第77話 最強降臨2

 ティアたちが召喚されてからしばらくは蒼以外皆頭を上げることが出来なかったが、ティアたちが圧力を弱くしたおかげでだんだん落ち着きを取り戻してきた人が増えてきた。

 それでも、日本の獅子王学園に各世界の最強が現れたことが信じられないようで、蒼と対面している加藤たちはもちろんのこと、観客席にいる者たちにも大きな混乱を呼んでいた。


「あ、あれは……そうだ! あれも人工アウラだっ! 偽物に間違いない! ハッタリだっ!」


 加藤であっても、蒼の元に集結した五人の乙女たちの存在は知っているようで、いまだに信じられない様子だった。

 普通に考えて、ティア、ロキ、アーニャはそれぞれ宗教の信仰対象にもなっているので、レプリカなんて創ろうものなら即刻宗教戦争にまで発展してしまうので、ありえない話なのだが、それ以上に目の前に広がっている光景を信じたくないようだった。


 まぁ気持ちもわかる。


 今日の出来事は間違いなくこれからの歴史を大きく動かす部類のものだ。


 厄災級という領域を超越した唯一の存在である三人。

 決してわかり合うような存在ではないとされてきたのにも関わらず、今は三人とも一人の青年のために姿を表したのだ。


「それで蒼、もう始めちゃっていいのかしら?」


「うん。徹底的に潰してきて」


「うむ。妾も、あのレプリカには興味があるからの。せいぜい楽しんでくるとしよう」


「僕もいくよ! 精霊や妖精をこんなくだらないことに使うなんて、僕許さないからね」


「「「ヒィ!」」」


 アーニャは静かに怒りを含めてそう告げると、加藤の陣営の助っ人たちは一キロ先なのにも関わらずその威圧に怖気付いてしまっている。

 アーニャからしてみれば、幻界の精霊たちを無理矢理使役していることに許せないのだろう。


 人一倍優しいアーニャだからこそ、仲間に危害を及ぼすものを許せないのだ。


 それとは別に、ロキやティアもあの人工アウラに興味を持っているようなので、今から改めて蒼が指示を出さなくても勝手にうまくやってくれるだろう。

 蒼も、それをわかっているので、無防備な状態で、一歩ずつ加藤の方に歩みを進めて行く。


「グルルルルルルっ!!」


「ふふっ、私の相手は犬っころってわけね。分を弁えなさい。犬のレプリカが、私に向かってくること自体が不敬よ」


 まず初めに、相対したのはティアとフェンリルのようだ。

 フェンリルは、圧倒的に自分よりも格上の相手に必死に威嚇しているが、ティアは笑みを崩すことなく、その一言でフェンリルを吹き飛ばした。


「せっかくだから、少しだけ私の力を見せてあげる」


 ティアはそう言うと、自身の神格をわざと周囲に放出しながら、一つの現象を起こした。


「『消滅せよ』」


 次の瞬間、フェンリル含め数十体のアウラが大量の魔力を放出しながらこの異界から消滅してしまった。


「なっ⁉︎ 何が起こった!」


「あなたのフェンリルを消滅させただけよ。ちなみに、あのレプリカは二度と使えないと思うわ」


「そ、そんな魔法……」


「残念。私のは魔法じゃないわ。権能って分かるかしら?」


 『権能』。 

 一部の神だけに許された、特別な力である。


 ティアは魔法を使わない代わりに、この権能や他の力を使うのだ。


 創造神であるが故に、破壊行動は得意な分野ではないのだが、それでも厄災級を超越した存在。

 レプリカの人形を消しとばすくらい造作もないことなのだ。

 

 一方、権能などという力を知っているはずがない加藤は、ティアの言っている意味が全くわからずただ自慢の人工アウラが破壊された事実だけを突きつけられ、すでにパニック状態になっていた。


「加藤様っ! ここは私が参ります!」


「あら? あなた、私を前にしてその態度は不敬なんじゃないかしら?」


 ティアがそういうと、加藤の護衛に入った女性は思いっきりひれ伏す形へとなってしまった。

 勢いがありすぎて、骨が折れていてもおかしくないのだが、今のティアにそれを配慮する優しさはない。


「あ、貴方様は創造神様のはず……で、あれば、私たち人間は等しく愛する対象なのではないのだろうかっ」


 ティア、もといティアマトはこの女性の言う通り創造神だ。

 昔の歴史書からも分かる通り、ティアは過去に何度もロキやアーニャ、そして他の世界でも人族を守るために戦争を起こしてきた。


 それは、ティアの眷属が人の形をとっているものが多く、人間というのもティアによって創造されたからである。


 これは事実で、加藤の護衛の女性はよく勉強していると思う。


 しかし、一つ大きな間違いがあった。


「えぇ、確かに人間は皆平等に愛していたわ。でもね、今は優先順位が変わっちゃったの」


 ティアは先程とは違った、可愛らしい笑みを浮かべるとそのまま視線を蒼の方へと向けた。

 その顔は、どの芸術品よりも美しく、尊いものであり、同性である護衛の女性ですら見惚れてしまう光景だったが、痛みによってすぐに現実へと連れ戻された。


「クッ……何であんな中身のない男に……」


「加藤様っ! それ以上は……」


 一連の流れを見て、加藤は苦々しい顔をしながらそう毒吐いたが、それが非常に不味かった。

 護衛の女性がすぐに止めに入ったが、もう遅い。

 天界の最高権力者であるティアマト。絶対に怒らせてはいけない存在であり、そもそも彼女に口答えしていい存在は少ない。


 当然、加藤にその権利があるはずもなく、誰がどう見ても、加藤はティアの地雷を踏んでしまっていた。


「それをあなたが思うのは勝手よ。でも、私の前で蒼を愚弄したその意味、分かるわよね?」


「ヒィッ!」


「えぇ、怒ったわ。蒼を馬鹿にして、無事でいられると思わないことね。ロキ、アーニャ、リオン下がってて。ミカエル、ここに天界の天使や神を全員呼びます。いいですよね?」


「いいわけないでしょう! そんなことしたら、蒼さまに迷惑がかかってしまいます!」


「だって、この子蒼のことバカにしたのよ! 私許せないわ!」


「ふむ、ならいいでしょう。私の旧友も呼ぶので、この世界ごと潰しましょうか。蒼さまのご友人だけ救えば問題ないでしょう」


「いいわけないであろう。ほれティアよ落ち着け。あとは妾とアーニャ、リオンの三人で片付けるから二人は下がっておれ」


 あと一歩で本当に天界の門が開かれそうになったが、その前に破壊神ロキが助けに入った。

 ロキの介入に、護衛の女性は安心したように息を吐いたが、それが間違いであることをミカエルだけが知っている。


 彼女も厄災級を超越した存在。


 まだまだ地獄は続く。


「ふふっ、次は妾の番だな」

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