第49話
「レイナ!!」
セツが大声で私の名前を叫ぶ。
とても幸せな気分だ。
使い込んだ二本のナイフを握り締め、私はセツに斬りかかる。
赤と青、2つの光が交差する。その度に青の光が大きく揺らぐ。
私のほうがまだ強い。
良かった。セツの力になれる。
セツが剣撃を放つ。明らかに狙いは腕や足。私の動きを止めようとしている。私を助けようとしてくれる。
剣を交わすたびに、剣を受けるたびにその想いが伝わってくる。ただただ、幸せだった。
「ガアアアアアアァァァァァァァァ!!」
私は、奇声をあげながら攻撃の速度、そして威力を強める。衰いつつある魔纒の威力を気力で補う。
セツにとって、最大の敵であるために。
戦い始めて、30分は経っただろうか。
セツの動きにも疲れが見える。
左手のナイフで首筋を狙う。セツがその攻撃を受けた瞬間に、左足を少し動かす。
蹴りを警戒し、セツの注意がやや下に向いく。それだけで十分だった。魔纒による「身体強化」「属性付与」を最大限まで高め、右のナイフでセツの左肩を突き刺した。
「があぁっ!!」
セツの顔が苦痛で歪む。
私の精神は本当に壊れはじめているのかもしれない。セツの苦しむ顔さえも愛おしい。
セツは私の腕を握り締める。
「レイナぁぁ!!」
セツが私の耳元で叫ぶ。
熱い吐息を頬で感じる。
表情が緩まないように、気を引き締める。
セツの手を振りほどき、後ろへ跳び距離を取る。
セツの傷は深手だ。もう、これまでのような立ち回りはできないだろう。
だが、それでいい。小細工はセツに必要ない。
セツには“一撃”がお似合いだ。
セツは大きなククリ刀を右手一本で持ち、後方に伸ばすように体をひねる。
魔纒の「身体強化」の賜物だろう。
弧を描くように右下から左上へ切り上げる「
とても優しく、不器用な死神だ。
「レイナ!!俺の声が聞こえるか!!?」
セツの放つ大声は咆哮に近い。
うん、聞こえてるよ。セツ。
よく聞こえている。
だけど、聞こえないふりをする。
ごめんね…
私は両手に持ったナイフに魔纒を宿し、地面を踏み切った。
赤く染まる両足が地面を蹴るたびに速度が上がる。
セツとの距離がどんどん縮まっていく。
セツの青白い魔纒はセツとククリ刀を包み込む。
戦いが始まったときのような荒々しさはない。だが、見たことがないくらいに光は澄んでいて、キラキラと輝いている。
ーーセツの魔纒はすでに、教えて伸びるレベルを越していた。属性付与による効果も私の「燃焼」とは明らかに異なる。後は実戦の中で鍛えていくしかなかった。
その相手は強くなければいけない。自分と同等、もしくはそれを上回る者との戦いでなければ、今後の成長はない。
これまでの人生では味わえなかった経験がさらなる高みへと導いてくれる。
足りない頭を使って考えた。
どうしたらセツは本気で私と戦ってくれるだろうかと。私を殺す気で挑んでくれるかと。
全てを打ち明けたらどうなるか?
セツの思い出に。セツの強さの一部になりたいと。
セツは困るだろうな。別の方法で強くなることを選ぶかもしれない。そして、私が死ぬまで守り続けてくれるかもしれない。
それが1ヶ月なのか1年なのか、それ以上のなのかはわからないが、さぞかし幸せな時間に違いない。
美味しいシチューを作りながら、旦那のダンテの帰りを待つ。テスラのように笑い、過ごせるだろうか……
違う
やはり、私達には似合わない。なにより、その時間はセツの成長を遅らせる。私は枷にはならない。
だから私は嘘をついた。セツと最後に飲んだあの夜に。
「私の精神はブーガの本能に蝕まれている。自分が自分でいられなくなったら殺して欲しい」と。
ーーセツが刀を振り抜くとき、暖かい水滴が私の頬に届いた。
セツの涙だ。好きな人が私のために泣いていた。
これが、私の望んだ未来だ。
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