13限目 兄の忠告(再)
しばらく、まゆらと昨日の続きの勉強をしたレイラはふと時計を見て、運転手との待ち合わせ時間が近づいている事に気づき、それをまゆらに伝えた。
「わかりました。また、次回続きやりましょうか」
まゆらは笑顔で勉強していた本を閉じた。レイラはお礼とまた連絡することを伝えてその場を去った。
駐車場に着くと車はすでにおり、運転手はレイラの姿を見つけると後部座席の扉を開け、挨拶をした。彼女はそれを見ると笑顔を作り運転手の挨拶に答えると黒いチョーカーを渡して車に乗り込んだ。
帰宅するとレイラの夕方担当家政婦の山田(やまだ)サトエが待っていた。彼女が帰宅の挨拶をすると鞄を受け取ろとした。レイラは彼女の挨拶に答えながら鞄の受け渡しを断り風呂の準備を依頼すると、足早に自室に向かった。
部屋までくるとそこの扉に寄りかかる人影が見えたため、レイラは立ち止まった。
(はぁ、マジかよ)
レイラは深呼吸をして前で手を組むと笑顔を作りゆっくりと口を開いた。
「お兄様、ただいま戻りましたわ。なにか御用でしょうか」
彼はレイラの存在に気づくと、扉から離れてレイラの方に近づいた。
レイラは自分より背の高い兄、大道寺(だいどうじ)リョウを見上げた。
リョウは背筋を伸ばし足をそろえて、腕を組んでいた。眉を下げて、眼鏡に触れながらレイラのことを見下ろした。
「今日も徳山(とくやま)図書館に行っていたのですか」
「そうですがお兄様もいらっしゃたのでしょうか」
「ええ、そこで随分とひどい恰好をした女の子とあっていた様ですね」
リョウは大きくため息をつくと首を左右にゆっくりと振った。
(ひどい恰好……?)
レイラは図書館にいた時のまゆらの恰好を思い出した。まゆらはジーパンに半袖のパーカーを着ていた。おしゃれとは言い難いが“ひどい”と言われるような服装でもない。レイラの前世と同じような服装だ。
レイラが黙っているとリョウはレイラの顔を覗き込んだ。リョウとの距離が近くなり、レイラは一歩後ろに下がった。
「なぜ黙っているのですか?」
「いえ、ひどい恰好の女の子とは会った覚えがありませんの考えていました」
「僕にウソをつくつもりですか? 二人で終始楽しそうに話していたではありませんか」
(何で知ってるんだぁ)
リョウの言葉は強くなり、両手に力を入れて前に出した。レイラはそんなリョウに動揺することなく、彼から視線を逸らさなかった。
感情的になるリョウに対して、レイラは笑顔を崩さず丁寧に対応した。
「ウソをつくつもりはありませんわ。図書館でお会いした方はひどい恰好ではありませんでしたので違う方かと思ったのですわ」
「レイラさんは、僕を馬鹿にしているのですか? あんな恰好で外を歩く人間と話なんて……」
リョウは目を細めてレイラを見た。その瞳はひどく悲しげであった。
(まゆらを否定するということは兄貴は攻略対象ではないということか?)
「馬鹿にはしていないですわ。私思ったことを言ったまでですわ」
「……」
レイラがゆっくりと首をふりニコリとすると、リョウは口を閉じでじっとレイラを見た。何かを考えているようであった。
しばらくして、ため息をつくと先程とは違う、落ち着いた優しげな声でレイラに質問してきた。
「まぁいいです。彼女とはどういう関係ですか? まさか友人とはいいませんよね」
「……」
(あ〜、そこか。じゃ、両親がバックにいるのか。いつもいつも、誰かと親密になると文句言ってきやがって。友人といいたいがまゆタソに直で文句言ってきたらやだなぁ)
「違いますわ。あそこで初めてお会いしたお方ですわ」
「それにしては楽しそうに話していましたね」
(本当に、どこから見ていやがったんだ)
レイラは首を曲げて天井を見たがすぐにリョウに視線を戻し、口に手を当て反対の肘に当てる。
「そうですか。お勉強のできるお方ですのでお話があいましたの。それだけですわ。昨日偶然お会いしただけですわ」
「なるほど。何度も“桜華”という言葉が聞こえましたが?」
「桜華は素晴らしい学校ですわ。誰しも憧れますわ」
レイラにニコリとして両手を自分の前で合わせた。そして少し首をかしげて頭を上げるとリョウのことを見た。リョウは彼女のその表情を見ると言葉を詰まらせた。
「……わ、わかりました。今回はそれで納得することにしますが、レイラさんが大道寺であること自覚してください」
リョウは眉を下げて悲しげで優しい笑顔を見せるとその場を去っていった。レイラはリョウが見なくなるまでその後ろ姿を見ていた。
(自覚ねぇ)
レイラはリョウがいなくなると部屋に入り鞄を置いた。すぐにゆるいワンピースに着替えて、着ていた服をクローゼット横のカゴに投げ入れた。
それから椅子に座ると机の引き出しを全部だして机の上に置いた。引き出しの底を外し、そこから小さな南京錠のついた本を取り出した。そして、ダイヤル式を回して南京錠を取ると本を開けた。それは本型の小物入れになっており、小さな紙がいくつも入っていた。
そこに、鞄から取り出した小さな紙を入れた。朝、トメからもらった手紙だ。
(けっこうたまったなぁ)
レイラはたくさんある小さな手紙を嬉しそうに眺めた。しばらく見たあとは元のように引き出しを戻した。
ゆっくりと椅子から立ち上がると浴室に向かった。
脱衣所に着くとサトエがおり挨拶をして、風呂の準備ができたことを教えてくれた。
(相変わらず、感情は見えないが綺麗だよなあ)
サトエの顔をマジマジと見てその美しさにレイラは顔を赤くした。
それがバレないようにレイラは早口でサトエに礼を言い、風呂の手伝いはいらないことを伝えた。彼女は表情を変えることなく頭を下げて部屋から出て行った。
レイラは髪をほどき服を脱ぐとそれをカゴに入れると浴室に入った。そして、身体と髪を洗うと入浴した。
「気持ちいい」
レイラは湯船につかると足をのばした。そして、手を組んで上に向け全身を伸ばした。レイラにとってお風呂の時間が一番リラックスできた。その為一日に何度も湯船につかった。
全身をのばした後は、肩まで湯につけた。
「あ~」
(明日登校日だな。アレだ、テストじゃねぇ? つうか、多分、学校に他の攻略対象もいるんだよな顔も名前もわかんねぇが、きっとイケメンでキラキラしたやつだよな)
レイラ両手で頭を押さえてため息をついて、学校の人間の顔を思い出した。思い当たる人間は数名いたがそこから絞ることできなかった。
(えっと、あ、そうか。確か3か4人くらいだっけ。そんな話は聞いた。確か先輩と同級生、後輩とももう一人だ。後輩って来年以降に入ってくるやつか? 初等部にいたやつかな?)
レイラは必死に初等部時代の生徒の顔を思い出してだが該当する人間が浮かばなかった。
(初等部のときは今ほど桜花会も真面目にやってなかったしな。あそこには何だが桜花会の人間を半分に分かれて競っていた奴がいためんどくさかっただよな)
あの時の二人が中等部に来年入学してくると思うとレイラは気持ちが下がった。
(中等部の桜花会は初等部の桜花会と違って仕事が課せられるから協力しないといけなんだよあ。最悪だ)
レイラは彼らのことを鮮明に思い出すとぶつぶつと小さな声で文句を言っていた。
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