道化な僕とギャルな君

月うさぎ

第一章 ようこそ獅子王学園へ

第1話 プロローグ

 西暦4890年。

 科学が世界の理を明かさんとしていた2000年台からさらに2000年以上経った今日この頃、今では化学の他にもう一つ世界の理を具現化したようなものが常識となっていた。


 その名も『魔法』。


 人間に魔力が発現したのが3500年。最初はごく少数者しか魔力が発現せず、眉唾物として世間からは異端児のように扱われていたらしいが、その先駆者たちの弛まぬ努力や研究によって、今では世界人口の九割以上が魔力を持っているし、普通に魔法を使って生活をしている。


 魔法というものが確立されてからは、今まで科学だけでは証明できないような不思議現象が次々に解明されていき、今では神や精霊なども実際にいることが証明されていた。


 そう、世は3000年前の科学だけの世界から大きく変わったのだ。


 今では魔法がごく一般的に使用されている。一見便利で豊かに見えるが、そんな世界で問題が起こらないはずがない。

 確かに、資源問題やその他諸々多くの問題が解決されたのは事実だ。しかし、魔法というのは科学兵器よりも手軽に、そして低コストで破壊できる代物のため、たった100年ほど前まではかなり大規模な世界大戦が行われていたらしい。


 しかし、今ではそれも終結し、各国で平和条約が結ばれ、この日本にもようやく平和が訪れていた。


「ふわぁ〜……ねむ」


 そんな平和になった世界で、俺こと一条蒼は新たな門出のために、のらりくらりと目的地に向かって歩みを進めていた。

 今日は高校の入学式なのだが、この高等教育精度も昔と大きく異なっている。


 まだ魔法がなかった時代は、単なる学力だけで優劣を決められていたのだが、今は魔法が発達し、それに伴い国も有事の際のために最小限は戦力を用意しておきたいらしく、高校に進む前に、魔法や贈り物が優れているものは専用の高校へと自動的に進学することになっている。


 私立獅子王学園。

 この学校は世界最高峰の魔法設備と講師、そして有名な魔法師を多く輩出していることで有名で、さらに面白いことにこの高校は受験ではなく、向こうから入学の提案をしてくるのである。

 この獅子王学園は、国から正式に援助を受けているため、この高校に入学し無事卒業することができたら将来はエリートコース確定とまで言われているほどである。


「まぁ、そんな美味しい話があるわけないんだけどねぇ〜」


 俺も例に違わず、その高校へと入学することができたわけだが、噂ではこの高校は普通の高校とは制度そのものが違うらしく、波乱な高校生活が始まることが確定していた。


「お、蒼じゃん。よ!」


「朱音か。おはよう。お前も獅子王学園だったんだな」


「まぁね〜。っていうか、いつメン全員獅子王っしょ。私、獅子王じゃなかったら髪色とかまずかったし、また蒼と一緒に同じ学校に通えて嬉しいよ」


 朱音はそういって俺の腕に抱きついてきた。

 朱音の柔らかい感触に毎回ドギマギさせられるが、嫌われていないことは確かなので、怪しまれない程度に感触を楽しむことにしよう。


「あー、そういえば俺たち、髪とかその辺の配慮もいるのか。この学校、成績さえ良ければ、校則とかには基本縛られないらしいな」


 ちなみに、朱音の髪の毛は金髪のショート。俺の髪の毛は白色である。

 これは別に染めているとかそういったわけではなく、生まれつきの髪の毛なので基本的には普通の高校でも黙認されるだろうが、目立つのは確かだと思う。

 

 その点、獅子王学園では成績さえ良ければ頭髪加工もピアスも、そして服装も自由なので割と派手目な格好をしている生徒は多いようだ。


 そんなわけで、俺や朱音にとっては獅子王学園は好都合であると言える。


「入学式当初からこの髪型なのは周りに喧嘩売ってるのも同然なんだけどね」


「ん? でも、もうすでに学内順位は出てるし、私たち全員十傑のなかに入ってるからいいんじゃない?」


「まぁ、それもそうなんだけどね……」


 その辺りの説明は入学前に大方説明されているため、急に他の生徒たちから反感を買うことはないだろう。


 ……ないと信じたい。


 その後、2人で獅子王学園の門まで向かうと、流れで一度各々寮に向かうと言うことで解散することになった。

 先ほども朱音が言っていた十傑システムのおかげで、寮も俺たちは一人部屋でかなり広く、プライベートもしっかり確保されている。


 ちなみに、俺は一年十傑の第七席である。朱音は確か第五席な訳で……つまり俺より高いわけです。

 この学園では成績は戦闘力や知力、財力やその他諸々が加味されて総合的に成績が出るのだが、俺は総合的に朱音に……というか俺のグループの全員に負けているわけだ。


 まぁ、俺はあまり十傑だのランキングだのに固執する方ではないのと、第一席には俺ではなく俺の親友である『アイツ』に譲った方が色々と都合が良いのだ。


「おーい」


 あいつは本当に……色々とすごい。

 俺たちのグループ内で、仮に俺を道化キャラと置くのであれば、アイツはまさに主人公。比べ物にならないほどの魅力を持ち、指揮官としては最高峰の才能を持つ。


 世の女性からも引く手数多で、一見優男に見えてしっかりと魔法や贈り物ギフトなどの力も持っている。


 本当に、世の中って不平等だなーとあいつを見ていると思う。


「おーい。蒼〜。一条蒼くーん」


 まぁ、俺たちは付き合い長いし、それに少しは実績もあるから嫉妬とかはないけど、他の同年代の人からしたら、アイツの存在は目の上のたんこぶレベルで厄介だと思う。


「あ! あっちにエッチな女の子がっ!」


「どこだ! っていないじゃん!」


「お前がいつまでも俺を無視するからだろ。それより、おはよう蒼」


「あぁ、おはよう。宗一郎。今日もイケメンが映えるね〜」


 俺はそう言って、目の前にいるイケメンの肩を軽く叩いた。

 北小路宗一郎。さっき言っていた獅子王学園第一席の座に堂々と君臨している、正真正銘の覇王である。


 宗一郎は俺とは違い真っ黒な髪の毛なのだが、清潔感があってイケメン感をさらに焚き付けている。


「そういうお前も顔面偏差値クッソ高いだろ。人のこと言えないからな?」


「俺の場合、性格とかその他諸々を入れるとマイナスになるから残念イケメンなのである」


「あー、それは確かにそう」


「……そこは否定しろよ」


「俺だけじゃなくてみんなもそういうと思うけどね。ま、お前がそんなんだから俺たちは楽しく生活することができてるんだけどさ」


 これ以上宗一郎に話させると、さらに俺を褒め出して俺が天狗になる可能性があるため、話を早々に切って2人して一足先に寮の方へと向かうことにした。

 この獅子王学園は高校と大学が同じ区域にあるため、非常に大きい敷地となっているわけで、入り口から寮の元へと歩くのに30分以上かかってしまった。


 その間になんだかんだでいつもの男子メンバー計4人が集結し、結局みんなで寮へと向かうことになった。


 それは良いのだが、そのお目当ての寮になるのだが……


「これ、寮というよりかはホテルだろ……」


「もうこれは高層ビルなんだよなぁ……しかも、全10階ってことは、ワンフロア丸々俺たちが使えるんだろ?」


「え、ってことは、ここ男女共同?」


「みたいだよ。1階から5階が女子専用フロア、6階から10階が男子専用フロアらしい。中にエレベーターがあって、学生書をかざさないとそもそも動かないらしい」


「……何で湊はそんなに詳しいんだよ」


「入学手続き書と同伴されてたパンフレットに全部書かれてたでしょ? そんなんだから、龍之介は脳筋って言われるんだよ」


 そう言って湊は頭を押さえながら龍之介に向かってため息をついていた。

 ちなみに、パンフレット云々は俺も読んでいなかったので龍之介のことを強く非難できない。うん。大変耳が痛い話である。


 宗一郎は苦笑いをして湊を宥めているとこから見るに、きっと港と同じようにパンフレットの中身を全て暗記しているのだろう。本当に化け物たちである。


「蒼は俺の仲間みたいだな」


「ふっ、お前と同じにするな。俺はしっかり確認したぞ。この学園は女の子のレベルが高いっ!」


「うん。こいつ俺よりひどいわ」


 龍之介はそう言ってどこか安心したような顔をしていた。……解せん。


 ちなみに、湊は深い青色の髪の毛を持ち、きっと初対面の人がこの4人を見たら一番真面目そうと思われるのがこいつである。

 まぁ、よく見ると耳にピアスをしてたり、ネックレスをしてたりとアクセサリーを多用しているため、そこまで真面目ってわけではないが、俺たちの中では一番頭が賢い頭脳派である。


 それに対して、龍之介は先ほど俺もいった通り、ゴリゴリの筋肉を持つ赤髪の短髪でいかにも体育会系といった感じである。


 2人とも……というよりも俺たち4人は身長も高く低くても湊の178センチ。高ければ龍之介が190センチを越えそうな勢いなので、割と4人で街を歩いていたりすると存在感がある。

 みんなかっこいいしね。


「っと、ていうことは朱音たちも寮はここなのか」


「うん。もうすでに中で堪能してるはずだよ」


「マジか。それなら朱音と別れなくてもよかったのか」


「ん? なんだ。お前、朱音と一緒にきてたのか?」


「あぁ、門の前で会ってな。たまたまあいつも歩きみたいだったしさ」


「……あいつ、なかなか策士だな」


「一番見た目チャラい格好してるくせに意外と朱音って抜け目ないよね」


「琴葉と佳奈が聞いたら拗ねそうだな」


 俺が今朝のことを話し始めた瞬間、宗一郎たちが小声で何か話し始めた。

 耳をこらしても地味に聞こえない声量で話している辺り、こいつらもしっかりとそういった小技を使えるんだな〜ってどこか達観した感想が出てくる。


 宗一郎と湊はともかく、普段声が大きい龍之介が小声でボソボソ話していることに不覚にも笑みが溢れてしまう。


 ただ、いつまでも仲間外れは流石に寂しいため、そろそろみんなで寮のなかに入ることにしようと思う。

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