51限目 犬猿
レイラはそう言って、タブレット端末をカバンにしまいそのかわりにお弁当を出した。
それを見て、彩香はお弁当を出して食べ始めた。その様子を夢乃と藤子は目を細めて見ていた。
「どうします? 私はレイラ様に無礼を働いた様です。そして、特待Aのお二人もレイラ様は守るためとはいえ、騙したのですよ」
楽しそうに笑う彩香に対して藤子と夢乃はこの世の終わりに様な顔をしていた。
「中村さんは、特待をやめたいのですか?」
「いいえ。まだ、いても良いかと思っています」
(まだねぇ)
「そうですの。それではこれからよろしくお願いしますわ」
レイラが微笑むと、彩花も口角をあげた。そして、レイラは藤子と夢乃の方を向いた。その動作に2人はビクリと身体を動かした。
「藤子さんと夢乃さんは、お2人が私のためをおもって行ったこと感謝してますわ」
「……」
2人は不安そうな顔をしてレイラを見た。レイラはふうと息をはいた。
「桜花会とはいえ所詮は子どもですもの。間違う事や悩む事もありますわ。お力を貸していだだけると嬉しいですわ」
「力?」
「ええ、よろしくお願い致しますわ」
「こ、こちらこそ、よろしくお願い致します」
2人は、ほぼ同時に深々と頭を下げた。それを馬鹿にしたような目で彩花は見ていた。
夢乃はそれに気づいてキッと彩花を睨みつけた。
「中村さん。レイラ様は桜花会には珍しくとてもお優しい方なのよ。調子にのっていると痛めを見ることになるわよ」
「ご心配ありがとうございます」
彩花は鼻で笑いながら、礼を言った。
(別に優しくねぇし。確かに桜花会は変わった連中がいるがな)
「ご馳走様でした。それでは失礼します」
彩花は弁当を片付けるとに立ち上がり、その場を去っていた。その様子を見て、藤子はあ然としており、夢乃は鬼の様な表情になった。
「夢乃さんのお気持ちは分かりますわ。ただ、中村さんが桜花会に対してそういった行動をとるのは理由があるのかも知れませんわ」
レイラは夢乃を落ち着かせようと優しく声をかけた。すると、彼女は眉を下げて困った顔をした。
「レイラ様はお優しいすぎますわ。他の桜花会の方や特待が見たらなんと思うか……。いくら特待Sでも許される話ではありませんわ」
「そうなのですが、少し大目に見てくださいませんか?」
「え?」
レイラは両手を合わせた。
夢乃はレイラの行動に何度も瞬きをした。
「レイラ様、その様な事しないでください」
夢乃は慌てて、首を振った。
「分かりましたわ。ねぇ、藤子さん」
「ええ」
夢乃と藤子は返事をしたのを見てレイラは満面の笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。それと、お2人は今のままが自然体で素敵ですわ」
「あ、いえ、ありがとうございます」
「こちらそこ、ありがとうございます」
二人は嬉しそうに、笑った。
レイラの「食べましょ」という一言で、食事が始まった。
食事が終わると、午後の授業を受けるため教室向かった。
事前に、夢乃がレイラに「皆様が午後の授業に遅れてしまいますので挨拶は手短にお願いしますわ」と伝えいたので数分で教室に戻ることができた。
教室で、藤子と夢乃は彩香を見つけると、二人とも面白くなさそうな顔した。
(俺の頼みだから聞いてくれたが、気持ちの整理はつかないかぁ。まぁしょうがねぇなぁ)
レイラはゆっくりと自分の席に座った。
夢乃は足早にレイラの後を追ってくると、レイラの斜め後ろの席に座る彩花を睨みつけた。
彩花はそんな彼女を面白そうにニヤニヤ笑いながら見ている。
(この関係も面白いよな)
鬼のような表情の夢乃を見て、レイラはふぅとゆっくりと息をはいた。
2人の間には、バチバチと飛び散る火花がレイラには見えた。
「中村さん、あなたはなんなのですか?」
夢乃の一言で、コングがなり2人の言い争いが始まった。夢乃は怒鳴っているが、彩香はニヤニヤ笑いながら、静かな声で反論していた。
藤子は眉を下げて自分の席に座るとそこから何も言わずに夢乃と彩花の様子を見ていた。
レイラは今まで、長身のきれいな顔で強気の態度をとる藤子しか見たがなかったため、新鮮に感じていた。
段々、夢乃と彩花の言い合う言葉が強くなってきたため藤子はレイラに助けを求める目で見てきた。
レイラは“仕方ない”と、藤子に微笑むと彼女はなんとかしてもらえるも感じた様でパァと表情が明るくなった。
(可愛いなぁ)
レイラは藤子から騒いでる夢乃と藤子の方に視線を移した。
「ですので、貴女は無礼すぎるのよ」
「レイラ様は許してくれましたよ」
「何度も言わせないでちょうだい。レイラ様がお優しいだけよ」
彼女たちの言葉が頭に響き、レイラを思わず眉を潜めた。
レイラは静かに2人の見ていた。その視線を2人同時に気づき、言葉をとめてレイラを見た。
「周りを見てくださいますか?」
教室の中央で特待同士が大きな声で揉めていたため、当然注目のまととなっていた。
それに気づくと、夢乃は顔を赤くして「申し訳御座いません」と言いながら自席に座った。
彩香はフンと鼻をならして冷たい目で周囲を見た。見ていた生徒たちはビクリと身体を動かして彼女から視線をそらした。
(あー、自分が問題なのに周りを威圧して)
夢乃は、彩花のその態度も気に入らなかった様で睨みつけていた。藤子は彼女を心配そうに見ている。
教室の扉を叩く音がして教師が入室したため、その騒動はそこで切れた。
2コマの授業が終わりホームルームでは本日行ったテストが返却された。教師が教室から出ていくと、教室内にいる生徒も次第に少なくなっていった。
レイラはいつも通り満点のテストをファイルに入れていると、左右で暗い顔している人物がいた。レイラが声を掛けると答案用紙をレイラから見えないようにした。
レイラは夢乃と藤子に答案用紙を見せる様に伝えた。
「え、あの」
「その」
彼女たちは渋ったが、レイラは「特待の義務」と言って二人の答案用紙をもらった。更に2人にタブレットを出すように言うと、そこから登校日に行ったテスト結果も見た。
2人が一般生徒なら問題ないが特待Aを維持するならギリギリの得点であった。
「あはは。そうなんですね。桜花会の勉強を教えるという名目があるため2人は答案用紙をレイラ様に見せないといけないんですね」
後ろから馬鹿にするように笑っているのは彩花だ。
夢乃は彼女を睨みつけ、藤子は下を向いて涙目になっている。
その様子を彩花は嬉しそうな顔して見ると「それでは失礼します」と去って行った。
今日一日、レイラは他の生徒からの視線がいたく感じていた。桜花会であるレイラは目立つ存在であるが、今日ほど周囲から注目された日はなかった。
レイラは疲れてため息をつきながらタブレットを2人に返した。夢乃と藤子はビクリと身体を動かしながらタブレットを受け取った。
それを見て、レイラは慌てた。
「失礼しましたわ。今日の出来事に疲れただけで、貴女たちの点数へのため息ではありませんわ。でも……」
レイラは言葉を止めて、夢乃と藤子の答案用紙の間違えている問題を見た。
「小学生の問題はできてますわね。新しく習った所でつまずいているのですわね。ちょっと記入してもよろしいでしょうか?」
夢乃と藤子同時に頷くと、レイラは鉛筆を取り出して答案用紙に書き込む始めた。全て書き終わると、それをそれぞれの持ち主に返却した。
「え、あーそうなのですわね」
「わかりやすいです」
「それは良かったですわ。教科書に参考になるページと同じような問題がのっているワークのページも書いておきたので学習に役立ててください」
レイラの言葉に二人は目を丸くした。
「ページ数まで覚えているのですか」
「何度もやっているうちに覚えてしまいましたの」
「何度もですか」
驚く藤子と夢乃にレイラは当然と言うように答えた。
「ええ、授業後はその単元は全てやり直しますわ。私は要領が良くないので力技のような勉強をしていますのよ。恥ずかしい限りですわ」
(レイラの能力があっても勉強を怠るとすぐ落ちるんだよなぁ。まぁ、前世、名前書けば入れる高校卒だったから仕方ねぇけどなぁ)
「いいえ、すごいですわ」
満面の笑みで感心する藤子に対して、夢乃の表情は固かった。
「何か問題がありましたの?」
「いえ、私はレイラ様を支えるべき特待ですのに不甲斐ないですわ。勉強も本来は……」
夢乃の言葉を聞いて、先ほどまで笑みを浮かべていた藤子も彼女と同じように暗い顔をした。
「私は2人が側にいて下さって嬉しいですわ」
「ありがとうございます」
「はい、ありがとうございます」
二人が安心したのは見て、レイラはニコリとして、彼女たちが持つ答案用紙を指さした。
「それでは、一緒にいるためにこれから勉強をお手伝いしますわ。このままでは貴女たち特待ランク落ちですわよ。まず、今回テストの間違え直し、更に記載した教科書ページを読み込み、その上で記載されたワークをやってきてください。明日確認しますわ」
二人の顔は一気に真っ青になった。そして、夢野が反論するような事を言うとレイラは目を細めた。
「無理にとは言いませんが……。私はお二人と離れるのは寂しいですわ」
レイラは、寂しそうに床を見た。
「わかりましたわ」
藤子の気合いの入った言葉が聞こえた。すると、夢乃も頷いた。
「そう、では明日楽しみにしておりますわね。では、私は桜花会に行かなくては行けませんので失礼しますわ」
「はい。また明日お願い致しますわ」
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