第22話 学園での日々

 獅子王学園での生活が始まって二週間が経った。

 二週間も経過すると、一年生たちも大体この学園でのルールみたいなものを理解し始めてそれとなくカーストが出来上がったり、学年で誰が人気で誰が嫌われてるなんかも噂で流れてくるようになっていた。


 あと二週間もすれば獅子王学園で初めての試験となっているので、最近ではより一層自己研鑽に励む生徒も多くなってきているが、俺たち十傑メンバーはいつもと同じように授業を受けて放課後はみんなとの時間を大切にしている。


 十傑の噂も広まっているようで、俺たちが校舎を歩いていたり、街エリアをウロウロしていると極端に視線が増えている。

 特段気にしすぎることでもないのだが、俺たちが想像していたよりも十傑の影響力は大きいみたいだ。


 ただ、あいも変わらず俺だけは入学式の一件のせいで下のクラスの生徒からは睨まれたり、裏掲示板などで誹謗中傷されていたりする。

 やれ水無瀬朱音には相応しくないだの、北小路宗一郎の金魚のフンだのヤリチンは死ねだのとここ最近は常に俺の誹謗中傷で盛り上がっていた。


 普通十傑にこんなことをしたら後から報復とかがあるので、なかなか話題にはならないのだが、俺は他の人のフラストレーションを相当溜めているみたいでそんなのお構いなしにいじめられている。

 まぁ、気持ちもわかるんだけどね。


 放課後、自分たちが一生懸命努力している最中に街エリアで美少女を連れ回して遊んでいたらそりゃ癪に触って仕方がないだろう。

 まぁ、弁明するとすれば連れ回してるのは俺じゃなくて彼女たちなんですけどね。


 なんでも「荷物持ちにちょうどいい」らしい。


 これを知ってなおまだ何か言ってくるならぜひ変わって欲しいくらいだ。


 しかも彼女たちとの買い物は難易度がすごく高いんですよ。


 「この服とこの服だったらどっちがいい?」なんて聞かれた日には彼女たちの気に入ってる方を的確に答えないとムスッと不機嫌になるのだ。

 しかもタチが悪いのが「どっちも可愛い」などというとどっちも買わされるのである。


 俺の自腹で。


 全世界の男たちはよくこの究極の二択を毎度毎度うまく交わせてるなぁって思うよ。

 本当に尊敬する。


 まぁ、服選びも遊びに付き合うのも最終的には楽しく終われるから別にいいんだけどね。


 なんと言っても今までこうして遊びに行けることは少なかったから、高校に入って自由な時間が増えて俺的にもすごく嬉しい。


「今日はみんなで遊びに行こうよ」


 そして今日も今日とて放課後は遊びに行きたいようで、朱音がそういうとみんなは了承し放課後は遊びに行くことになった。

 まだ一限すら始まっていないから放課後まではそこそこ長いんだけどね。


 学園のカリキュラムはまだ俺たち全員余裕でついていけてるし、実技はもちろんのこと座学もそこまで心配する必要はない。

 座学は俺か龍之介のどちらかが危ういのではと予想されていたけど、今のところは2人とも問題なくついていけている。


 まぁ、ピンチになったら宗一郎か湊あたりに頼めば助けてくれると思うし俺もあんまり心配していない。


 実技はこの二週間ほどはアウラの召喚と契約、そして実際の魔物を用意して実践形式の授業だったりがあったが、実践用に連れてこられる魔物が最低クラスの魔物なので俺たちからすると少し物足りなかった。

 ただ、他のクラスメイトたちは初めて見る魔物に最初の方はかなり戸惑っていたので学園側の判断は間違ってなかったのだと思う。


 ちょうど昨日、一応全員が最低クラスの魔物は倒せるようになってたから今日からはまた一つレベルが上がる予定のはずだ。

 柊木先生曰く「ここ10年で一番出来が良い」らしいから実技のレベルも徐々に上がって行くことだろう。


 ちなみに、現時点でAクラスはほぼ全員何かしらのアウラとは契約することができており、十傑以外では一人七級の中級精霊との契約に成功している人もいた。

 多分、この先かなり有利になって行くだろうし、実技の授業でも十傑以外のリーダーとして他のクラスメイトから支持されていた。


 本人も努力家と噂されているから多分宗一郎とその人がこのAクラスを引っ張って行くんだと思う。


 頼もしい限りだ。






「ねぇねぇ。今日はどこに行く?」


「んー。私カラオケに行ってみたい」


「いいね。私も賛成」


 今日の授業も筒がなく終わり、ようやく放課後になったわけだが女子3人の強い要望により、今日は7人でカラオケに行くことになった。

 男性陣は特にどこかに行きたいという希望がなかったため、女子3人の意見を尊重することにした。


「確か、佳奈ってめっちゃ歌上手かったよな?」


「佳奈めっちゃ上手だよ! 私もたまーに佳奈に歌い方のコツ教えてもらったりするし」


「女子3人で行った時とか私佳奈の歌が上手すぎて聞き惚れちゃった」


「……恥ずかしいよ」


 朱音と琴葉の言葉に佳奈は照れながらそんなことを言っている。

 俺も一度コンクールを見に行ったことがあったけど、すごく上手で一瞬で時間が過ぎたのを覚えている。


 そのコンクールでは余裕で佳奈が金賞を取っていたし、実はカラオケに行こうと聞いて佳奈の歌を聴けるのを少し楽しみにしていたりする。


「VIPルーム一部屋お願いします」


「かしこまりました。学生証の提示をお願いします」


「はーい」


 街エリアで一番有名なカラオケへとみんなで向かうと、宗一郎は当たり前のようにVIPルームを用意してくれた。

 なんでも、十傑専用でVIPルームが利用できるようで、中にはドリンクサーバーや軽食が入っている自動販売機などが設置されており、室内もかなり広いらしい。


 俺たちは全員携帯端末で獅子王アプリを立ち上げて学生証を店員さんに見せ、そのままVIPルームへと向かった。


「さて、じゃあ一発目は蒼からね」


「俺そんなに歌上手くないよ?」


「蒼は声がいいからちょっと音程が下手でも大丈夫だって。さぁさぁ……」


 朱音にマイクを無理矢理渡されてしまったので、俺は仕方なく自分の最近聴いてる曲を入れることにした。

 多分今の俺たちの世代で流行ってる曲だからみんな知ってるだろう。

 

「〜〜♪」


「蒼って多才だよね」


「それ。いつもふざけてるけど、真面目になると意外とかっこいいんだよな」


「えへへ〜照れますな」


 ちょっと緊張したけど、みんなからは好評だったみたいだ。


 俺の後はみんな一通り歌っていこうと言うことになって朱音から順番に歌っていった。

 やっぱりみんな声がいいのとポテンシャルがあるからなのか全員普通に上手かった。


 トリは佳奈だったが、それまでの採点の平均はなんと94点。

 多分最後の佳奈は余裕で超えるはずなので7人の平均はもっと上がると思う。


「じゃあ最後は佳奈の番な」


「うん。緊張するな……」


「自分が楽しむのが一番大事だから。そこまで気負わなくてもいいよ」


「うん! ありがとう」


 佳奈は緊張がほぐれた様子で歌い始めた。


 曲は……アメイジンググレイス。


 めちゃくちゃ昔の曲だったはずだけど、すごく神秘的で綺麗な曲だ。佳奈の声質ともよくあっている。

 さすが歌姫と呼ばれるだけあって、俺を含めみんな佳奈が歌い終わるまで誰一人として話をすることもなく、携帯端末を触ることもなく、佳奈だけに見入っていた。


「わかってたことだけど、やっぱり一番上手ね」


「うん。僕も思わず見入っちゃったよ」


「俺も! スッゲェ鳥肌立ったぜ!」


 みんなに大絶賛されて佳奈は恥ずかしそうに頬をピンク色に染めていたがどこか嬉しそうだった。


「よっしゃ! 俺も負けてられないぜ! 蒼、あれ行くぞ!」


 佳奈の歌を聴いて興奮気味の龍之介は俺にマイクを渡してきて俺とのデュエットを提案してきた。


「おっけー。みんな、熱く盛り上がっていこうか!」


「「「「おー!」」」」


 こうして、その日は日が傾くその時までみんなで歌いまくるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る