泣いた黒鬼、剣を持つ
ただの枝豆
式神 成長編
第1話
小さくも大きくもないごく普通の家で私は父と遊んでいる
これは、私の記憶・・・・・?
「ねぇ、パパ。遊んでー」
父が私の頭を角を避けつつ撫でてくれる
大きく頭を揺らされるが不思議と嫌な思いはしなかった
むしろ、少し気持ちがいい
私は広がっている絨毯の上にストンと座ると赤い絨毯の毛が私をくすぐる。
「きひひっ」
私が笑うとまた、父に頭を撫でられる
「お前は、鬼として生まれてしまったんだな」
「パパは嬉しくないの?娘がカッコいい兵隊さんになれるんだよ?」
私は父の顔を見る
悲しそうな顔。
その顔には優しさが溢れている
私が父に抱きつこうとすると
突然、父の後ろにあった窓から月明かりが差す
私は突然のことに驚き、そちらに目を向けると、
月が私を嗤っている気がした
そして次の瞬間、父から水滴が垂れたことに気づく
月明かりの逆光でそれが何だか判断できない
「・・・・・早く寝なさい」
父は、私の頭に手をポンと置いて、ゆっくりと歩きドアを開け、その部屋から出ていく
1人用にしては小さいベッド
私は寝ている間に角が折れないようにと布を何重にも巻いてから
私は言われた通りベットに着いた
そして、私は楽しそうに今日の思い出を遡る
楽しかったなぁ
でも、父は悲しげな顔をして、いつも私と遊ぶんだろう
それがどうしても私にとっては気がかりだった
唯一の家族であり最も愛している人だからだ
つまんないのかな
私が立派なみんなを守れる鬼になれば
きっと一緒に笑ってくれるよね
だってヒーローだもん
ジジイも言ってたし
「パパ!おやすみ!!」
「うん。おやすみ」
しかし、この父の悲しげな顔は私がヒーローになるのを待たずして、すぐに消え去ることになる
この数ヶ月後
私の弟が生まれたのだ
鬼ではなく『人間』に
鬼は胎児の突然変異
決して遺伝ではない
だから、父は私に"鬼として生まれてしまったのか"などと言ったのだ
鬼は障害のような物で、その容姿から前世でとてつもない業を犯した者が変化すると言われている
業という物がなにかは私にはわからないけど、使命みたいな崇高な物だと私は考えた
新しい生命の誕生
一人っ子だった私に弟が・・・・・
病院には『なぜか』入れてもらうことはできなかったが、その事実が私の心をとても揺るがした
私は父や弟とは違い、みんなを守るために選ばれた存在だと勝手に誤解して家族のヒーローになることを決意した
早速私は弟と遊ぼうとするも、父に止められる
「まだこの子は小さいから危ないよ」
「ん。わかった」
「いい子だ」
この優しい目が私に向かっているのはこれで最後となった
父の愛は弟に全て向かったのだ
最初は弟が小さいからと割り切っていたが、月日が経つにつれて父は私を認識していないように振る舞い始めていたのだった
私の時とは違い、父はよく楽しそうな顔をする
羨ましかった
そして、ただ嫉妬した
私は弟と遊ぶことに興味をなくし、父も構ってくれないので
1人で遊ぶようになった
数年後のある日、父への寂しさを紛らわせるため
興味を惹かせるため
私は積み木を積んで遊んでどこまで高く積み上げられるか試していた
「ふふん。もうすぐで100個目。パパびっくりするだろうな。褒めてくれるかな。それとも怒られちゃうかな?」
鼻歌まじりで積み上げていくと
どこからか入り込んだ弟が足でその土台となる積み木を蹴飛ばした
そして、当然積み木が重力により崩れ落ちてくる
私はすぐにそれに気づいて、妬心を振り切り弟の元にかけた
私は必死で弟を積み木から守った
背中は熱く、痛みが脳へと走っていく
叫びたかったが、弟が目の前にいる手前、叫ぶわけにはいかなかった
情けない姿を弟に見せるわけにはいかない
まだ小さい弟を怖がらせるわけにはいかない
私は選ばれた兵士として勇敢に弟を守った
誇り高かった
音を聞きつけた父はすぐさま駆けつけてくれた
「パ、パパ。私、守れたよ」
震える足で立ち上がり、父に手を向けた
どう見ても重症な姉
守り切られ怪我一つない弟
その2人が崩れた積み木の中にいた
しかし、その状況で父は
私を突き飛ばし、弟を心配した
きっと、私の弟がまだ小さかったせいだ
そう思い涙を飲んだ
父は弟ばかりに気を配り、私には全く目をくれなかった
しかし、私はその数日後に父と出かけることになった
久しぶりの2人だけのお出かけ
小さい頃にくれたマフラーをたいして寒くもないのに関わらず着けていく
しかめっ面をした父さんと車に乗り移動した
久しぶりの街道は、色鮮やかに見える
多くの人間が笑い駄弁っている
人間が・・・・・だ
平和の証だ
なぜ、父が私を遊びに連れて行ってくれるのかはわからないがとても嬉しかった
遊びに連れて行ってくれることは多々あったが弟ばかりで全然楽しくなかった
だけど、今日は弟はいない
私1人だけ
楽しみでしょうがない
しばらくすると、白い建物につく
私は父について行く
「パパ、これ覚えてる?パパがくれたマフラー」
「・・・・」
反応してくれない
せっかく、パパが一緒に遊びにきてくれてる
贅沢言っちゃダメだよね
私は、黙って父について行く
白い建物の中に入ると
父はいきなり私の手を掴み引っ張る
「パパ!痛い!!」
大人の力は強く
私では抵抗が全くできない
父に痛みを訴えるが聞いてもらえない
職員の人に父が話しかける
「すみません、この子を引き取ってくれませんか?」
唐突なことで私は思考を停止する
カチカチと時計の音が5回くらいなった後
私の思考は急発進した
引き取る?
捨てられる?
私が?
いい子ではなかったが、捨てられるほどではない
と思う
私は弟とは違う?
同じ子供なのに?
私が弟のお姉ちゃんだから?
お姉ちゃんで弟の方がかわいいから?
少し弟に意地悪したから?
寂しくて毎日ゲームばかりやってたから?
それとも私が鬼だから?
私は絶望する
何が理由でも私が捨てられることには変わりない
お父さんの顔を見てしまった
「と・・う・・・さ?」
私は父と目が合うと父に睨みつけられる
蛙が蛇に睨まれる
私にとってその蛇は私の父だった
私は、怖さのあまり固まり動けなくなる
「こいつがうちの息子に怪我を負わせようとしましてね」
私の頭は真っ白になる
自分がお父さんの子ではないような言い方
私が身を庇ってまで弟を守ろうとしたのに
そんなことは当然であり、怪我をさせたお前が悪いと言われているような気分だった
「・・・・引き取りましょう」
私は、抵抗もできず職員に引っ張られる
冷たく砂利が大量に転がっている痛い床。
私は、そこを歩かされている
周りには沢山の鬼の角が吊るされていた
処刑場
そんな言葉が頭に過った
私も大きくなり業の意味を知っていた
私が前世で悪いことしちゃったからこんな目に・・・・・
パパはどこ
パパは
血で塗れた大きな台
大きな台に拘束具をつけられる
私は、5人の大人に囲まれる
そこから覗く無感情、動物を見る目
私にはその大人たちが巨人に見えて、今から殺され食べられてしまうように感じた
巨人たちの大きな手がどんどん私の体に向けて伸びていく
私は必死で逃げようとするが、腕の拘束具が私の邪魔をする
逃げ出そうとする度金属音が何度も何度も鳴り響く
すると、巨人の手が私の頬を強打する
痛い
口から血の味がする
「早くこいつも処分しようぜ。ガキはうるさくてたまらん」
巨人は煩わしそうな顔をして他の巨人にそう言った
私は今から殺される
「お父さん!!お父さん!!助けて!!」
私は自分でも父のことをお父さんと言ったことに驚いた
おそらく、助けてくれないことを悟ったのだろう
そんな声は予想通り届かない
職員が注射を持って私のことを見る
冷たい眼差し、黄色い液体が入ったパックが目に入る
嫌だ嫌だ嫌だ
ガラスの向こう側では父が私を見る
つまらなそうな目、ゴミを見るような目
とても、自分の娘を見るような目ではない
針が私に入ってくる
針が大きく肉が抉れるような感覚がして
私は痛みで泣き叫ぶ
「いい子にするから。いい子にするから捨てないで!!助けてお父さん!!」
「黙れ」
と言われ殴られる
不思議と痛くはない
その代わり目頭がすごく熱い
溢れ出てくる涙と胸の痛みが止まらない
人間が私の腕を掴み、無理やり注射を打つ
液体が私の体の中に流れるとともに不快感も流れてくる
体内がすごく熱い
溶けているようだ
そして、自分の体が今までのものではなくなってしまうような感覚を覚え始める
だけれど、大きく感じられることが一つだけしかない
私は父を縋るようなで見る
私がそこで最期にみた父の顔は・・・笑っていた
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