72限目 査問会①

 レイラは夢乃たちに挨拶をするとすぐに、桜花会室の隣にある生徒会議室に向かった。


 その足取りは重かった。


(あー、マジ帰りたい)


 生徒会議室の前に立ち扉を見上げた。


 生徒会議室という名であるが実際は桜花会と生徒会が話し合う部屋となっており他の生徒が使うことはない。


 自然とため息がでた。


「レイラ様もお疲れですか?」


 突然、後ろから声を掛けられて驚いて振り向くとそこにいたのは生徒会長の江本貴也だ。


「江本生徒会長」


 レイラが名前を呼ぶと、貴也は彼女に頭を下げた。

 彼女を見下げないように少し腰を落とした。


「疲れますよね。レイラ様は被害者ですしね。話によれば本来あの扇子はレイラ様が香織様から頂いたものだ聞いております」


 物腰柔らかい印象である貴也だがその目は鋭く光っていた。

 レイラが困った顔をして黙っていると、貴也は何かを思い付いたように目を大きくしたレイラの方を見た。


「もしかして、それを亜理紗様に奪われたのですか? それならば一大事ですね」


(なんだ? このいかにも“自分は味方です”みたいな態度は)


 レイラは彼の質問にすぐに答えずに、口に手を当てて黙って下を向いた。


「レイラ様、そんなに気を病んでいるのですね。でしたら、この査問会で真実をはっきりさせて上に報告しなくてはなりませんね」


(もしかして、コイツ、亜理紗を退会させたいのか? )


「レイラ様、気が重いかもしれませんが、部屋に入りませんか」


 貴也が手のひらを揃えて、カードリーダーに学生証をかざすように促すとレイラは勢い良く顔を上げて彼の瞳をじっと見た。

 貴也はそれに圧倒され黙って彼女を見つめ返した。


「違いますわ。あれは私(わたくし)が“亜理紗”に渡したのですわ」

「……」


 誰であっても桜花会上級生を呼び捨てする事はありえない。

 しかし、レイラは上級生の亜理紗を呼び捨てした。


 貴也は声が出なかった。


 レイラはそんな貴也を気にせずに、自分の学生証を生徒会議室のカードリーダーにかざすと中に入った。

 貴也は首をふると同じように学生証をガードリーダーにかざし、彼女を追うように会議室の中に入った。


 中に入ると、部屋の中心に椅子があり青ざめ下を向いた亜理紗が座っていた。彼女を囲むようにテーブルが並べられてそこに名札があった。

 レイラは桜花会側の末席にあるに座った。桜花会は憲貞と香織以外は揃っていた。

 リョウの席にある名札は横に倒れていた。


(そういや、兄貴は今日学校に来てねぇだっけな。だから欠席か)


 亜理紗を挟んで反対側に生徒会のメンバーが座っていた。後から来た貴也は亜理紗の正面に座った。


 これで生徒会は全員揃った。勿論、彩花もいた。


 しばらくして、憲貞と香織が到着して亜理紗の正面に座った。


 憲貞を真ん中にして、左右に貴也と香織がいた。


(超こえぇ。この席の俺でも緊張するのに、亜理紗はマジでやばいだろうな。コレもう裁判じゃねぇ?)


 今回の査問会を仕切るのは桜花会だ。そこに身内贔屓あればすぐに生徒会からストップが入り主導権が生徒会へと移る。


 5年の桜花会副会長である中岡圭吾が査問会の開始の挨拶をすると、今回の審査するべき事柄について説明を始めた。彼の言葉が発せられ途端、桜花会の書記である北沼(きたぬま)真人(まさと)と生徒会の書記である緒方(おがた)一(はじめ)の手が動いた。


「豊川(とよかわ)亜理紗(ありさ)は、桜花会である事を盾にして2週間と言う長い期間、中庭を占領した。それにより多くの生徒が食事や休息が取れないと言う事態を招いた。その件に対しての苦情が生徒会に寄せられている。桜花会でもそれを確認している。更に、豊川亜理紗が持つ、扇子だが……」


 そこまで、圭吾が話したところで突然ガタンと椅子が倒れる音がした。


「これは亜理紗のせいではありませんわ」


 圭吾の言葉を遮り、勢いよく立ち上がった亜理紗が大きな声で反論した。

 副会長の言葉を遮り自分の主張をするという桜華の生徒とは思えない品のない行動に、その場にいた全員が眉をひそめた。


(あちゃー。アイツ空気読めない系か? まぁ読めれば査問会なんかに掛けられねぇか)


 レイラは自分の事ではないのに、ハラハラとして気持ちが落ち着かないかった。


「どう言う事ですか?」


 圭吾は言葉を遮った事を特に咎める事はせずに、彼女の話を聞いた。すると、彼女は嬉しそうに頬を染めた。


「はい。圭吾様。貴方なら亜理紗の事をわかってくれると思ってましたわ。これは亜理紗のせいではありませんの。頼まれたのですわ」

「頼まれたのですか。一体誰にですか?」

「勿論、大道寺レイラですわ」


 亜理紗は自信満々に、レイラの事を指さした。全員の視線が一気にレイラに移った。


「へ……?」


 レイラは予想外のできごとに、変な声を出た。


(マジか。むちゃくちゃだな。どうするかなぁ)


 レイラは数秒悩み、覚悟を決めニヤリとして部屋にいる全員の顔をじっくりと見た。


 最後に亜理紗の事じっと見た。


「その通りですわ」


 レイラが彼女の言葉を肯定すると部屋にいる全員がこれでもかと言うくらい目を開いた。当事者の亜理紗も驚いている。


(てめぇが驚いちゃダメだろ)

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