【20000PV感謝】少年魔術師の冒険譚~魔王の息子(八歳)は、最強の闇魔法で世界を救って成り上がる!~
青い盾の人
第1章―落とし子の魔術師と星宿す者たち
1話―闇の魔術師、大地に立つ
「ふっはっはっはっはっ! どうじゃ、見たか皆の者! これが偉大なる英雄の子たるわし、コリンの力じゃ!」
開けた草原の一角に、巨大な三つ首竜の死骸が横たわっていた。ソレの上に、一人の少年が乗って高らかに声を張り上げている。
周囲にいた人々は、少年を見上げ驚きと称賛の眼差しを向けていた。そのうちの一人、赤髪の女が小さな声で呟きを漏らす。
「はは……流石、自分で言うだけはあるぜ。まさか、トライヘッドドラゴンを一人で倒しちまうとはな」
彼女の視線の先では、少年――コリンが勝利のポーズを決めていた。
◇――――――――――――――――――◇
一時間ほど前に時はさかのぼる。帝国の片隅にある小さな町を、一人の少年が訪れていた。
使い古した黒い胸当てと茶色い毛皮のマントを身につけた、可愛らしい顔立ちが特徴的だ。
「ふーむ、ここがよいな。わしの野望を叶えるための第一歩を踏み出すのにはちょうどいい町じゃ。さて、冒険者ギルドとやらへ行くとしようかの」
どこか古風なしゃべり方をする少年は、お下げを結った長い黒髪を揺らしつつ町を進む。少しして、町の中心にある冒険者ギルドへたどり着く。
昼を過ぎたばかりだからか、冒険者の数はまばらで閑散としている。受付嬢たちも、どこか退屈そうに書類仕事をしていた。
「あそこが受け付けかの? では、早速行くとしようかのう。もし、そこのおねーさん!」
「あら、かわいいお嬢ちゃんね。どうしたの? 冒険ごっこかしら?」
受け付けカウンターの方へ向かい、精一杯背伸びしつつ少年は受付嬢に声をかける。……が、子どもがごっこ遊びをしに来たと思われてしまった。
「むー、失礼な! わしはこう見えても
「あら、ごめんなさいね。それで、一体どうしたのかしら、コリンくん」
性別を間違われたコリンはぷんぷん怒り、地団駄を踏む。その様子を微笑ましそうに見ながら、受付嬢は用件を尋ねる。
「おお、忘れるところであった。今日、冒険者の登用試験があるんじゃろ? わしにも受けさせておくれ!」
「ええ? ……失礼だけど、ぼうやいくつ? ギルドの規定だと、試験を受けられるのは十歳からなのよ」
「む、なら問題ないのう。昨日、ちょうど十歳になったらからの!」
「そう? ならいいわ。はい、この用紙に必要事項を書いてね。もし自分で書けないなら代筆してあげるけど、どうする?」
「問題ないぞ、自分で書けるでな」
受付嬢から用紙と羽根ペンを受け取ったコリンは、近くにある椅子に座り必要事項を書き始める。近くにいた冒険者の男と世間話をしつつ、用紙を埋める。
「へぇ、こんな小さいのに冒険者になろうって偉いもんだなぁ。俺がガキの頃なんて、遊ぶことばっかり考えてた悪ガキだったのに」
「わしには夢があるからのう。それを叶えるのには、冒険者になるのが一番手っ取り早いんじゃ。……よし、おねーさん、書けたぞ!」
「頑張れよ、応援してるぜ!」
書き終わったコリンは、意気揚々と受け付けカウンターに戻った。用紙を提出し、誇らしげに胸を張る。
「はい、どれどれ……あら、あなた闇の魔法が得意なの? 珍しいわね、もしかしてあなた星騎士の加護があるんじゃない?」
「む? その星騎士とはなんぞや」
「知らないの? 珍しい、今時そんな人いるんだ。じゃあ、招集の時間になるまで暇潰しに教えてあげる」
コリンの問いに、受付嬢は目を丸くする。受付の奥にある柱時計をチラッと見た後、そう答えた。
「昔々、この大地……イゼア=ネデールを邪神が襲ったの。その時、人々を守るために立ち上がった、十二星座の加護を受けた十二人の騎士たちがいたのよ。その騎士たちを、十二星騎士と私たちは呼んでるの」
「ほう、凄いんじゃのうその騎士たちは」
「ええ。特に、星騎士のリーダー……フリード・ギアトルクは闇の魔法に熟達した魔術師だったと言われているわ。伝承では、子孫を残さずにこの大地を去ってしまったんだけど……」
「む?」
「……あなたがギアトルク様の末裔、だなんて都合のいい話はないわよねぇ。あ、そろそろ登用試験の時間よ。こっちに来て、会場に案内してあげる」
「うむ、ありがとうじゃおねーさん!」
コリンは受付嬢に連れられ、ギルドの奥にある部屋へ向かう。部屋に設置された魔法陣に乗ると、町の外にある草原に転送された。
草原には、他にも多くの冒険者を志望する者たちが集まっているようだ。
「おお、広い草原じゃのう。わし以外にも、二十人近く試験を受ける者がおるようじゃの」
「ええ。いつもはこの半分もいないんだけどね、今日は特別なの。だって……」
「お、皆もう集まってンな! 時間厳守は冒険者の基本、ちゃんと出来てるな、よしよし」
少しして、数人のベテラン冒険者を引き連れた試験監督が転送されてくる。燃える炎のような真っ赤なショートヘアと鎧が目を引く、勝ち気そうな女性だ。
「全員せいれーつ! アタイはアシュリー・カーティス。十二星騎士が一人、『獅子星』ジェイド・カーティスの血を引く末裔だ! んで、今回の登用試験の監督をさせてもらうSランク冒険者でもある。よろしくな!」
「おお、すごい歓声じゃな。なるほど、あの者
大歓声を受けるアシュリーを見て、コリンは意味深な一言を呟く。同伴していた受付嬢は、声援を送るのに夢中で気付いていない。
アシュリーは全員を整列させた後、今回の試験の内容についての説明を始める。志望者たちは、熱心に彼女の言葉に耳を傾ける。
「今回は、実戦形式での実技試験を行う! この巨大砂時計の砂が落ちきるまでに、周囲一帯にいる魔物どもをぶっ倒してこい!」
「君たちには、この多機能型
「ってわけで、時間までに多くの魔物を倒した上位八人を合格とするぜ! ちなみに、この辺はザコい魔物しかいねえ。お前らでも安心して狩れるから、心配はいらねぇぞ! んじゃ、一人ずつ取りに来い」
補佐役のベテラン冒険者と交互に試験内容を説明した後、
「お? へぇ、珍しいな。ちびっ子が試験を受けに来るなんてよ。お前、名前は?」
「わしはコリン! よろしく頼むぞ、試験監督殿」
ペコリと頭を下げ、コリンは石を受け取る。アシュリーは、意外としっかり受け答えするコリンに好印象を持ったようだ。
「ははっ、んなかしこまンなって。もっと気ィ楽にしなよ。よし、今から試験を始めるぜ! さあ、はじ……」
「グギァァァァァァオ!!」
「!? な、なんだ!? この叫び声は!」
「あ、あれを見ろ! あれは……トライヘッドドラゴンだぁぁぁぁ!!」
試験が始まろうとした、その時。耳をつんざく雄叫びと共に、遥か遠方より一体の竜が飛来する。白銀の鱗と三つの首を持つ、上級モンスター。
高ランクの冒険者でも命を落とすことがある危険な竜が、突如襲来したのだ。
「嘘だろ、なんでこんな町の近くに!? お前ら、急いで魔法陣を起動させろ! 全員を逃がすんだ!」
「ダメです、アシュリーさん! 魔法陣が反応しません!」
「なんだと!? チッ、なら仕方ねえ。お前らは新米予定の奴らを守れ! アタイがあいつを」
「のう、試験監督殿。ここはわしに任せてくれんかのう?」
急いで迎撃の準備をと、仲間に指示を出すアシュリーにコリンがそう声をかける。とんでもない提案に、アシュリーたちは驚いてしまう。
「はあ!? いや、無理に決まってンだろ! アレはアタイらでも下手すりゃ死ぬ相手だ、お前じゃ……」
「やれるとも。『
アシュリーが止めるのにも関わらず、コリンは前へ進む。すると、少年の額に二重の円に囲まれた、山羊の横顔を模した紋章が浮かび上がる。
それと同時に、濃い闇の魔力がコリンの全身から溢れ、周囲に満ちていく。凄まじい魔力を前に、アシュリーたちの動きが止まった。
「なっ……!? なんつー魔力だ。あいつは、まさか本当に……伝説の星騎士の末裔なのか!?」
「グルァァァァァァ!!」
一方、トライヘッドドラゴンは三つの口を大きく開き、炎をたぎらせる。灼熱のブレスで、全員纏めて消し炭にするつもりなのだ。
「ふん、たかが三つ首竜風情がわしの前に立つでないわ! 闇魔法、ダークネス・ウォール!」
「す、すげぇ! 炎のブレスを完璧に遮断してやがる! お前ら、今のうちに下がれ!」
コリンが魔法を展開すると、彼の目の前に闇の壁が現れる。凄まじい威力と熱量を誇る竜のブレスをモノともせず、完全に防いでいた。
「グルッ!? グルアアッ!」
「愚かな、肉弾戦なら勝てると思うたか? ムダじゃよ、何者もわしを止めることなど出来んわ! 闇魔法、スカイハイブーツ!」
炎を受け止められた三つ首竜は、ムチのようにしなる尾を振り下ろしコリンを叩き潰そうとする。が、ほれよりも早くコリンは宙高く跳躍した。
右手を頭上にかざし、大量の闇の魔力を集めて凝縮させ……巨大な槍を作り出す。狙うは、竜の胴体だ。
「見せてやろう。わしが星騎士の血を継ぐことの証たる、厄災の魔術を! 闇魔法……ディザスター・ランス!」
「ギィッ……ギャアアアアア!!」
放たれた槍は、分厚く頑強な鱗を貫き竜の胴体に風穴を開ける。心臓が消し飛んだ竜は、そのまま地に落ち息絶えた。
「す……すげぇ。すげえよ、あんな魔法見たことねぇ!」
「マジか……伝承に語られる、ギアトルク様の魔法とまんま同じだ! あいつ、本当に星騎士の末裔だったんだ!」
コリンの活躍に、草原にいた者たちは歓喜の声をあげる。息絶えた竜の亡骸の上に降り立ったコリンは、嬉しそうに高笑いをする。
「ふふふ。このわしが創る伝説の幕開けに相応しい、華々しい戦果を挙げられたわい! わぁっはっはっはっはっはっ!」
この時、まだ誰も知らなかった。小さな身体に大きな野望を抱く少年が、世界を襲う災いに立ち向かい……新たなる伝説を生み出すことを。
この日、運命の歯車が――ゆっくりと、回り始めようとしていた。
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