この罪は誰のモノ

三神拓哉

この罪は誰のモノ

 やあ、久しぶりじゃないか、僕だよ、玲衣だよ。

 久しき友人に洒落た土産話の一つでもしてみたいものだが……。それじゃあ、ネタ話として最近有った身の上話の一つでも話そうかな。

 君を僕が接点あったのは中学の頃だけだったから知らない事だと思うけど、私には仲のいい同い年の幼馴染がいるんだ。

 ユーちゃんっていうんだけど可愛いのなんのって……少し脱線したね。

 話を戻すけど、僕とユーちゃんはどこに行くにもずっと一緒で話さない日はない、それが当たり前の日々を送っていたんだ。

 それでも出会いあれば別れありという奴で中学の頃はほとんど話さなかったんだ。別に喧嘩してたとかじゃなくて、中学になると環境も変わるでしょ。気づけば何となく、ごく自然に、話さなくなっていったんだ。

 あの頃の僕は死にたくなるほど苦しかった、自分にとってユーちゃんは切っても切り離せないもの。そんな当たり前のことが今頃になって分かった気がした。

 それでもユーちゃんはそうじゃなかったみたいでいくら話しかけてもクラスも違ったのもあって話す機会は無くなっていく一方だった。それでも、僕がユーちゃんを思い続けている限りまた戻ってきてくれる、そう信じて耐えることができた。

 多分その頃かな、気づいたんだ、私はユーちゃんのことが好きなことに。

 結果的に、ユーちゃんは私の下に戻ってきた。高校生になったらユーちゃんの方から話しかけてくれたんだ。

 小さい頃に戻ったみたいでうれしかったなぁ。でも、小さい頃の私と同じ関係では満足できないようになっていた。だってそうでしょ、私はユーちゃんのことが性的に好きだったし、受け身で待ってるだけじゃユーちゃんは振り向いてはくれない。それどころかまた僕から離れていくかもしれない。

 だってユーちゃんは普通の子だったから。

 普通に男の人に愛し愛され結婚し、子供を産む、そんな私にできない《普通》を願う女の子だったから。でも、そんなの私には耐えられなかった。

 だから、ユーちゃんから普通を奪った、僕に依存してくれるように仕向けた。

 まず好きになってもらうことよりも離れていかないようにすることが最優先だと思ったから。

 でも、見た目を良くする努力をしなかったわけじゃないよ。みんなが羨む体系を維持するようにしたし、美容にも人一倍気を遣った。

 肌の手入れだけで三時間も掛かってるんだよ、想像できないよね。

 一人称も僕にしたし、女の子っぽい口調もやめた、服装も男のものを多くした。

 そして、ユーちゃんが僕以外の人に関わらないように孤立させた。

 始めはユーちゃんと話している友達の横から入ってあえてユーちゃんの知らない話題を振った。そしたら、ユーちゃんの友達は目に見えて少なくなった。

 それでも人がいいユーちゃんに惹かれる輩は少なくなかった。だから、アプローチまでし始めた人には僕が釘を刺して諦めさせた。

 ユーちゃんには僕がいるから突きいる隙は無いよ、だから話しかけないでもらえるってね。

 まあ、そんなことで諦める連中は所詮そんなもんでしかないからね。私の行動が功を成したのか、二年生になるころにはユーちゃんに話しかけようとする人は僕以外にはいなくなったし、ユーちゃんから話しかけようとすることもなくなった。

 次にユーちゃんの良くない噂を流した。僕は別におユーちゃんをいじめに追い込もうとしたわけじゃないから、流したのはユーちゃんは僕のことが好きぐらいの可愛らしいものだった。

 それでも、噂は人を渡るごとに誇張されて最終的にはユーちゃんが僕に話しかけた人を消して回っているという殺伐としたものに変貌していた。

 そんなバカげた噂からユーちゃんはクラスの女はユーちゃんの陰口をたたくようになっていた。

 人の噂も七十五日なんていうけど、そんなに経ったころには僕もユーちゃんと一緒で誰からも話しかけなくなっていたし、ユーちゃんは僕にベッタリになっていた。

 卒業の時期になるとユーちゃんは僕に告白してきた、僕はもちろんと返事した。

 付き合って気づいたんだけど、ユーちゃんが結構重い方だった。外に出るときは必ず許可が必要だし、今みたいに立ち話をするだけで怒られちゃう。

 僕はユーちゃんのことが好きだし、全然苦じゃないけど今日は帰ったら怒られるな~、もしユーちゃんを頻繁に怒らせていたら僕の体がもたないよ。

 話と戻すと、大学生になる時には僕以外の人と事務的な連絡すらしなくなった。それは家族や先生にも例外なかったみたい。親に家から追い出されたみたいで、今はユーちゃんは僕と二人暮らしをしているよ。

 この話をキミにしたのは何故かって?

 確かに変……だよね。中学以来話していなかったのに急にこんな話をするなんて。でもさ、キミって聞き上手だし興味ないみたいだったから話してみたくなったんだと思う。

 それと、ユーちゃんの普通を奪ったことに少なからず罪悪感を感じているのかもしれないね。それでも、後悔しているわけじゃないよ、ユーちゃんは僕が絶対に幸せにするし。


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『ちょっと、出るの遅い~』

 ごめんごめん、ちょっと話し込んじゃって。

『ふーん、話し相手って男?』

 男、だけど中学生の頃の友達、たまたま会って少し話しただけ、だから報告は遅れちゃったの。

『言い訳なら後で聞くから、話し相手の男に代わって』

 ごめんね、ちょっとだけ変わってくれる?ユーちゃんがキミと話したいって言ってるから。

『お前が話し相手の男か、まずはスピーカーにしろ。話はそれからだ』

『よし、先に行っとくけどもし玲衣を狙ってだったら諦めな。

確かにあんな美少年風美少女けど生憎玲衣には私という運命の相手だいるから』

『それに玲衣は私のためならなんだってするような子になってる、私と玲衣は切っても切り離せない存在なの、分かった?』

『え?小さい頃からずっと、ちょっとずつちょっとずつね、刷り込んでいったの。

私がいるときは過ごしやすく、私がいないときは生きずらいようにね』

『その後は多感な時期に少し離れて私のありがた味に気づかせた。

そして今じゃあ玲衣は私無しでは生きられないようになった。こんなに重い私と当たり前のように付き合うようになった』

『もうわかったでしょ、アナタはスタート地点にすら立てないの。

それじゃあ、今から私は玲衣を向かいに行くからね、もう会うこともないでしょ』



 ユーちゃんはなんて言ってた?

 え、今からここに来るって!じゃあ、早く会えるように僕もユーちゃんのところに向かうから。ユーちゃんのスマホにGPSつけてるから場所はわかるよ。

 話を聞かせるだけになってごめんね。それじゃあ。

 ああそうだ!君に聞きたいことがあるんだけど。


 君から見たあの娘は幸せそうだった?



 

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