キャプテン
その日の夜、野球部のキャプテンから電話がかかって来た。キャプテンと言っても夏が終わり3年生が部活を引退して2年生が新キャプテンになったので、同級生であり僕の友達だった。
電話の理由は分かっていた。僕が部活をサボったからであろう。自分で言うのもなんだけど僕は野球が上手かった。エースで4番――そういわれると漫画の主人公かのような立ち位置かと思われるが、弱小校での事であり僕自身自分がそこまで特別だとは思っていなく、野球が楽しいから続けているといったスタンスでいた。
キャプテンは部活をサボった事に対して文句を言ってきた。やれ、お前はチームの柱なんだからお前がいないと困るだとか、部活内で最上級生なんだから下級生に示しがつかないなど次から次へと言葉が放り込まれてくる。
放課後の彼女との一件のイライラも冷めあらぬ中であったので着火も早かった。僕だって部活をサボったのは悪いと思っている。でもサボりの常習犯という訳ではなく初めてサボったと言ってもいい。それに彼女にいわれのない怒りをぶつけられて部活なんてやれるような状態ではなかった。
そうなると八つ当たりに近い事まで考えてしまう。そもそもキャプテンは野球が下手だった。入部してからこの方ずっとベンチだ。しかし、人望はありその点をみんなから評価されてキャプテンに推された人物なのだ。僕が野球部になくてはならない存在というならば、自分だって何故もっと努力して野球が上手くなるようになろうとしないのか。僕だけを特別に感じる必要がないくらいに……。そもそもそんなに下手くそなキャプテンこそ下級生に示しがつかないではないか。
僕は思いのたけをぶちまけていた。イライラの勢いに乗せて普段思ってもいなかったような事も攻撃の武器として扱ってしまった……。それでも一度燃え上がったイライラは消える治まる事は無かった。
キャプテンは無言になっていた。しかし、電話の向こうで怒りなのか悔しさなのか分からないが何かの感情が沸き上がっている様子は電話口から聞こえる微かな呼吸音で分かった。
僕は電話を切ってベッドに投げ捨てた。いきおいそのままに家を飛び出し近所の公園まで走った。そこで、体を覆いつくしているこの嫌な感情を吐き捨ているように叫んだ。
「バカヤロー!!」
すると月明りから一筋の光が降り注ぎ、僕の吐き出したモノを吸い取っていった。僕はふぅと大きく息を吐いてゆっくりと家に帰った。
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