架けるもの

@akakichi

第1話 プロローグ

 ───ねぇねぇあの橋について知ってる?───


 転校初日に隣の席の人に聞かれた。あの橋とは多分眼鏡橋のことだと思うけどどうして僕に聞いたのか。

「うん、知ってるよ。確か日本で最初の石橋でしょ」

そう答えると相手はにやりと笑った。

「やっぱり知らないんだね」

「ん?それにやっぱりって?」

聞き返すももうその子はどこかに行ってしまった。あの橋に何があるというのだろうか。しかし、ごちゃごちゃと考える暇もなくいろんな人に話しかけられたため下校することには忘れていた。帰り道、眼鏡橋まで差し掛かった時誰かにランドセルを叩かれた。

「、、、っ!」

とっさに振り返るとあの時の人がいた。

「ちょ、そんなに警戒しなくても何にもしないって」

「急に後ろから叩かれたら誰でも警戒するだろ」

相手は、そう言うものなのかなとしっくりきてないようだった。だが帰り道が同じならと、しばらく一緒に歩くことにした。

「そういえばさ転校生くん、名前は?」

「先生の話聞いてなかったの?」

「まぁいいじゃん!いいじゃん!教えて!」

ずっと転校生と呼ばれるのも面倒なので仕方なく教えた。彼は僕の名前を頭にすりこむかのように何回か呟いた。

「栄、さかえ、さかえ、さかえさかえさかえ・・・」

「僕よりも君の名前の方が気になるんだけど」

「あ、あぁ〜そうだよね!ごめんごめん。

俺は東だよ」

東くんか、まさかこんな明るい人と友達になれるなんて思ってなかった。そういえばと今朝の話を思い出した。

「朝言ってた橋がどうかしたの?ここだよね」

そのことを話すと東くんが足を止めた。僕は空気が張り付くのを感じた。これは何か触れていけないものに触れた時のものだ。なるべく避けていたのに初対面だと難しい。

「うん、そうなんだけどそれはここでは話せない。特にこの橋の上ではね」

この橋が一体どうしたというのだろうか。だがこの空気感だとこれ以上踏み込むことは不可能だと本能が言う。

それ以上は話が続かなかった。最後に東くんがまたねと言うまでどのくらい時が止まっていたのだろう。東くんと別れたらあの憂鬱な家へと帰らないといけない。なるべく外で暇を潰したかったが小学生の僕には門限かあるから厳しい。

「はぁ」

大きなため息をつき帰路へと向かう。


「───遅い!」

耳障りな声がリビングから聞こえて来る。玄関からリビングに入るとまた部屋が荒れていた。皿は割れ、家具も傷だらけ。

「こんな時間まで何してたの。またあの女と会ってたの!」

「違うよ。僕だよ…」

あの女…。母を捨てて父と逃げたあの人。その悲しみからか母はこうなってしまった。しまいには僕を父と呼ぶようになった。

「栄、栄、お願いだから!あなただけは私を捨てないで!うぅごめんね、ごめんね、、。」

こうやって謝りはするのにしばらくするとまたおかしくなる。



───こんな家、とっとと離れたい───






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

架けるもの @akakichi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ