素直じゃ生きられない

ワッショイ勝ち知らず(長谷川けろ)

第1話

「素直じゃ生きられない」1


 教室のカーテンが何者かにカッターで切り裂かれた。


 ホームルームの時間の事。先生は少しの沈黙の後に「全員目を瞑ってくれ…今日なカーテンが何者かに切られた…自分がやりましたと今言ってくれたら先生はお前達を許す。やった奴は手を上げてくれ」先生は瞳を潤ませながら声が震えていた。なぜ解るのかというと僕は目を閉じていないのである。そして、隣の席の沼田佐智子さんの手が震えているのが解った。恐らく隣の沼田さんが犯人だろうと思った。


 僕は目を閉じて、手を上げた。


「ありがとうなぁ正直に答えてくれて…後で職員室へ来てくれ」

先生は皆に目を開けるように言ってから教室から出て行った。

 教室の中はざわついていて直ぐに犯人捜しが始まった。


「のりお~!カッター貸してくれないか?」

俺はのりおに声をかけた。

「お?なんで?」

のりおはそう言いながら俺の方へ来た。

「セガちゃん犯人?」

のりおはクラスのジャイアン的存在のデブである。

「そうだよぉ」

「マジで?いつやったの?」

「さっき」

「いや、昨日からカーテンやられてたよ!」

「じゃ昨日やった」

「セガちゃん犯人じゃないだろ?」

「いいんだよ!カッター貸せよ!」

のりおはカッターを貸してくれた。

「俺も先生のところ行くよ」

「え?じゃあ、のりおが犯人で良いんじゃ無い?」

「え?一人なの?」

「二人もいらんだろ」

俺はのりおのカッターを持って職員室へ向かった。


 先生は困った顔をしている。

「瀬川ぁなんでやった?」

「え?」

しまった。カーテンを切り裂いた理由を考えずに来てしまった。

「あ、え、切れ味を確認しようと思いまして……」

「なんだその理由は!紙でいいだろ!」

確かに!

「布の方があれであれかと」

「お前は犯人じゃないだろ!」

「犯人です!」

「じゃあなんでこのカッターは田中って書いてあるんだよ!田中から借りてきただろう!」

「俺が犯人ですよ」


 何を言われても「俺が犯人ですよ」を繰り返していると先生は折れた。カーテンを切り裂いた犯人は俺と言うことで解決すると言って俺を帰らせてくれた。


 桜並木の土手を歩いていると橋の手前のベンチに沼田佐智子さんが座っていた。

「瀬川君…ありがとう」

沼田佐智子さんは俺の前に立ちはだかった。

「は?なにが?」

俺はタバコをくわえた。

 中学三年生ータバコを吸うと緊張感がほぐれたのである。不良では無い。

「瀬川君…タバコ…」

「だから?」

「ごめん」

「は?なに?」

「カーテンは…」

「ああああああああああああああああああああ!」

俺は聞こえないふりをして沼田佐智子の横を過ぎて住宅街へ歩き出した。沼田佐智子さんも後を着いてきた。

「なに?さっきから?」

「あ、私もこっちだから…ごめん」

俺は立ち止まった。沼田佐智子さんも立ち止まって振り返った。

「あのさ、悪りぃことしてねぇんだから、謝るの止めろよ!うぜぇから!」

「あ!…ごめ…ごめ…ごメリークリスマス!」

沼田佐智子さんは危うくごめんと言いそうになりまだ10月なのにクリスマス気分になってしまった。



つづく

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