30限目 涙
まゆらは目の前の人物を見ると涙が出そうになった。
「え……レイラさん。今日は会えないって……」
まゆらの目の前には、着物姿のレイラが歩いていた。まゆらは胸がいっぱいになり、思わず彼女の元へ走った。レイラはまゆらに気づくと笑顔になったが、彼女の表情を見たとたん顔を強張らせた。
「レイラさん」
まゆらは真っ青な顔してレイラの手を掴むと下を向いた。レイラはその異常さに、眉を寄せるとレイラは「こっち」と言ってまゆらの手を引いて、足を進めた。
まゆらはそれに抵抗することはなかったが当然引かれたのでバランスを崩し転びそうになった。
「あっ」
レイラはまゆらの身体を支えると、謝罪して今度は優しく手引いた。まゆらは「はい」と真っ赤な顔をして答えた。
レイラは、まゆらの手を引き図書館に横にあるちいさな公園に行った。この公園は図書館の陰になり道路からは見えない。
レイラは首にあるチョーカーを触れ、図書館の方を見た。
「大丈夫だろ」
小さな声でつぶやくと、手を引かれているまゆらが目を大きくして彼女の方を見た。
二人は公園へ入った。
公園は木々が茂り、外から中の様子があまり見えない。
ベンチに座ると、レイラはまゆらの方を見た。まゆらは下を向いていた。
「あの、まゆらさん……?」
「あ……。は、はい」
レイラに名前を呼ばれると、まゆらはゆっくりと顔を上げた。そのまゆらの瞳には、凛と姿勢を正し座っている着物姿のレイラが映った。その姿にまゆらは頬を赤らめた。
返事だけをして、ぼっと自分を見るまゆらをレイラは心配そうに見つめた。
「まゆらさん」
「え……、すいません。あまりにレイラさんが美しくて……。その、あ……いえ」
「ありがとうございます」
(おお、この容姿役に立つじゃんって、違う。今、この状態のまゆタソをなんとかしないと)
レイラを褒めながら赤くなり下を向く、まゆらにレイラはお礼を言いつつ眉をひそめた。
「まゆらさん、何があったのですの?」
レイラは優しく彼女の様子を見ながら尋ねた。
「あ……、あの、リョ、リョウさ……」
「リョウ?」
“リョウ”と言う台詞を聞いた途端、レイラの笑顔が消え、眉をひそめた。
「申し訳ございません。リョウは私の兄です。今日あったのですか?」
「はい……」
レイラはリョウが彼女に会い、悲しませたことに怒りを感じたが、まゆらを不安がらせないように必死で笑顔を作った。
突然、まゆらの目から涙がポロリと落ちた。
「え、あ、まゆらさん?」
レイラが慌ててまゆらの肩を優しくなぜた。
まゆらは下を向いて首を振った。
(クソ兄貴。まゆタソに何したんだよ)
レイラは頭を乱暴にかくと、まゆらの手を自分の方を引いた。彼女は驚いた様だが、抵抗することなくレイラの胸に顔をつけた。レイラはそのまま、まゆらを抱きしめて小さい子どもの様に頭をなぜた。
(男ならまずいが女の子同士ならありだろ)
「怖かったのですわね」
レイラはひたすらまゆらを慰めた。
「う……、ひく」
我慢していたものがあふれ出し、まゆらの涙は止まらなかった。
しばらく、頭をなぜ、まゆらが落ち着いてきたのを見計らい鞄からレースのハンカチを出した。そして、自分の胸から彼女の顔を離すとまゆらの眼鏡をはずして、優しくハンカチで涙を拭った。一緒に眼鏡も拭いた。
(あー、眼鏡を普通のハンカチで拭いたらまずかったかな)
「あう……、ごめんなさい。着物が……」
「大丈夫ですわ」
まゆらが濡れた着物にふれると、レイラは眉を下げて笑いながら彼女の頭を撫ぜた。
彼女の涙が止まるとレイラは彼女の顔を綺麗にすると、鞄にハンカチをしまった。
彼女の顔を見て眼鏡をかけ直してあげると、まゆらはまだ、赤い目のまま嬉しそうに微笑んだ。
「レイラさんの敬語じゃない言葉聞いちゃいました」
笑顔で話すまゆらにレイラは困った顔をして頬をかいた。
「まぁ、それで、まゆらさんが笑顔になったのでしたらよかったですわ」
「へへへ」
レイラは彼女の肩を掴み自分から離した。
「話聞かせてくれますわよね」
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