第26話 透の力3

「ふぅ……危ない危ない」


 最初の一撃は本当に死ぬかと思ったけど、それ以降はしっかりと対応できているし今のところ順調である。

 透の今の力量としてはギリギリ十傑に食い込めるかどうかと言ったところであり、正直言って優秀以外の何者でもなかった。


 まぁ、薄々わかっていたことではあるけど、俺が何もアドバイスしなくても自分でなんとでもできそうな感じである。

 ただ贈り物に関してだけ、力を使うことに躊躇いがあるのか思った以上の効果がなかった。


 魔眼のおかげで透自信の魔力を高めたり、俺を拘束して隙を作ったりと色々使いようはあるはずなのだが、さっきから透は魔眼でトラップを仕掛けているだけだった。


 それも十分教委なんだけど、なんだかもったいないなーって感じである。


「透、もっと魔眼の力を使っていいよ。大丈夫、暴走したら止めるから」


「うーん……でも、蒼たちに迷惑をかけることになるよ?」


「嫌でも後からアウラの件で迷惑をかけられる予定だから遠慮しなくていいよ。さぁ……」


「わかった。でも、何があっても引かないでね? ちょっと性格が荒くなると思うから」


「もちろん」


 透は俺の言葉を聞くと一度俺から距離を取って深呼吸をした。

 そして、覚悟を決めたような表情をすると、今まで紺碧色だった透の目が深紅へと変化し、その目には魔法陣が浮かんでいた。


 それと同時に爆発的な魔力と殺気を透から感じた。


「ははっ……マジかこれ……」


 透の変化が予想の数段上をいき俺も思わず息を呑んでしまった。

 あれはヤバい。今の透はキレた時の朱音たちくらい危険だ。


 あの状態の透にふざけると多分俺でも死ぬ。


「いいねぇ! 久しぶりに高まってきたぁーーー!!!」


「……なるほど、一種の興奮状態になるのか。面白い、かかってこいよ」


「生意気言う人は嫌いっ!」


 透はそういうと先程とは比べものにならない程の魔法陣をその場に出現させる。

 魔眼も絶好調のようで、見たところ同時に魔力向上、身体強化、拘束魔法、未来予知等々てんこ盛りのバフをかけている。


 あの魔眼自分にバフをかけるのもそうだけど何が一番厄介かって敵にデバフ効果を付与することができることなんだよね。

 さっきから体が重いし、俺の力が若干弱くなってる気がする。


「いくよっ!」


「痛っ……俺も反撃しようかなっと」


 思いっきり殴られて俺も若干腹が立ったので、一度地面に倒れた反動を生かして思いっきり透のお腹に蹴りを入れた。

 ちょっと気がひけるけど、今の透ならちょっとダメージがあるくらいで大したことないはずだ。


「っ⁉︎ へぇ、蒼もなかなかやるじゃん。私本気で蒼を殺そうとしたよ?」


「だろうね。さっきから透の殺気でゾクゾクしてるよ。……さっきだけに?」


「殺していい?」


「……殺してください」


 ちょっと面白いじゃんと思ったけど、ほとんど俺のことを全肯定してくれるミカエルでさえ微妙な顔をしていたから多分相当酷かったんだと思う。

 穴があったら入りたい。

 まぁ、おかげで透がさらにヤル気になってくれたのでおーるおっけーである。


 見た感じ、戦いのセンスも魔眼の力をフルに使っているこの興奮状態の方がだいぶ良いし、多分魔眼の未来予知のおかげで視野がだいぶ広がってるんだと思う。

 今の透は昔の朱音たちと共通していて、まだ贈り物に操られている状況だと思うから使いこなせればもっと強くなると思う。


 この辺はどれだけ本気で戦ったかという経験だけがものを言うので数と質をこなすしかない。


「ねぇ蒼……蒼も本気出していいよ」


「馬鹿言え。俺が本気出したら透の訓練にならないじゃん」


「んー……じゃあ贈り物を使ってよ。どうせすごいの持ってるんでしょ?」


「いやまぁ持ってるけど……多分ボコボコだよ? もしかして透ってマゾ?」


「と言うよりかは、今の蒼と戦ってもあんまり面白くないんだよね。受けに回ってるばっかだし、もっと私も熱い戦いがしたい!」


「わかった。もともと透の訓練だし、ちょうどいいからミカエルの贈り物を使うね」


 ミカエルから授かった贈り物は『天才複合』。

 これは今まで俺とミカエルが戦ってきた英霊や神様なんかの力を引き継ぐことができるって贈り物で……はっきり言ってバグってる。


 まぁ、厄災級からの贈り物……というかその最上位互換の寵愛なのでめちゃくちゃ強い贈り物なんだけど、今の透みたいに相手も強くなければ万が一で殺しかねないので使う相手は慎重にならなければならない。

 

「『天才複合』。まずは英雄ジャンヌダルクから行こうか」


「へぇ……面白いことするじゃん。それって憑依化? いや、でもミカエルさんを具現化させてるから……」


「正確にはジャンヌダルクの力を憑依させて、同時に武装化もしてるって感じだねー。ほら、これジャンヌの剣。まぁこんなの使ったら簡単に透の腕を持っていくから使わないけど」


 俺はそう言って神々しい剣を地面から出した。

 今の俺は外見で言うと、胴、腕、足に白銀色の鎧をつけており、なんでも異世界の産物であるミスリルが使われているらしい。


 まだジャンヌダルクしか力を複合していないけど、今の透にはそれくらいでちょうどいいはずだ。

 この状態なら俺も相当戦えるし、全力の透にもそうそう負けないと思う。


「使ってよ。私も本気で行くから」


「武器はどうする?」


「私も魔眼で一番強い剣を創るから、多分蒼のその剣にもいい勝負すると思うよ」


「わかった。ミカエル、結界の強さをもーちょっとだけ強めといて」


「かしこまりました。お二人とも、怪我をしても私が全回復させますので、気の済むまで楽しんでください」


「ありがとう。助かるよ」


 透の剣はその目と同じ深紅のもので、見た目がめっちゃ綺麗な剣だった。

 いかにも強そうだし、パッと見剣にもたくさんの能力が付与されている様子だ。俺の剣がめっちゃ楽しそうにウズウズしてる。


 意外と可愛いなこの剣。


「じゃあ、いくね!」


 さっきと同じように先制は透に譲ったが、さっきみたいに油断はすることなくしっかりと透の攻撃を捌いていく。

 思った通り、剣を交わした瞬間にたくさんのデバフを俺にかけてきたみたいだけど、全部俺の剣と防具が浄化してくれてさらにはそれを利用してバフまでかけてくれた。


 便利な武器である。


「チッ、私の特性を利用してるのか……意外と賢い武器だね」


「透の剣もあの一瞬でよく十個以上の呪いをかけてこれたね」


 お互い表情は笑ってるけど、目は笑ってない。至って真剣である。

 相手をリスペクトするのは当然なのだが、やはり俺も透もまさかここまで相手が強いと想像していなかったのだろう。


 まぁ、俺は普段あそこまでふざけてるから仕方ないけどね。


 ただここまで力を出して戦ったのは久しぶりなので俺も結構楽しかったりする。もう少しなら透も戦えると思うから、俺も後少し楽しませてもらうことにしよう。


「透、次は俺がおもしろいものを見せてあげるよ。ついてこいよ」


「いいね。ゾクゾクしちゃうよ。私をイカせてね?」


「お任せあれ」


 さぁて、第二ラウンド行きますか。

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