第27話 透の力4
「お任せあれ」
俺は最後にニコッと笑うと透がギリギリ反応できるかできないかの速度で接近し剣を振るった。
さっきの話をしている間に、剣にはバフを永遠とかけてもらっていたので、さぞかし反応するのが大変だろう。
「っ⁉︎ あっぶな。未来予知をしても反応がギリギリっ!」
「そりゃよかった。動体視力をもっと鍛えてもらおうかな。ほら、反応しないと死ぬよ?」
「ぐっ! 負けない!」
透は悔しそうに顔を顰めているが、その間も俺は攻撃の手を止めない。
圧倒的な速度の代わりにある程度はパワーを犠牲にしているので思っている以上に攻撃を交わすのには苦労しないはずだが、そもそも反応するのが難しいため透にするとかなりのストレスだろう。
「くっ! 今度は力押し⁉︎ いくらなんでも多才過ぎないかな⁉︎」
「悔しかったら魔眼でどうにかしてみたらいいよ。俺よりもバリエーションはあるんだし、それくらいできないと十傑入りは難しいね」
「言ってくれるね! 体が壊れたら治してよね!」
透はそういうと、先ほどよりもさらにギアを上げたのか周囲の空気が一変した。
そう、言うなればさっきまでは動が主体だったが、今度は静を主体に戦っていくみたいだ。
空気が張り付いている。多分、ここで下手に動くと今の俺でも反応できないほどの攻撃が出てくるはずだ。
かと言ってこのまま何もしないでいるといろんなところに罠を張り巡らされるし……となればやることは一つ。
「一点突破だな!」
「ふぅ……そこだぁぁぁぁぁぁ!!!!」
俺が動いた瞬間、透の目がカッと開き本当に俺にも反応できない速度で切りかかってきた。
うん。これは俺無理なやつだ。
0,1秒も経たないうちに俺の首と体がお別れしてしまう未来が見える。
っていうか、もうすでにしてるね。
……偽物はね。
「残念。それは偽物だよ」
「なっ⁉︎」
一応透の全力の一撃が見たかったので技に引っ掛かる必要があったけど、それは本物の俺である必要はない。
ちょっと生気と殺気を込めた幻影を作って透の前に放り込むだけで、極限状態で一点しか見えていない透は簡単にハマってしまったのだ。
今回は真正面から戦ったけど、もともと俺の役割は道化だ。
敵を嵌めるとなれば俺より優れているやつはいないと思う。一対一の駆け引きは俺の領域である。
「はい。これで終わりっと。最後の一撃は威力は高いけど割と敵に利用されやすいから改善した方がいいね」
「……みたいだね。ごめん反省会はちょっと待って。落ち着くまでに時間かかりそう」
「了解。俺も久しぶりにこんなに動いたしクールダウンしてくるよ」
透は贈り物のせいで興奮しているので今まともに話を聞いても頭に入ってこないのだろう。
しばらく大人しくしてると勝手に興奮状態は冷めると思うから、その間に俺もタオルを取ってこようかな。
「お疲れまさです蒼さま。とてもよかったですよ」
と思ったらすでにミカエルが俺と透用のタオルを用意していたみたいでふわふわのタオルを渡してくれた。
うん。気持ちいい。
「ありがとう。ただ俺もサボり過ぎててこれ以上は危なそうだ。こっそりみんなに協力してもらっていつでも全力で戦えるようにしとかないとね」
「ティア様たちも喜ぶと思いますよ。そうですね……善は急げということで、今日の夜から始めますか。ティア様たちに知らせてきますね」
「あ、ちょ……」
俺は軽く呟いただけのつもりだったけど、ミカエルたちは本気で楽しみにしているみたいでこれから毎晩トレーニングをすることが決まってしまった。
まぁ、彼女たちも動きたいのはわかるけど、俺でも理解不能な異次元バトルが始まるのでちょっと怖いんだよね。
ただ俺が唯一本当の全力で戦えるのはティアたちだけなので適任と言えば適任なんだけど……
「ありがとう。落ち着いたよ」
「そうか。じゃあ早速反省会なんだけど……」
「その前に、さっきの私は今すぐ忘れること。ちょっと恥ずいんだよね」
透はバツが悪そうにそういうが、サバサバ系のクール女子が急に豹変するのは非常に良きなので絶対に忘れてやらないぞ。
結局その後、透の話は有耶無耶にして先程の戦いの振り返りをすることになった。
俺も少し舞い上がり過ぎたけど、最初の一戦ということもあっていろんな部分が拙かったのでそこを重点的に今後は鍛えていく形になる。
まずは一番透の戦い方の核になるであろう贈り物の『魔眼』の取り扱いである。
「できることなら慣れるまでは常時魔眼を発動した状態で生活してくれるといいんだけど、大丈夫?」
「大丈夫だけど、これ結構疲れるんだよね」
「だろうね。だから一番最初の目の色が変わらない状態でいい。疲れたら解除してまた余裕が出てきてからでもいいからね。あと、午後の実技の時間はバレない程度に魔眼を使うといいと思うよ。未来予知だけ使うとか」
「なるほど……それもありだね。わかったできる限り頑張ってみる」
今透に必要なのは魔眼に慣れることだ。
多分、今まで暴走した時のことが心配で使うのを躊躇っていたんだろうけど、使いこなした方がむしろ安全な贈り物でもあるので、それまでは頑張るしかない。
幸い、俺たちがいるのでたとえ暴走したとしても対処できる。
逆にこの学園にいる間に克服しないと一生悩むことになる類の悩みだ。
「日常生活は通常の魔眼で、放課後俺と戦う時はさっきみたいに最大限能力を解放していこう。そっちの方も慣れると冷静になっていくし、そうなると視野が一気に大きくなるからかなり強くなる」
「じゃあ今の私に必要なのは魔眼に慣れるってことだね」
「一番の課題はね。ただそれ以外にも体捌きとか剣の使い方とかも基礎的な型を何個か習得しておくと戦いのレパートリーが増えて便利だから頑張ろうか」
「うっ……でもそれって誰が教えてくれるの?」
「え? 俺だけど」
「改めて、蒼ってすごいんだね」
「むっふー。でしょー実はすごいんですよ。褒めてもいいよ?」
「あーすごいすごい」
「わーすっごい適当」
まぁ最後は冗談で締めたけど、一応俺も一通りの戦い方は習得しているから透に教えることはできると思う。
基礎的なことだけなので、本格的にその流派の戦い方をしたい場合は専門の人に頼らないといけないけど、透の場合そこまでガッツリ足を踏み入れる必要はないので俺だけで事足りるはずだ。
「あとは魔法だなー。さっきの戦いではあんまり使うタイミングがなかったけど、透にもせめて上級魔法までは無詠唱で発動できるレベルにはなってもらわないとね」
「それって魔眼を使って?」
「いや、通常状態で。魔眼を使った時には超級魔法も一瞬で発動できるレベルを要求する」
「ハードル高くない……?」
「ポテンシャルはそれ以上だから全然難しくないと思うよ。一週間もあれば形になるはずだ」
試験まで残り二週間、そのうち一週間である程度完成させないとアウラの問題が残っているから少し駆け足だ。
まぁ、透なら余裕でクリアできる内容だ。
「と、いうことでとりあえず今から俺の教える型を習得してもらうから、素振り1000回ね」
「はーい」
「俺も一緒にやるからそんな不満そうな顔をしない。さぁ、始めるよー。いーち、にーい……」
こうして、俺と透は空が真っ暗になるまで訓練をして今日という一日を締め括るのであった。
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