転生したなら推し活でしょ!!

栗谷川 爽

第1話 幕前

 異世界転生。


 それは昨今のラノベテーマの流行だ。


 誰が始めたか、今生では目立たない主人公が死後、ファンタジックな世界で成り上がっていくのが主流だと思われる。(主に男主人公が多い)


 それは異世界に来る時に、チート的な能力を手に入れたことが理由だったり、ゲームなどで既に世界感や進行内容、最も効率のいい展開を知っていることなどが理由だったりもする。


(そもそもゲームの主人公って時点で勝ち組決定なんだろうけど)


 勿論この内容に当てはまらないこともあるが、


男は基本最強願望があったり、特別に憧れる傾向が強いのか、山程存在するジャンルなのに人気作が複数存在しており、衰えを見せない。




 そしてどういうことだか、おれも転生してしまったようで、今より元ネタ世界の時間軸に乗ろうとしていた。のだが……




「成り代わり系とか新ジャンルじゃね?」




 派手に落ち込む理由にはならないが、強いて希望していたシチュエーションとは大分異なるのは事実。


 どうやらおれ、深山信人は大人気アプリゲームの登場キャラクター・マインラートとして生まれ変わってしまったらしい。




 勝手なイメージだけど、成り代わり系は女主人公の専売特許だと思っていた。


 昨今の転生ブームは男性向けジャンル、女性向けジャンル問わずな感じではあったし、女主人公ものの主力は悪役令嬢転生系だと記憶している。


 特段そちらも手をつけていたわけではないが、アニメ化、今シーズンの覇権アニメにまでなっていたら、普通に認知もするし視聴もしていた。


 ゲームのサブキャラクターである悪役令嬢に転生する。こういうキャラそのものが自分に置き換わることが、成り代わり系なのだと認識したのは(前世のおれ的には)記憶に新しかった。


 まさか自分に降りかかるとは思ってはいなかったけど。




 よりに寄ってキャラ萌必須のアプリゲームのキャラの一人としての転生とか、大丈夫なのか?という疑問も残る。


 え、これ本当に大丈夫? この世界の外で俺ちゃんと人気ある? おれの時だけイベントオリジナルストーリー解放ガチャの売上落ち込んでたりしない?


 それは運営に申し訳がたたない。元のマインラートはとても魅力的なキャラです。育ててないから知らないんだけども。


 オタクにとっては、この不安は理解してほしい。特に課金は運営へのお布施だと思っていたおれとしては、まぁめちゃくちゃに気になる!


 根本的なことをいえば、そもそもまだゲームはスタートしていないのだけども、始まる前から責任重大過ぎてお腹が痛くなりそうだ。




 そして今、目の前には親の顔より見たゲーム画面、ホーム画面にあった講堂が広がっている。


 背景のディテールが高いことで有名な今作としては、完成度100点満点の立体化だ。


 細部の装飾再現も美しく、むしろ裏はこんな感じなのかという発見もある。


 基本左右対称、前後対称な線対称なデザインは、なんか建築にそういう技法あったよね? 的なことを考えていた。


 この講堂と周辺施設がゲームメニューのエリアであり、これから日常生活を送る空間になるのが想像できる。


 


 今日の講堂は人が多い。


 皆んな、今日という祭日・天使の日を祝いに来ている。


 おれだって、お師匠様から天使の日の祝いの花を献上し、清水をいただいてくるというおつかいに来ているだけだ。




 マインラートのゲーム開始時の年齢は知らない。


 ゲームの開始時が何年なのかも明記されてなかったはずで。


 でも、間違いなく講堂で天使の日に事件が起こる。


 それは今年かもしれないし、来年、同じ条件が揃えば可能性が出てくる。




 初めて講堂に来たのは3年前の天使の日で、その時おれは12歳で、お師匠様も一緒だった。


 それまで天使の日の用事はお師匠様1人で行っており、おれはお留守番をさせられていた。


 3年前はおれが12歳を迎えていたこともあり、成人(早くね?)としての祝福を賜らなければいけないとか、なんかそういう理由だ。


 講堂を見た時は興奮よりも先に凍りついたし、ただのファンタジーな異世界に来たと思っていたからこそ、ここがゲームの世界だと知ってしまったきっかけだった。


 


 忘れるわけないゲームのホーム画面まんまの光景が広がっていた。


 違うところといえばモブと言ったら失礼だが、知らない登場人物や通行人で溢れかえっていたことだけだ。


 この講堂の背景はホーム画面以外にもストーリーで登場しているが、確かにストーリー序盤の天使の日のシーンでは、正直ゴーストかなんかのような黒いボヤっとした通行人たちが沢山描かれていた気もする。


 ゲーム時空がスタートしなければ、この先もここは人が溢れて、皆が神を祈り、祝福を受け、幸せの溢れる空間であっただろう。


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