22.NewNormalな日々-4
――と、思ってたのになぁ……。
「課長補佐! 課長補佐ぁ、どちらにいらっしゃいますかぁ!?」
ブルーな気分を振り払い、わたしは声を張り上げた。
ちょっとした体育館ほどもあろうかという広さの部屋。
課長補佐が山神家を買い取り、リフォームの第一弾として改装(?)をくわえた、元は納屋だったという建物の中である。
平屋なのは以前と変わらないらしいが、柱は鉄骨、床はコンクリート、壁はサイディングって言うのかな?――濃いめの茶色でメタルっぽい建材に変えられていて、でもって、一面ぶち抜きの室内をLEDの白色光が
……いや、これって、もう、改装なんてレベルじゃなくて建て直してるよね。新築だよね。
て言うか、元は納屋だったというのもどうなの? 農機具をおさめるだけが目的のものだったにしては広すぎだよね。酪農家の牛舎だったとか言われた方が、ぜんぜん納得できるんですけど。
ホント、課長補佐も課長補佐だけど、お爺ちゃん、お婆ちゃんも、なんか『普通』じゃないなぁ。山神という苗字といい、古式ゆかしいと言うか、由緒正しいって感じだもん。
訊いたら、『ご先祖様は清和源氏のなぁ……』とか、すンごく長い家系図なんて出てきそう。いや、まぢで。
と、
「んなこと考えるのは、後、後」
ブルッと頭を振ると、わたしは手をメガホンに、
「課ぁ長~補ぉ佐ぁ~~! どぉこでぇすかぁ~~?」と、再び声をはりあげた。
今、わたしの目の前にある……、
まるで
どれもがピカピカに磨き上げられ、そして、見わたすかぎりにおいて、そのいずれもが左ハンドルの『外車』。
その外車の群が、広い部屋のなかを埋め尽くしている。
すべてが課長補佐の『愛車』だろう。
はじめてこの家にお邪魔した日、いみじくもお爺ちゃんが課長補佐を評して言った――クルマ屋さんかと思ったわ、のセリフがよみがえった。
「ここまでくると、呆れると言うより感心しちゃうな……」
わたしは呟く。
「こりゃ、保管場所に困るはずだわ……」
下手をすると(しなくとも?)、自分の所有車だけで駐車場を『満車』にしてしまう量。
課長補佐いわく、で、『外車だからといって、そんな
いやはや、コレクターの蒐集癖――その努力(?)の結果を目の当たりにすると、まさしく絶句するしかない。
仮に一台百万円だとしても、総額で一体いくらになるの!? なレベル。
ホント、お爺ちゃんじゃないけど、『クルマ屋さんかと思うたわ』と、
身体はひとつしかないのに、これだけ集めてどうするんだろう……?
有線放送だろうか、(多分)ジャズの楽曲が、BGMめいて流れる部屋――空調の行き届いた部屋のなかを見まわし見まわししながら歩きつづける。
「あ~~、もぉ、ホント、どこにいるのよ」
こちらの呼びかけに応えないのはまだしも、居場所を示すような物音でもすればいいのに……。
「グズグズしてたら、お婆ちゃんの料理、母さんにたべられちゃうじゃない」
内心の焦りが言葉になってポロリと口からこぼれでた。
そう。
今、わたしが
山神のお婆ちゃんを先生に、実習していた調理がおわって、さぁ、これからみんなで食べましょうとなった時点で、
「美佳、あなた、久留間さんを呼んでらっしゃいな」と、母さんに、もっともらしい口調で指示をされてしまったからだった。
顔を合わせたりはしてなかったけど、わたしたち同様、課長補佐も来ているわよと、お婆ちゃんから聞かされてはいた。
でも、思わず
いや、それは確かに、ご馳走を食べる時はみんな揃って食べた方がおいしさも増すから、この場にいない人間を
でも、それってわたしじゃなきゃイケナイの?
なにが、『使い走りは若い者の役目』よ!?
なにが、『久留間さんは、いつも通りに車庫ですわよね? ほら、美佳。聞いたでしょ? さっさと
そんなんじゃないし!
全然ちがうし!
で、
『ば、莫ッ迦じゃない!? なに言ってンのよ! い、いいわよ! 呼んでくればいいんでしょ!? 呼んでくれば! 言っとくけど、わたしの分、絶対絶対、盗らないでよ!?』
とんだ濡れ衣(?)に、全身がカッと熱くなったわたしは、母さんにそう言葉を投げつけると、ダッとばかりに駈けだした。
そして、現在に至ってるワケ。
あ~~、もぉ、なんか散々だ。課長補佐ってば、どこにいるのよぉ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます