう口にした後、アシュリーは水場に飛び出した。得物である槍を呼び出し、一番近くにいたレッドドラゴンに飛びかかる。
「食らえっ! フレアストライク!」
「グルッ!? ゴアァッ!!」
完全に不意を突かれたレッドドラゴンは、炎を纏った槍で喉を貫かれ絶命する。肝を傷付けると価値が著しく落ちるため、胴体は避けているのだ。
仲間が襲われたことに気付いた残りの二体は、唸り声をあげながら口の中に燃え盛る炎を溜めていく。アシュリーを消し炭にするつもりだ。
「グルァァァァ!!」
「ゴォォォッ!!」
「アシュリー、避けるのじゃ!」
「避ける? ハッ、その必要はねえぜ。コリン。どんな地獄の業火も、アタイを焼き焦がすことは出来ねえからな!」
灼熱の火炎ブレスが襲いかかるも、アシュリーは平然としていた。よく見ると、頬に浮かぶカーティスの大星痕が赤く輝いている。
「おお、本人どころか服も鎧も燃えておらぬぞ! これは凄いのう!」
「へへへっ。アタイのご先祖、ジェイド様は炎の槍使い! この程度のヌルい火炎なんざ、涼しい風みてえなモンよ! 食らえ! ワンハンドレット・スピアー!」
「グル……ギィヤアアァァ!!」
大きく力を溜めて飛び上がり、アシュリーは二体の竜の頭を連続突きで貫いた。巨体が倒れ、轟音が響き渡る。
「よっし、まずはこれで三体分だな。さ、解体するぞ! 手伝ってくれよな、コリン」
「うむ! わしに任せておくのじゃ!」
納品するための肝を確保するため、二人は解体用のナイフを手に竜の遺体へ近付いていった。
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