世界の繋ぎ方

時田まる

雨寺:学校


 暑い。


 天気予報士がほとんど雨の降らなかった梅雨が明けたと宣言したのは先週だったか。窓から入り込む陽の光が起きろと言わんばかりに部屋の温度を上げていく。

 体の汗ばみを感じ始めながら、夢と現の間で睡眠と支度のどちらかを迫られる。もう少し、あと5分だけ。いや、でももう起きないと・・・。

 そんな葛藤を何回繰り返しただろう。そろそろ起きなければまずいと、半分寝たままゆっくりとした動きで服に着替え始める。


「歩夢―!いい加減起きなさい!」

「!!」


 母親の呼び声に勢いよく開いた目は、見慣れた天井を映した。

 先ほどまで着替えていたはずの体はまだベッドに横たわっている。重い体を起こしたあの苦労は、どうやら『起きなければ』という思いが見せた夢だったらしい。

 げんなりとした気分で同じように服を着替え始める。


「おはよう。今日水曜日でしょ。早いんじゃないの?」

「んー……」


 着替えを済ませてリビングに下りれば、弟のお弁当を詰めている母親が慌ただしそうに俺を見た。

 寝起きで出すのも億劫な声をなんとか絞り出し、パンを焼く。


 再びやって来る睡魔にうつらうつらと瞬きを繰り返していると深刻そうな女性キャスターの声が耳に入った。


『続いてのニュースです。またも1名、患者が増えました。これで永眠症状者は100人を超えたことになります。』


「怖いわねぇ……。」


 お弁当の用意を終えた母がため息交じりに呟いた。そんな母の気持ちなど露知らず、元気の良い音がパンの焼き上がりを知らせる。それは母を画面から切り離すきっかけになったようで、洗面台へ向かって行った。


 籠った熱を逃がすように開いている窓から聞こえてくるセミの声が、やって来る睡魔を徐々に跳ねのける。セミの声をBGMにもくもくとジャムを塗ったパンを食べ進める。


 ぼんやりとテレビの画面に出ている時間を目にして、一気に脳が覚醒した。


(遅刻!)


 残っているパンを口の中に詰め込み、母親以上に慌ただしく席を立った。

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