閑話 蒼たちとJクラス1
さて、決闘の件も一通り落ち着いたわけだが、俺と宗一郎にはひとつ大きな仕事が残っていた。
「はぁ、これで最後か……」
「間違ってもそんなテンションで行くなよ? みんな楽しみにしてくれてるんだから」
「わかってるけど、流石に忙しすぎない?」
「まぁ、それはそうだけど……」
俺と宗一郎は同時にため息を吐いた。
決闘が終わってからここ一週間くらいはずっと大人の人との会談だったり、学園でのクラン戦や決闘を事務的にこなすハメになっていた。
一眼でも良いからティアたちを見たいと思っている人は予想以上に多かったようで、寮の前で出待ちされていたり、会談の最中に喧嘩をふっかけてくるようなバカもいた。
さっき俺はこれで最後と呟いたわけだが、これからもっと忙しくなっていくと思うし、それを考えると少しだけ憂鬱である。
俺が望んでいたのはこんな生活ではなく、女の子にチヤホヤされる世界線だ。
誰が好きでおっさんを相手にしないといけないんだ。
でも、学園の女の子たちはみんなティアたちに勝てるわけがないとか、そもそも朱音たちが周囲にいるせいで俺に寄ってくる気配すらない。
俺以外の宗一郎や湊、龍之介とかは順調にチヤホヤされているのに……
「特に、あの二人ひどくない? なんで彼女作ってんの?」
「二年の十傑の先輩らしいよ。この前告ったらしい。そしたら見事にオッケーもらったんだって」
「ずるい! なんで俺にはそれがないんだっ!」
「お前もこの前朱音に告白されてただろ。断るお前が悪い」
「……だって、まだそんな風に見れないんだもん。付き合いたいから適当にオッケーして良いようなやつじゃないんだよ」
「当たり前だ。そんなことしたら俺がお前を殺してる」
宗一郎は真剣にそう俺に伝えた。
わかってる。俺もこいつの気持ちを知ってるからこそ……
いや、それは卑怯だな。
あの場で保留にしてもらったのは俺の意志だし、朱音もそれを了承した。
俺がこれからすべきなのは、朱音のことを、他の仲間たちのことをもっとしっかりと見て、そして答えを出すことだ。
道化は道化らしく立ち回らないとこの物語は成立しないからな。
「っていうか、それで言ったらお前も毎日のように告白されてるだろ。ずるいぞ」
「本音が漏れてるぞ。一応まだ俺が十傑第一席だからね。それに惹かれてるんでしょ?」
ティアたちの存在が発覚した以上、一定数俺を第一席にさせたがる人たちもいたが、俺は宗一郎みたいにリーダーシップがあるわけでもなければ、見ず知らずの誰かを救うようなこともしたくない。
要は、役割的に俺よりも宗一郎の方が適任なのだ。
宗一郎はその第一席によってモテてると言っているが、絶対に顔とか性格の良さとか諸々の方が理由として強いはずだ。
ぐぬぬ……なんか負けた気分だ。
「まぁまぁ、とりあえず今は目の前のことに集中しようよ。今日は蒼がメインなんだからね?」
「わかってる。あの時はJクラスの人たちには迷惑かけたしな。その責任くらいは持つさ」
そう、今日は以前授業中なのにも関わらず加藤翔太の一件で教室に喧嘩を売りにいった時の埋め合わせをする予定なのだ。
あの時は社交辞令っぽく指導してあげるといったのだが、意外とみんな楽しみにしているらしいので、俺と宗一郎は改めて時間をとったと言うわけだ。
最下位クラスではあっても、獅子王学園の生徒ということで、向上心はあるらしい。
加藤翔太を除いた全員が参加するそうだ。
ちなみに、あの一件から加藤翔太は学園に姿を見せていない。
まぁ気持ちは分からなくもないが、自分が蒔いた種でもあるので、自分でなんとかしてもらおう。
物語の主人公ならここで手を差し伸べるのかも知れないが、あいにくと俺は主人公じゃない。
みんなを笑わせる道化である。
「加藤くんは俺がなんとかして見せるさ。お前はお前らしくいてくれたらいいよ」
「ありがとな。俺が行くと逆効果だろうし」
「だろうな。それこそ役割分担だろ? お前は今からみんなに少しでもアドバイスをしていくのが仕事だ」
引き受けたからにはしっかりと全員にアドバイスをしてあげたい。
なので、俺は毬乃さんに無理言って訓練場のひとつを貸し切らせてもらった。
あれだけ一週間働かせたのだからこれくらい許してほしい。
それを聞いた毬乃さんはニヤニヤ笑いながら「お人好しだな」なんて揶揄ってきてた。
普通にイラッとしたね。
俺はこれで可愛くて優しい女の子にモテモテになりたいだけだ!
さっきの話に戻るけど、湊と龍之介が羨ましすぎて涙が出てくるよ。
学園内でデートしてる姿を見たら邪魔しに行こう。
そんなことを宗一郎と話ながら訓練場に向かうと、すでに全員集まっているようだった。
さて、頑張りますか!
道化な僕とギャルな君 月うさぎ @Moonrabbit0403
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