第24話 新しい依頼

「はい、ここが事務所です、強い人が沢山います。組合長お客さんです! では、さようなら!」

「おい待て、タルト。彼等は誰だ」


 我々一行を組合長は睨みつけている。まぁ、俺を逃がすような真似はしなかった。


「お客さんです、以上です」

「お前が連れてきた客だろ、話くらい聞いて行け」

「時間がありませんので、失礼させて頂きます」

「あの……あなたも話を聞いて下さいませんか?」


 本当に怖いよ、この女の人。ジャックくん助けて下さいよと、目で訴えかけるも無視された。


 あと無言で立っているの止めて貰っていいですかミシェルさん、あなた目が少し笑っていますよ。


 そこの詩人、いい加減笑うのを止めろ、後でお前の口を針と糸で縫い付けてやるからな。


「まぁ、何にせよ座っていろ。それで、お客人。依頼があるとお聞きしましたが」

「はい……ご依頼があります。我が一族の村が魔獣に襲撃されました。その討伐のご協力をお願いしたく、お伺いした次第です」


 それから、メリアは説明を淡々と続けた。魔獣の襲撃とは驚くべき偶然だ、本当に、偶然とは恐ろしい。


「一族とは?」

「ヴラホ族と言えばおわかり頂けますでしょうか。私は、メリア・ヴラホ・カラサワ、族長の娘です。彼は妹の夫、アンセルです」


 やはり、あなた様は尊い感じなのか。そして入り婿か、弟君よ。ヴラホ族とは聞いたことは無いが。


「一応確認するが、魔獣はどんな姿をしている、今どこにいるか分かるのか?」

「はい、熊の様な魔獣です、一体だけですが。身の丈は人の五倍程度あるかと。我々は大熊と呼んでいます。今は村の近くの森の中にいます、我が妹が命をかけて一時的に動きを封じました」


 あっ、そう言う話か。なら弟君が怒っているのも無理はない。流石にしんみりしてしまう。事務所の中にいたギャラリーからため息が漏れた。


 村が魔獣に襲われる、それが小さな魔獣でも下手をすれば全滅するのだ。


 アッテナの街は石壁に守られ、戦う事が出来る人も多くいる。だが小さな村では何かあっても戦う術がないのだろうか。国も民全員を一度に守ることは出来ないのだろうが、もう少し何とかしろよクソ共和国。


「おい、タルト……」

「受けましょうか、この依頼」


 組合長に何かを言われかけたが、さも当たり前の様に口から言葉が出た。この状況を俺が受け入れてしまうのは、仕方のない事だろう。


「待って下さい、そこの男に依頼を出すのですか。こんな奴に倒せる様な相手ではありません! 妻や姉上、我が一族の戦士が束になってかかっても倒せなかった相手です!」

「落ち着け、アンセルだったか。他の奴等にも依頼は出す、受けるかどうかは任意だ。魔獣の恐ろしさは体験したお前達が一番分かっているだろ。それに、こいつも囮くらいには役に立つ」


 まったく、酔いが醒めたみたいだ。こんなことになるとは思わなかったけど。これが俺の旅のきっかけになるなら、何かの運命なのかもしれない。


「指定のご依頼は別の機会に」

「おい、タルト! 止めておけ、お前、本当に何のつもりだ!」


 ジャックくんは少し複雑な表情でこちらを見て、そう怒鳴った。ミシェルは心配そうな顔をしている。やはりジャックくんは優しい、何だかんだ突っかかってくるけど、きっと心配だから色々と言ってくるんだろうか。


 初対面の時に初めて会った気がしなかったが、もしかして昔どこかで会ったことがあるのかもしれない。


「まぁ、魔獣は危ないので。それに、もう英雄はこの街にいませんから……」


 すると気まずそうな顔でジャックくんは黙り込んだ。言葉を間違えただろうか、まぁ本当に仕方ない。


「あの、いくつか教えて欲しい事があるのですけど?」

「どうして……そんなに真っ白な……いや、何故あなたは依頼を受けるのですか?」

「えっ?」


 真っ白とは意味が分からない、あなたの仮面の方が真っ白だと思うが。彼女達に質問しようとしたら質問を返されてしまった。ずっとこちらを見ている、やっぱり少し怖い気がする。


 あなたが今さっき依頼したからだろうとは思うが。メリアさんだったか、まったくメアリかメリアか少し分かりにくい名前だ。


「ええと、これも何かの縁ですから……その……質問なんですけど。一族の戦士ですが、何人で挑みましたか。まともに戦えた人は、そのうち何人ですか?」

「貴様、何だその質問は。我が一族を愚弄する気か!」


「待ちなさい、アンセル……お答えします、私、妹のミリム、アンセル、剣の戦士が十二名、弓を使う者が二名、魔法を使う者が三名で挑みました。まともに対峙出来たのは我々と、剣の戦士の数名だけでした」


 弟君が怒っている。ごめんよ、大切な確認なんだ。戦意喪失が半数以上、なかなか、これは本物だろう。


 それにしても、この姉様は話そうと思えば話せる人じゃないか。


「この街を出発する日と、村までの移動にかかる日数。あと、魔獣が動き出すまでの時間は分かりますか?」

「出発は明後日の朝としたく、ここから村までは馬で一日半です。魔獣を封じている魔法が何日で解けるか。今お答えできるのは……村に着いて二晩程度、猶予はあるとは考えています」


 仕掛けるタイミングが未確定なのは心配だな、村に着いてから二日とはギリギリかもしれない。日数を具体的に答える辺り、何か見込みがあるのだろうか。


 魔獣を封じた方法、どんな方法か聞きたいけど。妹さんが亡くなったと考えると、まぁ俺から聞くのは止めておこう。


「熊の姿以外に、特徴とか、気になったことはありますか? 魔法を使うとか、特殊な動きをするとか、見た目はどんな感じですか?」

「戦いの際、魔獣は爪と牙で襲いかかってきました。動きはとても俊敏です、瞬きの間に五人の剣士が吹き飛ばされ、重傷を負いました。戦えた剣の戦士は村一番の怪力でしたが、厚い毛皮に剣は弾かれ、傷を付けられたどうかも分かりません。あとは……身体の表面に、ボコボコとした出来物がありました」


 うーん、そんな相手と戦った事は無いな。熊だよな、熊って魔法は使わないだろうか。大きい熊って走るの速いし、力も強くて簡単に人間を殺せるだろうから、接近戦は厄介な気がするけど。


 春先は冬眠から起きた熊が出るから、野宿は気をつけないとって誰かが言っていた気がする。


 俺も魔法が使えたら良かったな、遠くから攻撃出来るし。無駄なこと考えても仕方ない、とりあえず何か対策を考えなければ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る