第79話 最強降臨4

 決闘も終盤。

 もう俺たちの勝ちはほぼ決まったようなものだと思う。


 だから、このままティアたちに任せて全てを終わらせてもよかった。


 だけど、最後に俺は俺の筋を通す必要がある。


「どうせ十傑に入ったのもアウラのおかげだろっ! 俺にも、運さえあれば……」


 まだ現実を見れていない加藤翔太。

 俺もまだまだ子供だけど、目の前にいる男を見ていると、少しは俺も大人になったなと思う。


 別に、加藤翔太が子供で、少しやんちゃくらいなら俺だってここまで徹底的に潰さないし、そもそも興味を持つことすらなかった。

 だけど、こいつは朱音に手を出した。

 それだけは俺がケリをつけないといけないと思うんだ。


「ベラベラうるさいな。勝負に乗ってやってるんだから、さっさとかかってこいよ」


「くっ! 死ねっ!」


 加藤翔太は俺の不意を打つように魔法を撃ってきたが、俺はそれを相殺する。

 火属性の上級魔法なんて、加藤翔太は使えなかったはずだが、ふと相手の腕を見てみると魔力を増幅させる魔道具と、あらかじめ魔法の式が入っているブレスレットが目に入った。


「それだけか?」


「まだだっ! 俺はお前から全てを奪う! あのアウラたちも、女も全部だっ!」


「子供か。そういうのは人から奪うものじゃない。自分で勝ち取るものだ」


「ハッ、最初から恵まれているやつはいいな! 俺たち最底辺のクラスを見てもまだそんなことが言えるか?」


「今のお前よりかはみんな向上心があってよかったけどな。少なくとも、あの中に人の仲間を無理矢理家の権力を使って奪うような奴はいないさ」


 俺は加藤翔太に話しかけながらも、全ての攻撃をあえて相殺させる。

 以前の模擬戦で宗一郎の魔法を相殺したこともあったが、同じ威力の魔法をぶつけるのは結構な技術と神経を必要とする。


 それをわかった上で、俺は加藤翔太の魔法を全て相殺していく。

 徹底的に、相手の気力が尽きるまで。


「もう終わりか? 高そうな魔道具も意外と大したことないんだな」


「クッ」


 まぁあれだけ上級魔法をポンポン撃ってると魔力切れにもなるだろう。

 加藤翔太は膝に手をついてしんどそうに息を荒げている。


 一方俺はまだまだ余裕だ。


 贈り物も一切使ってないし、魔力もほとんど使っていない。

 ここで俺が魔法を打つか、なんなら加藤翔太が自ら降参をしようとしているが、俺はそれを許さない。


 俺は道化だ。普段は怒ることはないし、ピエロは泣いたり怒ったりはしない。


 普段はこの物語の主人公は相棒に任せている。


 だけど、今日だけは、この瞬間だけ俺はピエロの仮面を脱いで正々堂々主人公になろう。


「もういい。俺のま……」


「待てよ。今度は俺の番だ。歯食いしばれよ!」


 俺はそういうと、魔力も何も纏わずに加藤翔太の顔面目掛けて思いっきり殴りかかった。

 当然、俺の手も痛いけど、それでいいんだ。


 今回の件は加藤翔太も悪いが、それ以外にも反省すべき人はたくさんいる。

 後で朱音に説教をするのはもちろんだが、俺もその中の一人だ。


 だから、これでいいんだ。


 加藤翔太もまさか素手で殴られるとは思っていなかったのか、痛みがくるよりも先に驚いている様子だった。

 思いっきり殴ってみると意外とスッキリした。


 うん。これ以上いじめるとそれはそれで可哀想だし、最後に加藤翔太含め、この映像を見ている大人たちに向かって叫ぼう。


「これで終わってやる。今回はお前を含めこれ以上責任を追求することはない。だけど、今度俺の大切な人に手を出してみろ。俺の全てを使って絶対にお前を潰す。わかったか?」


 殺気と覇気を全力で出して、加藤翔太をこれでもかというくらいに脅しておいた。

 これで、今度から馬鹿な真似はしてこないだろう。

 朱音に気があるなら、他の方法でアタックして欲しいもんだ。


 まぁ、多分宗一郎や龍之介辺りからはもっとやってよかったのでは?と言われると思うけど、俺もこいつもまだ一学生だ。


 間違いはたくさんするし、一つのミスで全てをダメにするのは可哀想だ。


 二度目はないけどね。


「あぁ、あとこれを見ている大人の皆さん。今後、俺たちに何かする気なら容赦しませんのでそのつもりで。今回の件も、少し悪ノリが過ぎますよ?」


 俺からは見えていないけど、きっと向こうでは複雑な雰囲気が流れているはずだ。

 総理大臣や、軍の総帥も見にきていたしね。

 ただ釘は刺しておいたので、これ以上の面倒ごとは柊木先生と葛城先生に任せよう。


 毬乃さんにも……あの人はなんだかんだで面倒ごとを押し付けてきそうだからやめておこう。


「蒼、終わった?」


「うん。みんなありがとう。俺の戦いは一旦終わったよ」


「そう、ならよかったわ。これで、私たちも堂々と蒼とデート出来るわねっ!」


「うむ、妾も蒼と日本でデートしたいぞ。魔界と違って娯楽も豊富だしな」


「僕もっ! クレープ食べに行きたい!」


「私は蒼さまの側に入れるだけで幸せです」


「私は図書館に行きたいわ。今度付き合いなさいよね」


 ティアたちは口々に言っている。

 まぁ、確かに今回はたくさん力を借りたし、俺も彼女たちを労うとしよう。


 とても騒ぎになりそうだけど、それこそ今この場に来ている総理大臣や偉い人に融通を効かせてもらおう。

 

「まぁ、ともかくみんなありがとう。あとは俺がやるから帰っても大丈夫だよ?」


 俺がそういうと、みんな少し悩んだふりをしながら一向に帰ろうとしなかった。


「ん? どうしたの?」


「ちょうど日本の偉い人がこの場にいるんでしょ? どうせなら、蒼とデート出来るように頼めないかしら?」


「交渉材料なら僕が世界樹の果実を持ってくるから問題ないしね〜」


「なんなら、魔界からも土産を持ってこようか?」


 うん。彼女たちも俺と同じこと考えてたみたい。

 まぁ、ティアたちもノリノリみたいなので、このまま勝利の凱旋と行こうかな。


 戻った時の宗一郎たちの顔が楽しみだ。

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