16限目 登校日

 扉を叩く音がした。レイラが返事をすると入ってきたのはトメであった。レイラはトメの顔を見るとパソコンの電源を落として鏡台に座った。


 トメは挨拶をして頭を下げてから部屋に入り、鏡台に座るレイラの後ろに立った。


「先ほどは髪を結わず申し訳ありません」

「いえ、あの時私が部屋を出て行ってしまったのですわ。トメさんに落ち度はありませんわ」

「はい……」


 トメは暗い顔してレイラの髪をとかし始めた。今回の落ち度はレイラにありトメにはないとレイラは考えていた。そしてそんなに大きなミスではないと思うのにこの落ち込みようをレイラは不思議に思った。


(オヤジ、何したんだよ。今日はみんな変じゃねぇか)


「こちらでいかがですか」


 トメは優しく笑い、バックミラーを持ってきて髪型の確認をしてきた。

 左上から右下に向かって髪こまれた髪はお姫様の様であった。


(いつも思うが器用だよな)


 縛ったゴムの上にキラキラを青に輝く石がついたゴムを重ねた。それがレイラの黒髪をとてもよく似合っていた。


(センスもいいよな)


「素敵ですわ」

「それはようございました」


 そう言ってトメは自分の腕にある時計を見ると頷いた。


「そろそろ、車が来ることですね。向かいましょう」


(あー、そうか。学校の予定は運転手に渡してあるんだっけ)


 トメは桜華学園(おうか がくえん)指定の茶色い手持ち鞄を持つと扉の方に向かった。

 レイラは椅子から立ち上がるとトメの後を追うように扉に向かうと、トメは開けて待っていてくれた。


「今日も暑いですが、日焼け止めクリームは必要ないですよね」

「いりませんわ。それに私あまり焼けないですよね」


 心配そうに言うトメにレイラは袖からでた自分の腕を見せてた。半袖をめくって日焼けのアトがないことを確認した。


(あんな物はつけたくない。仮に焼けても大丈夫だって)


「……わかりました」


 玄関を出ると門のところに車がきていた。レイラはトメと一緒に車までゆっくり歩き、車の前まで来るとトメから鞄を受け取った。


 運転手が車の後部座席の扉を開けるとトメは「行ってらっしゃいませ」と頭を下げた。レイラは「行ってまいります」と言って車に乗り込んだ。

 車に乗り込むと運転手は扉を閉めて、トメに頭を下げると運転席に乗り込んだ。


(また、頭を下げている。そういうことにしてのかぁ。でも、きっかけがあったの思うだけどな)


 レイラは先日が運転手がトメに頭を下げているのが気になって仕方がなかった。しかし、前回聞いたがはぐらかされてしまったため今回は理由を聞かなかった。


 レイラは車の窓から頭を下げるトメをじっと見ていた。


「それでは出発致します」


 車が走りはじめるとトメはあっという間に小さくなり見えなくなってしまった。それからしばらくすると、茶色いレンガの塀が見え始めた。レンガの塀はしばらく続く。


 桜華学園(おうかがくえん)は高等部と中等部は同じ敷地にあり、初等部と大学は少しはなれた場所にある。

 そのため、中学生と高校生は生徒会や部活を一緒に行う。もちろん、レイラが所属してる桜花会(おうかかい)も中高一緒である。


 レンガの塀が途切れたところで車は曲がり速度を落とした。桜のマークが彫られた木の看板を通りすぎるとすぐにガレージが見えた。そして運転手は大道寺の家紋が書いてある場所に車を止めると「到着しました」と言って、車を降りた。

 後部座席の扉を開けるレイラはゆっくりと降りて学校の方を見た。


(ここからはよく、正門が見えるなぁ)


 今日は晴れている為、ガレージのシャッターは全て開いていたため門の通る生徒もよく見えた。登校日は全校生徒一緒であるため通常と変わらない人数の生徒が門を通っていた。


 レイラは運転手に礼を言うと彼は頭を下げた。レイラはガレージを出ると、桜のマークが彫られた看板の横を通り、目の前に横断歩道を渡った。そして、レンガの壁沿いを門に向かって歩いた。

 チラリと運転手を見ると、彼はまだ頭を下げていた。いつも、レイラが見えなくなるまで頭を上げない。


 門の近くまでくるとすれ違う生徒が増え、誰しもが立ち止まりレイラに挨拶と会釈をした。レイラはそれに対して笑顔で返事をした。


 正門までくる機械に生徒証をかざして、門を抜けた。


 門を越えるとショートヘアでレイラと同じ白いセーラーワンピースを着た女子生徒が見えた。その周りには黒いセーラーワンピースをきた生徒が数名おり、彼女たちは全員ほほを染めながらショートヘアの女子生徒と話していた。

 それを、周りの生徒は端に避けて見ていた。彼らも白服の女子生徒に頭を下げ丁寧に挨拶していたが、彼女は何も言わずに手を上げて返事をするのみであった。


 レイラは彼女を見ていると目があった。彼女はにこりとして周りの女子生徒に何を言った。すると彼女たちは頭を下げて解散した。


「おはよう。レイラ」

「おはようございます。香織(かおり)先輩」


 北大路香織(きたおうじかおり)は笑顔でレイラのもとに着た。彼女はレイラよりも頭を一つ以上大きい。


(いつも見て素晴らしいオッパイだなぁ。まぁ未来のまゆタソには負けるけど)


 レイラはバレないようにチラリと真横にある香織(かおり)の胸に視線を送った。彼女の胸はレイラの視線と大体同じであるため、見物しやすい。


 その時。


「ーッ」


 レイラは突然、香織(かおり)に肩をひかれ後ろによろけて、香織(かおり)の胸に後頭部が接触した。慌てて離れ香織(かおり)を見上げると「気を付けて」と言われた。訳が分からずキョロキョロすると、目の前を見るとすぐ近くに大きな背中があった。


「もう少しでぶつかるところだったよ」

「ありがとうございます」


(やべぇ、胸見すぎた。でも、役得だったな)


 レイラは頭を下げながら、自分の頭に触れていた香織の胸の感触を思い出しながら、ぶつかりそうになった人物に謝罪した。


「すいません」

「気をつけたまえ。女性がぶつかることくらい、たいした事はないが怪我でもされたらこまるからね」


 レイラがぶつかりそうになった人物が振り返った。


「天王寺(てんおうじ)会長」


 香織と同じ背丈の白い学ランをきた人物、天王寺憲貞(てんおうじのりさだ)ニコリと笑った。レイラは笑顔を作り朝の挨拶をし頭をさげた。


「別に憲貞(のりさだ)に頭を下げる必要はないよ。そんな大してモノではないし」

「香織君、君は相変わらず不躾だ。僕は君の義弟になるのだよ」

「それは可能性だよ。憲貞(のりさだ)の兄貴とは今婚約しているだけで将来はわからない」

「そもそも、君は……」


 じゃれあう二人にレイラは会釈をしてその場を去った。あのじゃれあいが始まるといつ終わるかわからないので退散するのが賢明だ。

 二人のじゃれあいを他の生徒が見ているが誰も口を出すものはいない。


 レイラは校内にはいると真っ直ぐに自分の教室に向かった。教室にはいると周囲の生徒から挨拶をされて全て笑顔で丁寧に答えた。

 自分の席にゆっくりと座ると鞄から学生証を出すと自分の机にあるカードリーダーにいれた。


「おはようございます。レイラ様」


 隣の席に座る女子生徒が声を掛けてきた。彼女はレイラと同じ形のセーラーワンピースを着ているが色は白ではなく黒である。

 レイラの学年に白服を着ている者は他にいない。


「おはようございます。夢乃(ゆめの)さん」

「今日の髪型もとても素敵ですね」

「ありがとうございます。夢乃さんのハーフアップも素敵ですわ。編み込んでらっしゃるのね」

「夢乃さんとレイラ様は編み込み一緒ですのね」

「あら、藤子(ふじこ)さんのサイドテールも素敵ですわ」


 レイラの反対隣にすわり藤子(ふじこ)が笑顔で声をかけてきた。

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