25限目 妹愛

 憲貞は頭をかきながら、嬉しそうな顔をしている。


「圭吾そんなに褒めなくてもよい」

「褒めてません」


 ニコニコしながら言う圭吾に憲貞は目を白黒させて彼の方をみたが、圭吾の視線は香織とリョウの方を向いていた。


「急げば回れなんて言葉もありますよ」

「確かに私は焦りすぎたかもしれない。申し訳ないことをした」


 香織も圭吾も“褒めていない”という言葉にこだわりぶつぶつ言う憲貞を無視して話を進めた。リョウはそれがとても気になったが香織も圭吾も気にしないためリョウの気にするのをやめた。


「いえ、私こそ申し訳ございません。妹では桜花会の負担になると思い熱くなりすぎました」

「ちがうでしょ。正直に話した方がいいんじゃなかな」

「中岡副会長」


 ニヤニヤする圭吾にリョウは戸惑った顔をした。その様子を見て、香織は「あ、そうか」と手を叩いた。

 憲貞は眉を寄せた。


「なんだ?」


 憲貞の表情を見て、圭吾は首を傾げた。


「会長は知らないですか? 初等部で有名でしたよ」

「しらない」


 憲貞は大きく首を振った。

 圭吾は罰が悪そうにして下を見ているリョウを横目に楽しそうな顔して話はじめた。


「では。初等部にレイラさんが入学してきた時の話です。リョウ君は彼女が心配だったようで、自分の授業を抜け出して見守っていたのです」

「ほ~」


 圭吾の言葉に、リョウは顔を真っ赤に染め、固まった。その様子を香織はケラケラをお腹を抱えて笑った。


「教師に注意されて、授業を抜け出すのはやめたのですが時間があれば彼女のもとに通っていました。しかし、1年後彼は妹を構わなくなったのです」

「そうなのか」


 香織が興味津々に圭吾の方に身体を向けて身を乗り出した。憲貞もじっと圭吾の話に耳を傾けた。


「会長たちは卒業してましたからね。あまりにリョウ君がレイラさんばかりに構うので、嫉妬する女の子が現れたのですね。リョウさんはモテますからね。そこで、何があったかは知りませんが……」


 圭吾がそこで言葉を止めると、すごい勢いで憲貞がリョウの方を向いた。

 真っ赤になっていたリョウはその勢いに顔を青くして後ろに下がった。

 目の前で目を輝かせている憲貞に、リョウは戸惑い、言葉がでなくなった。


「なにがあった?」

「そんなに問い詰めたら可哀そうだ。おおかた、嫉妬した女の子がレイラに嫌がらせでもしたんだろ。だから、リョウは彼女に冷たく接するようになったとかかな」


 言い当てた香織にリョウは目を大きくした。 


「その通りです」


 憲貞も瞬きをして香織を見ていた。圭吾だけはクスクスと笑いながらその様子をみている。


「分からない方がおかしいよ」

「え? 私は分からな……」


 香織は、明らかに動揺している憲貞の事を無視して言葉を続けた。


「で、家では構うからレイラの反応は余りよくないとか」

「……そこまで分かるのですか」

「じゃ、桜花会の負担じゃなくてレイラの負担になるのが心配だったんだ」

「……はい」

「レイラは他者からの嫌がらせなんてモノともしない。だから、レイラの特待Aに報告させるのもやめな」

「そこまで」


 香織の言葉にリョウは口をパクパクさせて驚いた。


「桜花会の副会長だからな。初等部までは把握できないが、中高等部のことなら大抵わかる」


 香織の言葉にリョウは落ち着きをなくした。


 圭吾は手で顎を抑えてリョウの方に視線を向けた。


「だから……あんなにストーカーしてたのにいきなりやめたのですね」

「初等部ではな」


 香織はニヤリと口角をあげると、立ち上がり扉の横にある鞄から1枚の封筒を取り出した。その様子を3人がじっと目で追った。

 香織は戻ってくるとソファに座り、封筒から写真を出すとローテーブルに並べた。3人は身を乗り出して写真を見た。それを見たとたんリョウは身体を震わせて再び顔を真っ赤に染めた。


「レイラ君の写真?」


 憲貞は分からないようで、顎に触れながら「ふーむ」と目を細めた。


「あはは。なるほど」


 すぐに気づいて圭吾は大笑いしながら、一枚ずつ写真を指さしていった。それ全てにリョウが映っていた。


「健在であったか。しかし、香織はなぜレイラ君の写真を?」


 憲貞は頷きながら、香織の方をみた。


「あぁ、レイラの適正を見ていた」

「だが、これは授業中の写真もあるな。写真を撮った香織も映っているリョウ君も授業をサボったのか」

「私は、頼んだ。私の頼みは皆快く聞いてくれるよ」


 ニコリと自信満々なその姿は“皆に好かれてる”と言った憲貞と同じ顔をしていた。


 写真を見て一番驚いて声を上げたのは、真っ赤になったリョウであった。


「ふむ。リョウ君授業にはでなくてはならない。もし、桜花会の仕事と言って抜けているならば教師にその旨を伝える」

「……はい」


 下で向き、リョウは返事をすると憲貞は頷いた。そして、周囲を見回した。


「食事にしよう。遅くなってしまった」



 

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