さけとおとこと、わたし。時々、おかね。

@nyankorosan

第1話仕事を教えてくれる男。

まずは、自己紹介。


田舎で産まれた私。だからこそ、子供の頃は習い事や勉強しかやることがなく、教育熱心な母親、祖父の元、すくすくと純粋に育っていった。


そんな私が中学時代に出会ったドラマ。

篠原涼子の「anego」。

か、かっこいい‥。大人ってこんな素敵なマンションで、飲み会もあって、後輩にも頼られて、恋?不倫???これが日時茶飯事なんだ!!!

と、なんとも歪んだ憧れを抱き、その日から私の人生のバイブルへとなったのだ‥。


それから、数年後。

看護学校を卒業し、社会人1年目。

ここから、私の楽しい楽しい人生が始まる‥。


看護学校からエスカレーター式で就職が決まり、奨学金の返済が終わったら、都会へ行くぞ!と夢見てた。


入社式。

辛かった、看護学校‥。これからは同じ看護でもお給料がもらえるんだ!それなら頑張れる!泣きそうだけど、ニヤケが止まらない私。

ナースのお仕事を見ていたからこそ、イケメンな研修医と出会って、恋に落ちてーなんて素敵じゃん!と、院長の話も聞かずにキョロキョロ。

んーーーーー。おじさん?ゴリラ?のっぺらぼう???

あれ?藤木直人は?江口洋介は?松岡昌宏は?

想像と違う。

よく、ドラマであるような同期入社でいろいろありながらも恋に落ちるパターンは味わえないのね。


ガッカリしながら、時間が過ぎ、配属部署の発表へ。

「オペ室、丸山さん、西川さん」

やったー!!!!

看護師になりたくなかった私が唯一働けると思った場所、オペ室に配属されてさっきまでの気持ちは吹っ飛び、喜びでいっぱい!

これから勉強に仕事一生懸命がんばろう。


ここで、オペ室とは。

一般に

「メスを渡す人」「汗を拭く人」のイメージが強いみたい。その通りだけど、そんな単純な話ではないのが深いところなんです。詳しくお話ししたいところ‥なのですが、そのお話のメインはそこではないので、所々出てくるオペ室トークで感じていただくとして。


私の病院のオペ室は、男女の比率は5対5くらい。

男の人は見るからに‥遊んでそうな頼りない感じ。女の人は‥女子って感じの迫力。

同期の女の子は看護学校時代から知ってる子で、真面目で地味な印象。

メンタル弱めな私にはドキドキ。


一カ月のICU研修を経て、希望のオペ室へいざ出陣。

オペ室での業務は想像以上にきつい。

8時半出勤で9時入室。

そんなの間に合うわけがないから自分の力量で朝の出勤時間を決める。プリセプター(自分担当の指導者)に怒られる毎日。見たことない世界。身体の中何てわからない。

バカなの?死ねば?と飛び交う言葉。

辛いよぉ‥と思っても、祖父母と住んでる私は心配かけたくないと強がってしまう。

そもそも看護学校時代の友人は他病棟。夜勤のある病棟勤務となかなか生活リズムが合わないため、友人もいない。この気持ちをどこにぶつけたら‥。


そんな矢先、市外へのお泊まり研修に強制的に自腹で行かされることとなった。

職場のリーダークラス以下の人たちで行った研修会。

急遽のため、都心の高級ホテルしか取れず、みんなでお泊まり。

行き、帰りと代表者が車を出し、私は車だし担当となったのです。

研修会も終わり、私の車で帰るメンバーは、病棟歴もあり移動してきた優しい女の先輩と、オペ室が嫌いな病棟歴のある男の先輩。3人で車に乗り、地元へと車を進める。

夜も遅く、前日も研修会の講師と飲み会があったため、女の先輩が寝てしまい、私は助手席に座るかける先輩と音楽の話に。

ドラムもギターもやり、音楽の趣味もあうかける先輩に運転しながらドキドキし始めた私。

普段、やる気もないし、先輩なのに頼りにならないその先輩を少し嫌ってもいたけれど、慣れない遠出のためか、夜だったからか、私はなんだか興奮状態。だけど、社会人になったんだからという抑圧から、必死に平然を装って運転。

女の先輩の家につき、お疲れ様と伝え、次はかける先輩を送り届ける。自宅につき、お別れの挨拶をと思ったら、「ドラム見てく?」とお誘いが。

別にドラムに興味もないのに、「はい!!見たいです!」と即答し、お家の中へ。

社会人初めての男性宅。

あまりものの多くない部屋。

「何飲む??」

「あ、何でもいいです!お構いなく」

と答えると、出されたジャックダニエルのロック

「先輩、私車‥」

「もう遅いし、泊まってけば?」

ストップ!!

そうですよね、ここで気がつくべきなんですが、私は

「あー、たしかにもう9時過ぎてる。良いのですか?ご迷惑じゃないですか?」と、根拠のない答え方をしてしまう。

「うん大丈夫。いろいろ飲みながら、話そ。」

「はい!」

と、その後5時間以上、音楽の話や、心電図の話をし続け、気づけば外は明るくなってきていました。


その日も仕事なため、もう寝なきゃとベッドに誘導され‥

ん?枕元に堂々とゴムがある‥。まあ、‥いいかと、先輩にからだを委ね。朝。

お手洗いを借りたところ、生理用品が目に入る。

絶対これ、漫画とかで見たことあるやつだよね‥。彼女?同棲?

‥いや、あんな優しい人がそんなはずない。きっと、お姉さんとかのだな。

と、自分に言い聞かせて、

「かける先輩、朝一オペなので私帰って支度しますね」と寝てる先輩に声をかけ、車を自宅へ走らせる。

が、その1週間。ほとんど寝ていなかった私は、居眠り運転で自爆した。タイヤのパンクだけで済んだけれど、不眠の恐怖を思い知った。


それから、毎日かける先輩からの連絡を待つようになった。だけど自分から連絡する勇気もなく、ただ連絡待ち。痺れを切らして、仕事の質問をするメールを送る。すると即レス。

「うちで教えるからおいで」

すぐに飛びつく私。

祖母に嘘をつき、夜な夜なお泊まりへ。

そんな中、かける先輩はケーススタディーのためしばらく会えないと、空気的に察知した。


"素直になれない""甘えられない"私は、連絡は取れない、仕事中も話しかけらない‥モヤモヤしたまま日々を過ごしていた。

そんなかける先輩と同期の看護師さんがいた。一見地味な女の人だけど、かなりの肉食系女子。片桐さん。

同期ということで、ケーススタディーの話を2人でしている‥まではよかった。


朝会。

ん‥???あれ、2人で出勤してきた???

1番初めに気がつく私。

そして、決定打。2人で遅刻。

はい、完璧できてるわ。と、察知。

そのあとはもう堂々とした交際で、最終的にはご結婚。

私は、何事もなかったようにフェードアウトしたのでした。


てのが、社会人初めての恋。

なんとも不服な終わり方。

ここから、私の生活が荒れていく。


それから数ヶ月後

何事もなかったように日々が過ぎていく。


「丸ちゃん。飲み会あるから、参加できるかできないか。」突然、恐れている先輩から声がかかる。

私の病院のオペ室の飲み会は、何というか‥ワイルドだ。

歓迎会の時は、女の先輩方が助けてくれたけど、おそらく体育会系。

そのボスとも言える先輩、そして、普段からからかわれていじってくる先輩から声がかかった。

真面目な同期に相談し、

「初めて誘われたし、怖い先輩だから行こう」となり、参加を決めた。


その時私がハマっていた音楽は

AcidBlackCherryの黒猫。

飲み会メンバーは、ボス先輩より後輩と、私が看護学校時代から憧れてやまない整形外科の八代先生と業者の佐藤さん。

正式な飲み会ではない。


憧れの先生に近づけると、ウキウキ。

大沢たかお似の先生。JINに憧れてた私にとっては、その先生に出会うことが目標で働いたと言っても過言ではない。


いざ、一次会。

ひつじにくのお店。

んーーー、まだ先生は来ないなぁ‥。と美味しくいただく。


二次会。

カラオケ付きのお店。

程よくみんな酔っている。

遅れて、先生と業者さん登場。

私も酔っている。

テーブルを挟んで、私の目の前にはボス先輩、秦さん。

「丸ちゃん、気持ちいいこと好き???」

「へ???」

秦さんは相当酔っている様子。目が座ってる。

「いいから、答えろ?どうなの???」

周りの先輩方の方をみる。みんな一気に目を逸らす。え‥なんで???なんで、西じゃなくて、私??えー、まあちゃんと答えよ。ウケ狙った方が良いのか。

「はい、好きです!」

バンッ!!!!!!!

‥?????!!!!!痛い!!!!!

「どう??気持ちいでしょ???」

みなさん、ぱりんこってご存知ですか?

そう、あの塩味のおいしいソフト煎餅です!

バンッの音と共に、顔面でぱりんこを割られ、お顔全面をスクラブ。

はい、これが俗に言う、"煎餅洗顔"です。笑

社会人一年目。サークルも、飲み会も未経験な私。

バイブルはanego。上司は絶対の母からの教え。

よし。

「はい!気持ちいいです!!!」でれぇ。

だけど、痛いんです。ソフト煎餅でも、顔で叩き割られると痛いんです‥。

泣きそうになりながらも必死にヘラヘラしていたら、憧れの先生から

「痛かったよな、辛かったよな、頑張ったな。」と、私の顔についたお塩を拭き取りながら、慰めてくれたことで、泣きそうな私の気持ちは絶好調。

なんでラッキー♪体張ったから先生に声かけてもらえたわ♪いぇーい


それからは先生の隣で楽しく時間を過ごしていきました。


そんなこんなで飲み会も終わり、帰る時。

ぽけーっと帰ろうとしていたところ、周りの先輩方が私をかこって下に下さないようにしてくれている理由を把握もせず、けらけらと酔ってる私は階段を降りる。


タクシーに乗ろうとしてる秦先輩を見送ろうとしたその時、タクシーのドアが開く。

「ひゃーーー!!!!」

タクシーから伸びた手に引っ張られ、タクシーに引きずりこまれる。そこで気づく。

なんでみんなが私を帰そうとしなかったか。

秦先輩から守るため、私をずっと隔離してくれてたのだ。

「ほら、さっき気持ちよかったんだろ?」と先輩に言われ、苦笑い。

先輩には、奥さんと子供もいる。社宅住み。

とりあえず先輩を送り届けることで必死な私。

社会人初のピンチに緊張感。

先輩の家につき、とにかく下ろさなきゃと。

先輩は、私を連れ込もうとする。

「ねぇ、お金払って?」とタクシーの運転手。

いやいや、見てよこの状況。と、お金を払う私。

さっさと走り去るタクシー。

「先輩、ほらおうち帰ってください、酔っ払いすぎですよ?」諭そうとする私。

「酔ってんのなんか知ってんだわ。ほら、俺の咥えれんの?ねえ、さっさとして??」

「何言ってんですか???ほらー、こんなとこだとみんなに見られちゃいますー!笑笑」

と、必死に言いくるめ、エレベーターへ先輩を乗せる‥。

力が全て抜け落ち、帰宅しようと歩きながら携帯を見る。

槇原先輩から、

「丸ちゃん、大丈夫?帰れたの??」とのメールが入って、

「大丈夫です‥だけど帰れない」と

返したあと、みんなのところに戻りたい‥だけどタクシーが見つからない‥と彷徨いながら、私は近くのバス停で力尽きたのだった。



‥「大丈夫?」

‥‥‥???「だい‥じょぶ‥じゃない‥助けて‥。



はっ!!!!!

「ねぇ、また会えるよね??」

股の刺激と、男の言葉で目が覚める。

え?誰?いやいや?誰?嘘?なんで?ああぁ!!!!頭が痛い。どーしよ頭が痛いよ?いやその前にとりあえず、こいつ、誰???んーーーー、考えるのやめよう。

「うん、会えるよ、連絡して?」

下世話な話、挿入しながら答える。

「番号知らないよ?」

やってるとき言えば覚えないか

「番号は080○○**##¥$」

「おけ、連絡するね」

そのあとは、自宅まで送ってもらい、一眠り。

心配で一晩中起きていた祖母。

ごめんなさい。


朝起きる。いろんなところが痛い。

飲み過ぎか‥と思い、顔を洗うと激痛。

乾燥??と思い鏡を‥

血の跡に瘡蓋だらけ

あ、そうだ、煎餅洗顔だ。

めちゃ痛い‥


知らない人と寝てるし、顔は痛いし‥

と。最低な女。

はぁー出勤しづらい‥なんか聞かれるよな‥。

まあ、バス停の人はどーせ連絡先覚えてないだろうから大丈夫よね

と、呑気に考え出勤。


「おはようございます」

「おはよ‥」ん?????と、なお先輩が二度見。

眉間に皺を寄せながら、秦先輩を睨む。

朝会が終わり、槇原先輩が

「丸ちゃん、昨日大丈夫だったの???何があったの??心配したんだよ!」

と、声をかけてきた。

なお先輩も心配そうに遠くから私を見てる。

手術室内に槇原先輩を引っ張り、昨日会ったことを話すと、

「もう!丸ちゃん、だからみんな丸ちゃんを秦先輩に近づけないように必死だったのに。顔だってこんな傷だらけで、身体も怪我してるんじゃん。」

「すいません‥(苦笑」

と、話していると、秦先輩が入ってきた。

「丸ちゃん、まるちゃん、顔どーしたの??そんなんなって笑」

「秦さん!!笑い事じゃないですよ!これ秦さんがやったんですよ?覚えてないんですか?丸ちゃんの顔に煎餅叩きつけたんですから!しかもその後、まるちゃん‥」

槇原先輩が秦先輩に食ってかかる。

「そうですよ、秦さん。私昨日秦さん送った後、力尽きて知らない人に拾われたんですから」

ただでさえ大きい目を見開く秦先輩。

「え????嘘、まじ????えー、どうだった??俺、キューピットじゃん!」

想像とは違う返しに驚いたのは私だけではなかった。槇原先輩も同じ表情をしてた。

「全然キューピットじゃなーーーい!!!顔も覚えてないです。だけど目が覚めたらホテルで、帰り送ってもらったんですけど、全然記憶がない‥」

爆笑の秦先輩。

「やるね、丸ちゃん。面白すぎるわ。ドラマみたいな出会いになるかもよ??」

と、このエピソードをかなり楽しんでる様子。

それを聞き、どうしようという気持ちだった私も、まんざらではなく、

"もう一回会ったら、イケメンかな?あ、でも連絡先知らないんだ"などと、馬鹿な考えにシフトチェンジされていた。


その日の夜。

知らない番号から電話がなる。

‥ま、まさか!と、おそるおそる電話に出たところ。

「もしもし。昨日の方ですか?」と男の人の声。

やっぱり。でもよく覚えてたな‥。

「はい、そうです。昨日は本当に申し訳ありませんでした。」と謝る私。

「バス停で倒れてたんでびっくりしました。もう大丈夫ですか?」

「はい、すいません。かなり飲んでしまっていて‥。もう大丈夫です。ありがとうございます。」

「それは良かったです。‥ところで、また、会えますか?」

‥!!

「え、えっと‥いつか‥。」

と慌てて電話を切る私。うー、会った方がいいのか、辞めた方がいいのか。

看護学校からの友達 りなちゃんにメールをする。

"朝話した人から連絡きたんだけど、会えるかって。どーしよ。どんな人かみたいし、だけどやばい人かもしれないよねー"

即レス。

"えー、連絡来たんだ笑

会おう、会ってみよう。笑 私も付き添う?笑"

なんて心強い。

"うん。一緒に来て笑 返事するわ。いつがいいかね??"

とのことで、私はその週末、約束をこぎつけた。


21時。私達の仕事終わりに、ショッピングモールの駐車場で待ち合わせ。

「れみちゃん、顔覚えてないの??覚えてることないの??」

「うーん、全然覚えてない。記憶にあるのは、白い車だったことと、車の中でソナーポケット?の月火水木みたいな曲かかってたことくらい。あー、どーしよう急に怖くなってきた」

「全然情報ないじゃん笑 すごい変な人だったらウケるよね」

「ウケないよー!!!」

なんて、話していると、ショートメールが届く。

"着きましたよ!どこにいますか?"

「メール来たよ!着いたって!え、どこにいるんだろ?」

「あそこに白い軽なら止まってるよ。でもなんか、後ろの席ゴミだらけじゃない?笑 あれだったりしてー」

「やだーやめてよーーーもう、気持ち悪いなー笑笑」

「‥え、でもれみちゃん、あの車の人こっちずっと見てるよ?」

本当だ。運転席からこちらをじーーーーっとみてる男がいる。見覚えはないけど、明らかにこちらを見ている。

「え、やだ。まじ?帰りたい。まじ?え、ゴミ車やん。私あれ乗ったの?まじ?え?嘘でしょ?」

「あ、こっち向かってくる‥」

「あの、こないだの??」

はい、完璧この人だー。間違いないー、はい、ちーん。

「あーはい、そうです。先日は申し訳ありませんでした」

「いえいえ、無事でよかったです。とりあえず乗って?」

え?なんで?なんで乗るの?

「あ、いや今日はお礼を言いに来ただけだし、友達も一緒なので‥」

「ドライブしようよ、友達も一緒に。ね?」

断りきれず、2回目となる助手席に私、ゴミだらけの後部座席にりなちゃん、車内は聞き覚えのあるソナーポケット。

地獄のドライブの始まり。


「あの、なんの仕事されてるんですか?」

りなちゃんが口火をきった。

「今はお酒をトラックに積む仕事をしてます。」

「酒屋さんってことですか?」

「酒屋ではないんだなぁー。トラックに積むんです。」

「え?配送会社ってことですか?」

「いや、お酒をトラックに積むんですよー。」

なんの会話なんだ。りなちゃんぐいぐい聞くなと思いながら2人の会話を聞く。

「ずっとここに住んでるんですか?」

「はい。僕、最近まで働けなくて‥」

ん??????なんで?

「そうなんですか。なんでですか?」

「僕、精神科で入院してたんです。ほら」

と、運転しながら左手首を私たちに見せる。

わぉ、切ってる。終わった。まじ、終わった。殺されるかもしれない。

「そうなんですか。今は大丈夫なんですか?」

「はい、大丈夫です。それにこないだ仕事帰りに出会ったので‥あ、名前聞いてもいいですか?お2人の。」

しまった。名前を教えないのバレてしまった。

「私は、ゆうこです。彼女はさゆり。」

りなちゃんすごいな、咄嗟によく嘘つけるな、と感心。

「さゆりちゃんか。可愛いね。さゆりちゃんが倒れてる時は、仕事帰りでへとへとで女神が倒れてると思ったよ笑 ところで2人はなんの仕事してるの?」

「私達の仕事は言えません。」

「え?なんで???」

「言えない仕事だからです。」

私はほとんど話すことなくドライブが終わった。

「今日はありがとね。またすぐ会おう。大好きだよ。」

「ははは。ありがとうございました。さようならー」

窓から手を振り走り去る男。

りなちゃんと2人で、抱き合いながら、生還を喜び合った。

その後1年間、彼からの着信に悩まされることとなる。

その一件以来、秦先輩との飲み会が定期的にあったものの、秦先輩も反省したのか家にしっかり到着したことを確認するための電話がかかっていた。


年も終わりに近づき、忘年会。

待機の私は遅れて参加。

既にみんな出来上がってるのと、私はいつ呼ばれるかわからないので、お酒は禁止。

つまんない‥と思いながら、二次会強制参加。

仲の良い秦先輩や槇原先輩は違う病棟の飲み会は行ってしまい尚更ひとりぼっち。

適当な席に座りながら、ジュースを飲んで暇を潰す。目の前に座るのは、外科の新人ドクター蔵脇拓也。

イケメンでもないし、この人すっごい真面目でつまんないやつなんだよな。

「きたこっしーは飲めていいなー」

同期入社の研修医北越先生。年は10以上離れている。かなり出来る人。

「れみは待機なんやな。飲めへんのな。可哀想に、お酒好きなのにな。」

「本当だよー、目の前にいっぱいお酒あるのに飲めないなんて。主任のおにばば。」

「2人仲良しなの?」

と、蔵脇先生に聞かれるれ、

「はい、2人でよく飲みに行ってますよー。一応同期」

「え?そうなん??俺も誘ってよー!飲み会とかやってるの??俺全然誰にも誘われないんだけど‥」

「病棟の看護師とかとないんですか?外科ならいっぱいありそうなのに」

「外科の先生方とはあるけど、そのほかのスタッフさんからは誘われないよー丸山さん今度企画して!」

「いいですよー!きたこっしー、りなちゃんも誘って開こ。他誰かいる?」

「寺は?」

「あー、いいね。なら、年明けに新年会だねー!連絡先交換しましょ!」

と、この約束が後に私の心を乱し続けることになるなんて想像もしていなかった。


蔵脇先生は意外にも私の同期ナースの中で人気があった。

真面目で優しくて、笑顔が可愛いそう。

オペ室では頼りない感じなのに、病棟では違うんだな。と思いながら、連絡先を交換したのだった。


年も明け、北越会という飲み会グループを立ち上げ、私達は頻繁に飲み歩くようになった。


バレンタインデー。

オペ室の先輩看護師、山田から飲み会に誘われた。

メンバーは、山田、私、西川、あと1人が臨床工学技士の鈴木だ。

‥つまらなそ。と思いながらも先輩の誘いは断れない。

仕事終わりに焼き鳥屋に集合となる。

「お疲れ様です。」

と、飲み会が始まる。

バレンタインということで、鈴木から"新人はスタッフ一人一人にチョコレートを用意しなきゃならない"という嘘に騙されて、病院一怖いドクターにまでチョコレートをあげたところ塩対応であった内容で大盛り上がり。

ある程度酔い始めたところ、

「てか、あの2人遅いんだけど。何してんだ?」と山田がいう。

「あの2人って誰ですか??」

「畑と蔵ちゃんだよー」

え、蔵脇先生昨日も私と飲んでるのに、飲み会のこと何も言ってなかったじゃん‥と、なんだか心にもやっときた。

畑は、麻酔科の医師だ。

「2人くるんですか?連絡してみました?」

「あー、俺連絡先知らないんだよ笑」

「俺もー!」

‥馬鹿なの?この2人。と思いながら

「私、2人の連絡先知ってるんで、連絡してみますか?」と、すぐに連絡。

返信はすぐだった。2人とも準備はできてるが、本当に飲み会があるのか、連絡先も知らないし、誰が来るかもわからずに困惑していたらしい。


「今すぐ向かうそうです。てか、いつのまに2人誘ってたんですか?」

「いやいや、今日お昼更衣室で、バレンタインなのに2人とも予定ないとかいうからさー」

‥なんだ、今日決まったんだ。

と、思っていると、

「あーお疲れ様ですー!遅くなりましたー。」と、2人が遅れて登場。

改めて乾杯しなおし、会は仕切り直しとなった。

「そーいえば、まるちゃんの誕生日ってもうちょっとだよね。なんか予定あるの?」

山田が突然、私に話をふる。

「なんでですか。祝ってくれるんですか?じいちゃんとばあちゃんは祝ってくれると思います笑」

「あー、寂しい。男いないのか?男!」

セクハラだ。

「いないですよ、もう、ずっと彼氏いないです。西は?」

と、同期に話をふる。

「知ってるくせにやめてよ。」

うん。2人ともいない笑笑

「はい、もうこの話は終わりです。」

と、くだらない話に花咲かせ、会は終わった。


「それじゃあ」

と、それぞれ各方面に帰っていく中、何故か、蔵脇先生と私はあてもなく歩き始める。

「よかったね。飲み会誘われて」

「うん。いきなりでびっくりしたよ。誰来るかも聞いてなくて、場所も初めてのとこで曖昧だったしね。まるちゃんいてよかった。」

「なんでさ笑」

「てか、これからりなちゃん家行かない?1人ぐらい始めたよねり押しかけよ笑」

「えー、夜勤かもしれないし、歩いたら30分以上かかるよ???」

「タクシー乗ろう笑」

と、酔いもあり、2人でタクシーに乗り込みりなちゃん宅を目指す。

「ラインしてるけど、既読にならないよ」

「えー、何で??」

「夜勤‥てか、夜中じゃん。寝てるよね、普通に考えたら」

「たしかに笑」

酔っ払いほど怖くて迷惑なものはないな、と思うけれどその時の私達は何をしても笑えてしまう。

家へつき、チャイムを鳴らす。

ぴんぽーん。

‥‥‥。

お次は蔵脇先生が

ぴんぽーん。

‥‥‥。

「‥いないやん。やっぱり、いないやん笑」

2人で目を合わせて大笑い。

「アポ無しまじ、無駄だわ笑」

「いやいや、まるちゃん、それも醍醐味よ」

などと、訳の分からないことを言って盛り上がり‥ふと気づく。

「てか、ここ、タクシー捕まらないとこだよね?」

「本当だ、真っ暗じゃん。とりあえず、歩く?」

という蔵脇先生の後ろを着いて歩く私。

バレンタイン‥北海道の2月はものすごく寒いんです。

歩いても歩いても、タクシーは見つかりません。

「寒いね笑」

「うん、寒いね笑 酔い冷めるね」

などと他愛もない話をしながら歩き続ける。

「てかね、私気がついたんだけど、もう、蔵脇先生家着くよね。」

「うん、もう着くね笑 コーヒー飲んでく?」

「朝の3時にコーヒーってなかなかな誘いだけど、指が痺れて動かないからいただこうかな笑」

「だよね、俺も指氷みたいだもん。笑 ごめんね」

「え?なんで????寒いことが??笑」

「いや、ノリでりなちゃん家行こって言ったこと。」

「えー、いいよー、すごい楽しかった!笑 だって2人でめちゃ笑ったじゃん。てかそもそも、いないりなちゃんが悪い!笑」

「たしかに、楽しかった笑 そして、そうだね、りなちゃんが悪い!」

大笑いしながら、蔵脇先生の家へ向かう。

家の前につき、気がつく。

「ねぇ、てかね、鳩崎先生とかにバレたらやばいよね。会わないかな??」

鳩崎先生とは、外科の蔵脇先生の指導者のような存在。

「んー、大丈夫っしょ笑 隣だけど笑笑」

「んー、まっいっか笑笑」

と、社宅に入っていった。


お家の中は何もない。

「何もないんだね、物。」

暖房を付けながら、

「うん。バリスタはあるよ?笑」

と、床にぽつんと置かれたバリスタを指す。

「本当だ。しかも、各種味揃ってるじゃん笑」

「買ったとき、揃えた。てか、物ないのはすぐ、いなくなるから。一年以上いないからさ。」

あ、そうか。若いドクターは同じところに留まらない。

「来年もういないんだ。」

「うん。次はまだ札幌か、函館かはわからないんだけど、ここにはいないんだよね。‥あ、次来る医者、俺の同期なんだけど、めちゃくちゃイケメンだよ。」

「え?そうなの???紹介して紹介して!!!」

と、言いながら、ものすごく寂しく感じる私。

「えー、話しとくわ笑 だけど遊び人だから注意してね笑 てか、もう俺早くいなくなれって思ったでしょ、今」

「あ、バレた???思っちゃった笑」

「ひどーー、てか、何飲む?コーヒー以外もできるよ。ラテマキアートとか。」

おこたへ入ってた私は、先生のところへ。

「そんなあるのか。種類揃ってるもんね笑 何にしよっかなー」

「ラテマキアートあるよ?」

「さっきからやたらラテマキアート言うね。得意なの?笑」

「いや、得意も何もないよ笑 女の子好きそうだなって」

「えー!他の女にもそうやって、ラテマキアートあるよって家誘ってんでしょ!!!最低っ!」

「ないない!そもそも飲み会にも誘われなかったのに、誰も俺に興味ないでしょ笑」

と、笑いながら、ラテマキアートをいれてくれる。

おこたへ戻りながら、

「自分で気づいてないだけで、結構病棟で人気みたいだよ」

と教えてあげた。

「え?俺が???嘘ー!誰誰?俺のこといいって言ってるの??」

「5病棟の子が言ってた。」

「そうなんだー!今度みんなに話しかけてみよっと。」

と、蔵脇先生もおこたへ来る。

「いなくなる途端、めちゃ最低な感じ」

ぶーっと口を尖らせて、ブーイング。

おこたの中で足が当たる。

なんとなく離れられない。

「なんでさー!」

会話はしてるつもりだけど、頭がちゃんと働いてない。

そんな状態が続き、時刻は4時半。

「そろそろ私帰ろうかな。あったまったし。」

「帰るの?送るよ??」

「え、飲酒運転なるよ。」

「うん、だから、明日休日出勤だからその前に送るよ。一眠りして行ったら?」

‥まあ、いっか。どーせ朝だし、ばあちゃん方も寝てるだろう。

「いいの?なら、ちょっと寝よー」

と、お布団へ。別々の布団で寝る私達。

「北越会で、温泉行きたいね。雑魚寝とかして楽しそう」

「いや、もう1ヶ月ちょいしかないじゃん。蔵脇先生いなくなっちゃうじゃん。」

「うーん、そうなんだけど、3月に行けないかな??」

「予定聞いてみる?」

「うん、聞いてみて‥」

と、話しながら自然に私達は手を繋いでいた。

「先生の手あったかいね。ストーブ止めたら寒いよぉ」

「そお??」

そう言いながら両手で私の手を握りしめる。

「‥来る?」

「‥うん。」

そう言って、私は蔵脇先生の布団に潜り込む。

「なんか、飲み会の後なのにすごい良い匂いする」

と、私の頭に鼻をうずめてくる。

「やめてー、絶対くさい。仕事に、飲み会後だよ。恥ずかしい。」

「臭くないってー」

と言いながら、逃げようとする私を後ろから抱きしめる。

「しかも、まるちゃん柔らかくって気持ちいい」

心臓がね、私の音なのか、蔵脇先生の音なのか、わからないくらい、2人の鼓動が激しくて、それが尚更私を興奮させてきた。

いわゆる、バックハグをされ、大人しくなる私。

なんとなく振り向き

なんとなくキスをして

事は始まった。

そのあと、私は心地良さの中眠りについた‥。


「おはよ‥」

目が覚めると、蔵脇先生がいた。ずっと抱きしめながら私の寝顔を見ていたようだ。

お酒を飲んでるから絶対いびきをしてると思うが考えないようにし、ニコッと微笑んだ。

「見られてるの恥ずかしい」

お互いに笑いながら、少しその時間を楽しみ、彼は出勤の準備を始めた。


自宅へ送ってもらい、笑顔で手を振った後、家へ入り湯船に浸かる。祖母はいつでも私が帰ってきたらお風呂に入れるようにしておいてくれるのだ。


別に熱い内容でもなかったし、シンプルに終わったけど‥なんだか‥‥漫画のように湯船に顔を沈めた。

ヒロインになり切る私。

寝不足のため、急激な睡魔に襲われたため、すぐに上がり、ラインを1通送り、一眠りすることとした。


目が覚め、準備をしてエステへ向かう。

なんか‥ものすごく、充実している。

仕事、恋、美容を網羅してる私、素敵。なんて思いながら、エステシャンの唯香さんへあったことを話し始めた。

出来事を言葉にすると、より鮮明な記憶になり頭へと残る。

はぁ。もう会いたくなっちゃった。と、私の心は蔵脇先生でいっぱいだった。

エステが終わり、携帯を見ると

"今日はありがとう。寒かったけど楽しかったね。また行こうね。エステ満喫できたかな??笑"

ニヤっ

"お仕事終わりですか?お疲れ様です!

行きましょ!すごい満喫しました!今日は最高な日です笑"


そんなやりとりを毎日続けていた。


誕生日当日。

蔵脇先生にお祝いしてほしいな‥だけど、今日大きいオペあったよな‥帰れないか。てか、そもそも誕生日祝ってって言ってないし、誕生日のことも伝えてない‥。

そんなもやもやを抱えながら、出勤。

「おめでとう!まるちゃん!」

秦さんが1番初めに声をかけてくれた。

「ありがとうございます!」

「今日のご予定は??」

「何もないのでドンペリ買って家でお祝いします笑」

高笑い。

「えー笑 あのバス停の彼‥」

と言いかけた秦さんの口を塞ぎ、

「やめろーーー!!!!!!思い出させないでくださいよ、全く!」

せっかく、忘れていたのに変なことを思い出させるんだからと怒りながら、オペの準備を進めていった。

お昼休み、きたこっしーがプレゼントを持って来てくれて大喜びな私。


17時。

定時に上がれた私は、車を走らせて自分へのご褒美を買いに。


17時15分

"おめでとう!"

買い物中になる携帯。

あっ!!!!!うそ!誕生日わかってくれてた!!

"ありがとう!!誕生日なんで知ってるの???"

"こないだ飲み会でその話なってたから、そのあと山田さんに聞いたー"

嬉しすぎるーーーー!だけどまだ仕事が終わる時間じゃないよな。

"ありがとうございます!すっごく嬉しいです😊"

"今なにしてるの??"

"自分へのプレゼントにドンピン買ってます笑 誰も祝ってくれないから"

"俺、きたこっしーとか、梅くんの飲み会断って仕事終わったんだけど‥"

‥?え、祝ってくれるってこと????

"え、そうなんですか??オペは?終わったんですか?"

"カメラ持ちだし、他の記録とかやりますよーって言って抜けて、終わらせたから大丈夫笑 もし、いいならお祝いさせてもらっていいかな?"

"え、いいんですか????嬉しすぎる!"

"おけ。今から帰ってだから1時間後くらいに迎えに行っていいかな?"

"うん!私も急いで帰って準備するね!"

そう送って私は車を飛ばして帰宅した。

シャワー入って、化粧して、お泊まり‥するのかな?しないのかな?どっちも行ける準備しとこう。

ばあちゃんには友達の家でお祝いしてもらうと伝えて、急いで出ていった。


「ごめん!お待たせ!」

「お疲れ様。大丈夫なの?誕生日にご家族お祝いしようとしてくれてたんじゃない?」

「大丈夫!飲みに行くだろなって思ってたみたい。」

本当言うと、ビーフシチューにケーキなど、私の好きなものを用意してくれてたおじいちゃんと、おばあちゃん。

反抗期ではないので、1時間もない時間の中で、乾杯をして、ご飯をすべて平らげて、お祝いしてもらっていた笑

「そっかそっか。よかった!とりあえずどこ行く?」

「シャンパンあるから、ラブホに行きたい!」

とは、言えない。さすがに、一回目は事故かもしれない。私が1人で可哀想だから祝ってくれようとしてる?

「シャンパンあるから飲めるところがいいよねぇ」

「んー、どこがいいかなぁ」

お互い気持ちは同じなのに、なかなか言えないまま、ただ車を走らせること2時間。

しびれをきらせ、

「ホテル行く??海辺に綺麗なところあったはず。」

「いいよ、どこか教えて?」

そう言って道案内をした。

正直、そこに行くのは初めてで、前を通るから覚えていただけなのでやってんのかやってないのかすら分からず、恐る恐るコテージに車を止めた。

大きな窓からは海が見える。

透明なバスルーム。

キングベッド。

普通のビジネスホテルなんかより綺麗で、素敵。


「めちゃめちゃ綺麗!すごい!これがラブホなの????」私ははしゃぐ。

「本当だ!めっちゃ綺麗じゃない????いいじゃん!」

そう言って、軽いキス。

「お風呂ジャグジーなんだけど、入りたい!お湯入れてくる!」

私はキャッキャしながら、お湯を貯めにいった。

「ねぇ、シャンパン開けよ!飲もう!お湯溜めてる間に乾杯だ!」

そう言って私はシャンパンを開ける!

ぱーーーーん!!

「おめでとう!れみちゃん。」

え?下の名前だ。下の名前で言ってくれた!

「下の名前知ってたんだ笑 たくやくん❤️」

バカップルだよな。だけど、楽しかった。

「さあ、乾杯‥」

チャチャラチャラ〜♪

「‥ん?私?なんで?‥げっ、秦さんだ‥」

まじ、バッドタイミングな先輩。

「出な。先輩からの連絡は絶対だから。れみちゃん諦めな。」

音が鳴り止む。‥切れた‥と思ったらまた鳴ったー。

しぶしぶ電話に出る私。

「もしもしー?まるちゃん?何してんの?どこ?早く。誕生日って言ってたのに、なんで来てねーのよ。」

‥誘われてないし、聞いてないし、どこかも知らんし。

「秦さん、今かなりダメです。」

「は?ダメとかねーから。ほら‥」

ん?

「‥もしもし、まっるちゃーん!八代です。」

ずどーーーーーーーん!なんで、今日?いや、誕生日だからか。

「先生、おつかれさまです。」

たくやくんの手前、浮かれられない。

「まっるちゃん。誕生日なの?今日。俺聞いてないよ??」

「そんな、先生に言えるわけないじゃないですかぁ。」

「おーいで、早く。待ってるから。」

「てことだから??」

「いやいやはたさん、てことじゃないです、今日は無理です。」

「知らん。来なかったら覚えておけよ?待ってるねー」

ブチっ!

‥空いた口が塞がらない。

なんて強引なの?

「信じられない、全然人の話聞かないんだから。」

「さすがだね笑八代先生も秦さんも噂通りだ笑 れみちゃん。行かないとダメだよ?」

なぬっ!

「え?なんで?2人でせっかくきたんだよ。シャンパンも飲むところだし、お風呂も入りたい。やだ、そんなの。」

「れみちゃん。こーゆー時は先輩を優先しないとダメなんだよ。俺はちゃんとここで待ってるから行っといで。」

わかってない。この人たちの飲み会がどんなものか。明るくならないと帰れない。明日も仕事だからほぼ一緒にいられなくなるのに。

「‥んーーーーわかった!でも、何分とは言われてない!」

そう言って、私は残ったドンピンを瓶で一気に飲み干す。

「お風呂入ってエッチしてからいく!」

「え?ちょ、大丈夫??」

「誕生日だから大丈夫!」と、訳の分からないことをいい、私はたくやくんに襲いかかった。笑


そのあとタクシーを飛ばし、繁華街へと向かった。

とは言っても場所を聞いてないため、いつもの店へ向かった。しかし、いない。

え、うそでしょ?そう思い、秦さんへ電話する。

電話する。電話する。電話する‥。

出ない。何度かけてもでない。

いやいやいやいや、こっち男待たせてきてんだけど。

帰ろうかと思ったとき、着信が。

「どこ?」

「いつものとこに来ちゃいました。どこなんですか?店。」

「あー、今行く。」

迎えに来たのは、佐藤さん。

「さとやん。私今日は出たくなかったのに。友達といたのに。」

「あー、可哀想に。そして、もっと可哀想に」

????

「どーゆこと??」

「行けばわかる。」

よくわからない道を通り、今思い返しても場所がわからないようなお店。

知らないおじさん2人に、秦さんと八代先生。

金髪のお姉さんとママって感じのお店の人がいた。

「まっるちゃーん!!よく来たね。遅いよー」

「八代先生、遅くなってすみません。お誘いありがとうございます!」

「まるちゃん。こちら2人はおじさんたちです。」

「丸山です。よろしくお願いします!」

「若いねぇーいくつ??」

「今日で22になりました!」

「わかーい!!いいねぇ」

金髪のお姉さんと田舎の工藤静香みたいなママに言われる。

ペコッ。

飲み会で女の人とどう話して良いか分からない。 「でもほらー」って、金髪のお姉さんがおじさんに向かって、ぽろんっとおっぱいを出した。

ポカーンって口が開いた。

なぜ、私は自分の誕生日に好きな人と過ごせるはずのときに、知らない女のおっぱいを見せられてるんだ。

「どんまい。」秦さんが誘ってきたくせに、哀れな目で私をみる。

きっと睨むと、

「可哀想に」といつも冷たいさとやんまでもが私の頭をポンっと撫でた。

いや、なぜそう思うなら私を呼んだんだ。


飲めない焼酎をちびちび飲みながら、時間ばかりが気になる。全然楽しめない。

もう寝たかな?呼び出しあったかな?

酔えない私と相反して、どんどん酔ってく周り。

早く帰りたいなぁ〜。まだかなー。大人の世界って大変だなぁ。

と、大人の世界の厳しさを実感した。


「お疲れ様でした〜!」

八代先生を全員で見送り、それぞれ解散となった。

しかし、バス停事件から秦さんやさとやん、みんな過保護になっているため、こっそり帰りたい私を送り届けると言って譲らない。

‥帰るのラブホ。いるのは同じ職場の医者。バレたらやばい。

うーーー。

「大丈夫ですよ。私今日酔ってないし、2人は一緒に帰ってください。」

「いいよ、相乗りで行こ。」

そう言うと、タクシーに乗せられた。


秦さんを降ろし、さとやんと2人。

「さとやんさ、こっちじゃないよね。遠回りどころじゃないでしょ。」

「うん、そうだけど、心配しなくていいよ。八代先生とかかからも最後まで送るように言われてるし。大丈夫。」

「そう‥」

ありがたいのか‥。

「てか、友達にお祝いしてもらってたんでしょ?」

「うん、そうなの。だから荷物とかもあるし、帰りはそっちに帰る。」

「こんな時間起きてる?」

時間は5時。

「起きて、、ないだろうけど、大丈夫。」

「そっか‥。」

さとやんは深掘りしてこないからいい。まあ、そもそも私に興味もないのだろうけど。

「あ ここで!」

そういって、タクシーを停める。ホテル近くのセブン。少し買い物して帰ろう。

「今日はありがとう!タクシー代‥」

「いらない。じゃあ、おやすみ。おめでとう。」

お金を出そうとしてると、タクシーを下ろされ、さとやんは去っていった。

スマートだなぁ。‥あ、急ごう。

午前5時。ほろ酔いで猛ダッシュ。ドアの前につき気がつく。

鍵ないし、どやって入るんだ。チャイム鳴らすのかな?起きてくれるかな??

ピンポーン

ガチャっ。

眠たそうな顔をした拓也くん。

「お帰り。遅くまでおつかれさま。」

そう言って、しめのらーめんまで食べた油臭い私を抱きしめてくれた。

「ごめんね、起こしちゃって。しかも、お祝いしてくれてたのにぃー」

もう一度2人ジャグジーに入りながら、あったことを拓也くんへ報告する。

大笑いする拓也くん。

「すごいな、やっぱり八代軍団。想像以上だわ笑。そして、れみちゃん愛されてるんだね」

「れみ、愛されてる?嘘だ。愛されてたらこんな強引なのないよー!」

「愛されてなかったら、お祝いもしてもらえないよ?」

うーん。お祝いだったのかはわからないけど、まあいいか。

「れみは拓也くんといたかったのーーーーーー!!」

そう言って、ジャグジーで拓也くんに襲いかかる私。

睡眠時間0だけど、幸せすぎて元気。

一発終わって、ベッドでだらけたあと、仕事があるので一度自宅へ帰り、支度をして出勤した。


この時の私は、仕事で新しいことがどんどん増えて大変だったはずなのに、全く苦ではなかった。

出勤したら、拓也くんに会える。

自分が成長したら、拓也くんのオペに入れる。

仕事もプライベートも成長して、大人になってる感じがする。

と、浮かれ野郎だった。


これからの毎日は、幸せだった。

毎日毎日ラブホテル。

遅い時間まで働いてる拓也くん。晩ご飯を作り、ホテルへ持ち込み2人でご飯。

手作りのご飯をおいしいおいしいって食べてくれてる幸せ。

ホテルについてるカラオケで、GLAYのBELOVEDを歌う拓也くん。なのに、飲み会では必死に歌うAAAの恋音と雨空。

北越会も頻繁に行われるけど、関係は秘密。

帰りは一緒。

学会の資料を作るのを手伝ったり、論文の和訳をしたり‥。

夜中のファミレスで、翌日のオペのシミュレーション。

関係無くても見にきてくれて、バレないアイコンタクトで励ましてくれる。

今まで生きてきた中で1番幸せと思える時間だった。


3月に入り、人事が発表となる。

拓也くんは函館へ行くこととなった。


送別会シーズン。

転勤場所も決まった拓也くんは毎日のように送別会。会える時間がなくなっていく。

連絡が返ってこなかったり、返ってきても夜中だったり。

約束の日も、遅い時間。会ってもどこかそっけない。

‥なんでなんで?って思っても言えない。

いつ、会えるんだろう。

もう一緒にいる時間も私達だって少ないのに‥。


そんなある日、

"会いたい"ってつい、送ってしまう私。

返信は夜中。

"もう会わない方がいいと思う。俺、いなくなっちゃうし。"

‥。喉から心臓が出るくらい、何かが込み上げてきた。

"いなくなるから、今会うんじゃないの?"

返信をする手に力が入らなくて震えてしまう。

"うん。会いたいけど、もう辞めといた方がいいよ。れみちゃん。"

なんでそんなこと言うの?それなら最初からそうならなかったらこんな傷つかなかったよ。

そんな風に思っても言えない。

そう思うのは、‥拓也くんは結婚してるから。

拓也くんと直接その話をしたことはない。

スリルがドキドキとか、不倫を楽しんでたわけではない。

単身赴任の拓也くん。

初めて家に行った時、一人暮らしの男の人の家には絶対ないはずの、赤ちゃんのお尻拭きが置いてあったこと。

飲み会の席で私以外の女の子が、可愛いー女の子なんだねー。などと、騒いでいたこと。

ちゃんと、わかってたけれど、私は都合の悪いところに蓋をして、無かったことにして過ごしていた。

"意味がわからない。だってそもそも今を楽しむだけの関係なんだから、距離置く意味がわからない。"

ただの強がりだ。私がのめり込んでいくことに拓也くんは気付いてた。重くなったんだろう。奥さんも子供もいる人にとって、まして医者にとって、地方の看護師なんて遊びでしかない。

"そうだね。"

流されてる。もうやだ。

そう思いながら、下で寝ている祖父母に声が聞こえないよう、枕に顔を埋めて泣いた。


次の日。

一気に全てが曇り始める。

何をしてもうまくいかない。手につかない。

オペ室で姿を見つけても目が合わないし、私からも声はかけられない。

帰宅後も、携帯を見ないようにしながら、酒に走る。寂しくなると街に出て、行きつけのビールバー ビエーレに入り浸る。

「れみー、大丈夫か?」

ビエーレでバイトしている私が憧れを抱いているお姉さんのだっちさん。

「大丈夫じゃないんです‥」

と大泣き。

のだっちさん、ママ、マスターは私の話をいつも聞いてくれる。

マスターは冷静に答えをくれ、ママは優しく包み込んでくれる。そして、のだっちさんは時には私に喝をいれる。

そんな毎日を過ごし、とおとお拓也くんがいなくなる最後の日。

いつものごとく、ビエーレへ。

「れみ‥今日最後なんじゃないの?」

のだっちさんがコップを磨きながら私へ聞く。

「‥そうですよ」

カイザードームを飲みながら、ボソッと答える。

「いいの?ここにいて」

「いいんです。まだ、800ミリくらいは残ってるしね、簡単に行けないですよ。それにそもそも、連絡来ないし。最後なのに」

そうだよ、私からなんか連絡できないし、しつこいって思われてしまう。

「でも、最後なんでしょ?会いに行けばいっしょ。ここで傷ついて泣いてるくらいなら、行ってぶつかってこい!れみらしくないぞ?」

「だって‥」

「うふふ、れみは怖いんだもんね。わかるよ。だけど、一緒に会えてる時とか、可愛かったなぁ。ちゃんとケジメつけてきた方がいんじゃない?」

と、ママが微笑みながら私に言う。

「そうだ、れみ。しっかりケジメつけといで!もし、なんかあったらまた戻って来ればいい!いっといで!」

‥。

「連絡してみる。」

"拓也くん、今日で最後だよね。最後に会いたいな、だめかな?"

返事くるかな‥。

「頑張った頑張った、れみ。大丈夫。ちゃんと来るから。」

「‥あ、来た!‥」

"これから函館行くところ。いいよ、会おっか。"

「‥これから函館行くみたい。だけど会おっかって。」

「よし、行け、れみ!いっといで!!!」

のだっちさん、ママだけではなく、いつの間にか周りのお客さんまでには励まされ、私はビエーレを飛び出した。

待ち合わせ場所は、拓也くん家近くのコンビニ。

ビエーレからタクシーで10分弱。

コンビニ着いて周りを、見渡す。

あ。見覚えのあるクラウン。

お別れなのに、最後なのに、笑顔になってしまう。車に乗り込みながら、

「お疲れ様!」

精一杯元気に声をかける。

「お疲れ。飲んでたの?」

「うん、ビエーレにいたの。」

「ふふっ、好きだね。俺は鳩崎先生に捕まって大変だったよ。」

「そうなの?相変わらずだね笑」

何事もなかったように普通に話続け、私の家の近くに着く。いつも、降ろして来れてた場所。

「‥やだ。一緒にいたい。」

「うん‥でも、朝一で荷物来たりしちゃうから。」

嘘かもしれないけど、気持ちないなら切ればいいのに。

「やだ。そんなのやだ。ずっと会いたかった‥」

ずっと堪えていた涙が溢れ出し、止まらなくなってしまった。次から次と我慢していた言葉を発してしまう。

「なんで?こんな予定じゃなかったのにこうなるの?好きになるなんて思わなかったのにこうなるの?なんで突き放すなら、毎日会ったり、誕生日祝ったりしたの?なんでその気にさせたの?なんで仕事見に来てくれたの?なんでなんでなんで?今更、転勤だから会えない、離れた方がいいって、こうなったあの日もうすでに転勤なのはわかってたじゃん。なのにそんな関係になったのはなんで?」

ただの八つ当たり。そんなのわかってるけど、なんか文句を言わないと居た堪れなかった。

「ごめんね。こんなにれみちゃんが俺にハマると思ってなかったし、それに俺もこんな一緒にいたいって思うと思ってなくて、お互いのためにも離れないとなって思って必死だったの。」

そんなの綺麗事とわかっていても、そう言われると責められない。

「れみのこと好きだった?」

「うん、大好きだったよ。」

「うーーーん。また会える?」

「いつかね笑」

「嘘じゃん絶対。それ。」

「10年後か、れみちゃんに彼氏できたらかなー」

「ひどい、会う気ないやつ。」

「なんでさ笑」

そう笑う彼の車で流れてるMr.Childrenの口笛。

「なら、最後に写メ撮って。あと、ドベーキーって言ってよ。」

不倫という後ろめたさはずっと持っていたから、写真を撮ることはできなかった。

彼が、オペ中私に言う"ドベーキー"という器械の響きが好きだった。

変態だけど、彼と離れても頑張るためのツールとして。

「え、写メはわかるけど、なんで録音しようとしてんの?笑」

「だってー、好きだったんだもんー!!!」

「意味わかんない笑笑」

「だめなの?」

睨みつける。

「いーよ笑」

涙でぐちゃぐちゃな顔の私。

決してかっこよくない彼。

私の一年目の恋は終わった。


笑顔で彼の車に手を振る。


ここから、どんどん私は間違った方向へと向かい始める。

anegoに憧れた私。新人感満載で、なりきれてない。自分は捨てきれない、だけど流されやすい。

不安定だけど、ネタに尽きない私の物語。


一年目  完

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