第10話
温泉街のお店は閉まるのが早い。
今回は滑り込みセーフと言うほど、ギリギリではないが…少しずつ閉店の準備を始めている所だった。
「ちょうど良かったね。
買うのはビールだけだし、さっと買って帰ろ。」
アキが手に取ったのは、鬼のイラストが特徴のラベルをした鬼伝説という缶に入ったビールだった。
他の地ビール同様に瓶に入っているものもあるらしいが…今回は手軽さを重視して缶の物を選んだ。
赤鬼のラベルのレッドエール。
青鬼のラベルのピルスナー。
「女は黙ってピルスナー。」
オオダは、そんな勇ましい事をいいながら青鬼のラベルのビールを手に出る。
しかしながら、子供が誤って取らないようにする為なのかやや高いところにあるせいでプルプルと背伸びをしてとっている姿はかなり愛らしい。
一人でとれて満足げにするオオダの視界に入らないようにサラッとオオダと同じビールをとるアキの優しさに感動しながら、ミナトはあえて見せつけるようにしてオオダと同じ缶ビールを取った。
「天誅。」
「ひゃん!」
ミナトの意図を察したオオダは、無表情で彼女の横腹を人差し指で突く。
横腹が弱いミナトは、女性らしい甲高い声をあげていた。
これ以上は周りにかなり迷惑をかけてしまう。
「ほーら、他の人の迷惑になるし会計を済ませて帰りましょ。」
分かったよ、ママ…等とは言わずに心に秘めた2人は会計を済ませて宿に戻った。
今回の宿の部屋は、和室と洋室の混合の部屋だった。
少し大きめな部屋で土足用の空間に大きめなベットが四つ、畳の上にテーブルと座布団を敷いた座椅子並んでいる。
冷蔵庫に飲み物などを詰め込んで、ベットの上にダイブするミナト。
普段は畳とお布団なのだが…たまにはベットも悪くない。
新品のようなベットのバネの反発を楽しんでいると何やら視線を感じた。
それは、ベットの上に座って一息ついたアキも同じように感じていたみたいで2人揃って視線の感じる先を見る。
そこには、座椅子に座って両手で缶ビールを握っている上目遣いのオオダがいた。
かなり可愛らしいのだが…ビールのラベルの鬼伝説が全てを台無しにしている。
「そんな見た目なくたって、断らないわよ。」
「せっかくの旅なんだ、やりたい事やろうか。」
2人はヤレヤレと言った様子で、テコテコとたたみの上まで移動してそれぞれビールを握り、リングプルをつまみ上げて栓を開ける
。
ここで何か口上を。
チラリチラリとお互いを牽制し合う三人。
「無難にいきましょ。
3人の再会を祝って乾杯!」
「ミーちゃんたら、もっと面白い事言わないと。」
意を決してそう言いながら、缶を突き出すミナト。
半笑いでそうアキに続いて2人も缶を突き出した。
「「乾杯!!」」
柔らかい金属がぶつかるような音を響かせた後に3人は、ビールを飲み始めた。
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