LOST OF BLADE ー転生の蒼剣ー
海鼠さてらいと。
第1話 始まり
とある炎天下の夏。
「あーっちぃ……何で俺がこんな事を……」
今は8月の初頭。つまり絶賛夏休み中。…の筈なのだが……俺は何故か冷房の効いた部屋の中ではなく、容赦無く照りつける灼熱の直射日光の差す外にいる。夏休み、その事実が疑われる程暑い中、清掃委員である俺は1人寂しく高校の庭の草むしりの作業をしていた。
「何でって……清掃委員だからに決まってるでしょ」
不意に隣から聞こえてきた女子の声が聞こえ、俺は草を毟る手を止める。あぁ、そういえば今悲しい目に遭ってるのは俺だけじゃなかった、と気づく。
「そうか、結愛も居たのか」
「居たのかって……ずっと隣に居たんですけど」
そうだったな、俺はそう軽く笑って誤魔化しつつ、未だ終わりの見えない作業を続ける。
「あーあ…こんな事だと分かっていりゃ…」
思えば1学期の委員決めの時、何故清掃委員なんてのを選んだのか。あの時は一体何を思って清掃委員が楽そうだとか思っていたのか。夏休み招集されると事前に分かってさえいれば確実に他の委員に、例えば楽そうな図書委員辺りになっただろうに。
「くっそ…タイムマシンがあればっ!!」
自分に対する怒りを無駄な力に変え雑草を力の限り引き抜く。ぶちぶちっ…と雑草共は俺の怒りの手にかかり抜かれていく。
「ちょっうるさいよ舞。そんな無駄にテンション上げて頑張られたところで暑苦しいだけだって…ただでさえ暑いのにさぁ」
結愛はいかにも「迷惑だ」だと言わんばかりの目で俺を睨んだ。
「悪い悪い、つい自分の過去の行いに腹が立って…」
俺はその視線から目を逸らしつつ手に持った雑草を雑にゴミ袋にぶち込みながら適当に詫びる。
「少しは落ち着いてよ、「舞」なんて女子みたいな名前なんだったらさぁ」
「そっ、それは言うな…!」
…結愛に言われた通り、俺の名は高倉 舞❪まい❫。名前だけ見ると女子の名前にも見えてしまうだろう。事実これのせいで今までどれ程の面倒事を体験してきた事か…。
「名前が女の子なのに性格が女の子じゃないってのは問題じゃない?」
俺の弱点に更に漬け込んでいく結愛。
「な、なんだと結愛ぁ!?」
聞き捨てならないその言葉に、俺は手に持った雑草で満たされたゴミ袋を結愛に投げつけた。
「きゃぁ!」
見事に顔面に直撃し、中の雑草がバサッと音を立てて漏れる。結愛は雑草まみれになりながら尻もちを着いている。
「あ.......少しやりすぎたか」
結構な武器になるんだな、コレ。
「な、なにするのよ舞!?」
結愛は怒って俺につかみかかる。
「おーおー…お前等またやってんのか」
…が、唐突に聞こえてきた呑気な声により、結愛の攻撃は惜しくも中断された。突如として現れたその声の主は軽く禿げた小太りの男…、我が清掃委員の顧問だ。
「あ、先生こんにちは」
「こんちゃっす 」
丁寧に挨拶をする結愛に続いて取り敢えず俺も適当に挨拶をする。顧問はゴミ袋を眺めると、満足したように頷いた。
「おう、あらかたここら辺はやり終わってるな…にしても…」
顧問は俺と結愛をまじまじと見つめる。
「お前等って本当に仲良いよな」
「いやいや先生、別に俺結愛と仲良く無いですよ?」
俺は即座に否定の意を述べる。
「そうか?…おっと忘れてた、今日の作業は終了だ、もうお前等は帰っていいぞ」
そう言って顧問は俺達の掻き集めた雑草の塊入りのゴミ袋を持ち上げ、両手に抱える。
「よっしゃ、やっと解放された」
ようやく解放された俺は顧問のせいで微妙に結愛と気まずい雰囲気になってしまった事も相まってさっさと帰る支度を…と、結愛の様子が変な事に気づく。
「うん?どした結愛?」
俺は結愛の肩を軽く叩く。すると結愛はびっくりしたように急に体を震わせた。
「はっ……何よ、少し考え事してただけだから。ていうか、早く帰ったら?」
「お……おう。言われずとも帰るわ」
何か機嫌悪いような…やっぱり投げつけなきゃ良かったなぁ。俺はそう思ったがまぁ俺をからかった相手も悪いしと思い、気にしない事として自宅へと足を進めた。今日はいつもより蝉が喧しく騒いでいる気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます