第4話 救出

 数日後、僕の護送がスタートした。


 あまり厳重な警備ではなかった。


 馬車で運ばれ、僕は馬車の荷台に乗せられた。


 荷台の前にはやる気のなさそうな態度の騎士が一人だけ。


 僕は、特に繋がれたりもせず、動ける状態だった。


 逃げようと思えば逃げられる状態である。


 恐らく、今の僕など逃がしても問題ないと思っているのだろう。


 魔法も使えず、身寄りもない。

 ゴミみたいな犯罪者だ。


 逃げても、僕に居場所なんてない。

 このままローエン島に行くのが、一番生存率の高い選択だと思えた。


 その時、いきなり馬車が停止した。


 外の様子は確認できない。しかし、声は聞こえてきた。どうやら、大きな木が道に倒れており、通行を止めているようだ。


 とにかくどかそうとしているようで、僕を見張っていた騎士も木をどかすのを手伝った。


 見張りがなくなった状態。逃げようと思えば逃げられるが、意味のない行為である。


 僕は何もせず、座っていた。


 すると、何者かが荷台に入ってきた。


 そして、僕を抱えた。


「な、何?」

「助けに来た。叫ぶな」


 と小声でその者は言った。声からして女性であるようだった。いわゆるお姫様抱っこの形になって、男として非常に情けない思いをしたが、特に抵抗せずに、運搬された。


 あっさりと馬車からは出ることができた。


 木をどかしている騎士たちも、全く気づいていない。


 しばらく女は僕を抱えたまま走り続けた。


 そして、別の馬車がある場所に到着した。


「姫様。お連れいたしました」

「ご苦労」


 姫様と呼ばれた人物の顔を僕は見たことがあった。


 最近会ったパーティーで出会った、トレンス王国の第二王女、シンシア・ファーサスだ。


 印象に残っていたので、間違いない。

 パーティーの時はドレスを着ていたが、今日は男が着るような黒いスーツを身に着けている


「やはり思った通りになったな。君の出自を調べて知ってから、こうなることは予想がついていた」


 僕がスラム出身だと言うことは、公にはなっていなかった。弱小貴族の出となっていたはずだ。


 だが、スラム出身だと知っている者もそれなりにいるので、誰かから聞いたのだろう。


「ライル・ブランドン。私を覚えているか?」

「はい……シンシア様……ですよね」

「そうだ。覚えていてくれて嬉しい」

「あの……あなたは僕が無罪だと思っているんですか?」

「あんな犯罪を起こす理由がないからな。不自然すぎる。それとも、本当だったのか?」

「いえ、僕は、僕は無罪です……」

「だろうな。まあ、私だけでなく、君が無罪だと思っているものは、それなりにいるだろう。皇帝が怖くて言い出せないだけでな」


 彼女は淡々とした口調でそういった。


 僕が無罪だと知っているから助けたのだろうか? いや、それでも今の僕は魔法が使えない雑魚だ。助けるメリットなんてないはずだ。


「なぜ、僕を助けたのですか?」

「君が欲しいからだ?」

「え?」


 つまりその意味は……


 彼女は僕に惚れたのだろうか? あのパーティーで。一目惚れ?


「え、えと、でも、その……あんまりお互いのこと知らないのに……」

「何か勘違いしているようだな。君の力が欲しいという意味だ」

「え? あの、僕がもう魔法使えないって、聞いてなかったんですか?」

「使えるさ。君が知らないだけでな」

「??」


 シンシアが何を言いたいのか、僕には理解できなかった。


「『成長魔法』というのを君は聞いた事はあるか?」

「……無いです」

「だろうな。君は魔法が何種類に分類されるか知っているな?」

「はい。攻撃魔法、回復魔法、支援魔法、防御魔法の四つです」


 魔法は主にこの四種類に分類される。


 ここからさらに、属性、難易度などで分けられることにはなるが、大まかな分類はこの四つである。


「正解だ。成長魔法はその四つのどれでもない。我がファーサス家だけが知っている秘密の魔法群だ。ありとあらゆる手を使い、秘密が漏れないようにしてきた。トレンス王国が、帝国の属国になった今も、その秘密は漏れていない」

「それって……」

「成長魔法は通常の魔法検査には出ない。特殊な魔法検査紙を使う必要がある。君にはその成長魔法がほかの魔法と同様、大量に使える可能性が高いと思い、私は君を助けた」


 驚きの話であった。成長魔法など聞いたこともなかったし、想像したことすらなかった。


 そんなものがあったとは。


 しかし、


「僕は確かに他の魔法はたくさん使えましたが、その成長魔法が使えるとは限りません」


 測ってみなければそれはわからないことである。


「それはそうだな。しかし、君は全ての魔法が百以上使えたんだろ?」

「はい」

「成長魔法だけ全く使えないなんて、逆に不自然だと思うがね」

「……」


 素直に頷けないが、僕も何となく使えるような気はしていた。


 シンシアは絶対に使えるのだと、信じているようだった。


「まあ、調べてみれば分かることだ。馬車に乗りたまえ。今から我が城へ移動する」


 拒否権はなさそうだった。

 秘密と言っていたし、知ってしまった僕をそのまま返す事はあり得ないだろう。


 僕は大人しく馬車に乗る。


 すぐに馬車は動き始めた。


 シンシアは僕の目の前で、足を組んで座っていた。

 その隣には、僕を拉致した女が座っている。


「彼女は私の騎士、ファリアナ・シルベスターだ」


 ファリアナと呼ばれた女は、無言で軽く会釈をした。

 全くの無表情。何を考えてるのかわからない表情に、少し恐怖心を覚えた。


「僕が魔法を使えなかったらどうなるんですか?」

「秘密を知られた以上、返すわけにもいかないが、殺すのは可哀想だ。城の召使いでもやってもらうか。三食昼寝付きで、給金もそれなりに出すぞ」

「……もし、成長魔法がたくさん使えたら?」


「――その時は君を領主にしよう」


 シンシアは即答した。

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