閑話 Aクラスの特権と傲慢

ー野口光田視点ー(Aクラス)


 俺は昔から天才だと思っていた。

 10歳の頃にはすでに贈り物を授かっていたし、魔力も人並み以上にあった。


 その頃から俺は他の奴らとは違うと思っていたし、実際に同学年の奴らはみんな俺のことを特別扱いしてきていた。

 唯一の弱点というかなんというか……顔だけはあまりよくなかったけど、それ以外の学力とか運動センスとかは他の人に負ける気は絶対になかった。


 まぁ、中学の時は才能があって実家が金持ちだったから女には困らなかった。


 顔が多少悪くても、それ以外で寄ってくる女はたくさんいたし、俺はそれでよかった。


 そして、中学3年の時に俺は私立獅子王学園から招待状が届いたときには俺の将来が輝かしいことに何も疑いはなかった。

 今思えば、その時が人生の最高潮だったのかもしれない。


 獅子王学園での生活が二週間ほど経過した今、俺は絶望しかなかった。

 ギリギリ学年で一番エリートクラスであるAクラスに所属することはできているけど、はっきり言って虫のいどころが悪い。


 中学まではチヤホヤされてきた俺なのに、このクラスでは平均以下というのが俺の評価だ。


 特に、十傑同士の戦いを見て思った。


 あいつらは正真正銘の『化け物』だ。


 俺たち天才がどれだけ頑張っても追いつけない壁。それがあいつら十傑だ。

 贈り物を授かってることも魔力が高いことも、そしてその他の才能が全て優れているのも、あいつらに取っては当たり前のことで何も誇ることじゃないんだ。


 しかも、全員美男美女。


 あいつらを見てると、俺のコンプレックスが目立ってしまって苦しい。


 まぁ、そんなわけで俺が今まで見ていた世界はひどく狭かったんだと、あいつらを見て思い知らされてしまった。

 最初の頃は俺以外にも十傑にいい印象を抱いていないクラスメイトも結構いたが、今ではみんなあいつらの光に飲まれてしまって、もうほとんど十傑の悪口を言う奴はいなくなった。


 そう。あいつらはみんな生まれながらにして『主人公』だったんだ。


 それに比べて俺は『脇役』。いや、そもそもあいつらの物語にすら入ることができない人間だ。

 それがわかった瞬間、ひどく絶望した。

 これは俺が望んだ未来じゃない。


 あと一週間もすれば試験の概要が説明されるだろう。今はみんな、それに向けて勉強や自主練をして頑張っている。

 相変わらず十傑の奴らはそんなの気にもしてないのか放課後はみんなで遊びに行くんだと。


 盗み聞きしてた俺も悪いけど、正直鬱陶しいし……かなり羨ましい。


 俺だって中学の時は女を侍らせて、優越感に浸ってたけど、女のレベルは十傑の水無瀬たちとは比べ物にならない。

 俺の中学で学年一可愛いと噂されていた子ですら多分水無瀬たちの前に立ったら凡人以下だと思う。


 そんな子たちと当たり前のように遊んだり、教室内で過度なスキンシップを取られたらどうしても意識してしまう。

 本来なら俺があっち側の人間だったのにどうして……


「はぁ……今日は帰ろ」


 いつもならこのあとは訓練場で自主練をするんだけど、今日はそんな気分にもなれない。

 たまには街エリアに行って買い物をするのも悪くないだろう。

 一応俺もAクラスだし、かなり優遇されているしな。


 そうだよ。俺ってAクラスじゃん。


 今まで劣等感で半端なかったけど、下のクラスの奴らからしたら俺だって十分『主人公』なんだ……






 街エリアに着くと結構人がいて賑わってた。

 俺は一人だけど、中にはカップルとか友達同士とかの組み合わせもいてちょっとモヤっとした。


 で、でもこの中にいるほとんどが俺よりも下の奴らだ。


 こいつらはみんな俺が声をかけたら敬ってくる奴らなんだ。


「あの子、可愛いな」


 俺がふらっと歩いていると、制服姿の女の子が一人で携帯端末をいじりながら音楽を聴いていた。

 その子は十傑の水無瀬たちにも負けないくらい可愛い。

 系統的には女子にモテそうなクールな女の子って感じだろうか。


 ショートカットで高身長ってこともあってクールさがすごいでてる。

 しかも育ち良さそうだし、あの子と付き合えたら多分俺の学園生活もまた楽しくなるはずだ。

 誰かを待っているってわけでもなさそうだし……声かけてみるか。

 

「あの。今時間いいですか?」


「え? 私?」


「うん。一人っぽかったし、もしよかった俺と遊びに行かない?」


「あー……ごめんね。私今そういうの興味ないんだ。他にも可愛い子いっぱいいるし、頑張って」


「ちょ……ちょっと待って! 君クラスは?」


「私? Dクラスだよ。Dクラスの出雲透。じゃあね」


「待って!」


 俺はどこかにいこうとする透の腕を掴んで無理やりこの場に留めた。

 ファーストコンタクトはちょっと失敗気味だけど、俺がAクラスの人間だと知ると、出雲も俺のことを意識してくれるだろう。


「……困ったな。まだ何か?」


「俺はAクラスの野口光田! 君Dクラスでしょ? Aクラスの俺に逆らっていいと思ってるの?」


「ごめんね。私今男の子に興味ないの。ほら、君なら私よりもいい女の子を狙えるって」


「君じゃなくて光田って呼んでよ! それに、出雲よりもいい女の子なんてそうそういないよ!」


「あはは……ありがとう」


 よし! このまま押せばイケる!


 もしここで何かあっても多分学園側は俺の見方をしてくれるはずだ。と、言うかたとえ俺が悪くてもここでは実力主義なので大抵のことは揉み消すことができる。

 だから出雲も俺のことを強く拒絶することはできないはずだ。


 その隙になんとしても落としてやる!


 そう思ってもう一度アクションをしようとした時、俺が一番今会いたくない奴の姿が見えた。


「おい。ナンパはその辺にしとこうな」


「い、一条……なんでお前一人で……」


「今日はみんな予定があってな。俺だけフリーなんだ。ってか、それより手を離してあげなよ。流石にそれじゃあ相手にされないよ?」


「う、うっさいな! 邪魔すんなよ! 迷惑なんだよ!」


「今一番他人に迷惑をかけてる人に言われてもなー。それより、俺とデートしようよ。ちょうど買い物したかったんだけど、一人じゃ寂しくてさ」


 こんな時までこいつはヘラヘラと笑ってやがる。

 これが絶対強者の余裕ってやつか?

 いや、今の俺ならこいつにも勝てるんじゃ……


「チッ! どけ!」


「おっと。暴力はダメだろ。流石に怒られるよ?」


「鬱陶しんだよ! もういい! 出雲。今日は引き下がるけど、絶対に君を俺のものにしてやるからな!」


「できればもうこんなことはやめてほしいかな」


 チッ! なんでいつもいつも美味しいところをこいつらに取られるんだ!

 今日は失敗したけど、絶対に出雲は俺のものにしてやるからな!


 待ってろよ……出雲。

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