第18話

アリアは俺に言った。


「まだ俺は強くなれる」と。


「聞かせてくれ」

俺は濡れた顔を拭いながら聞いた。


「この世には魔力が存在する」


アリアは言い切った。たしかに日本には存在しないものだ。


「セツが感じている限界は人の肉体としての限界だ。個人差や種族によっての差異こそあるが骨格や構造によって、動きや最大出力に制限が生じる」


確かにその通りだ。関節は反対には曲がらないし、筋肉量にも限界がある。腕をいくら羽ばたいても鳥のように羽ばたくことはできない。


「魔力はそれを凌駕すると?」


アリアは口元に笑みを浮かべて頷く。


「魔法がいい例さ。人には本来できないことを可能とする。」


「俺は魔法が使えない」


「ああ、使えない。だが魔法の源となる魔力はセツの体内にも存在する。魔法は精霊の力を借りて具現化しているに過ぎない」


そういうとアリアは俺の胸元へ手を当てて目を閉じる。

何かを探るように数秒黙り込んだ後ゆっくりと目を開ける。


アリアと目が合い俺の胸が高鳴る。そして期待を込めてアリアの言葉を待つ。


「うん。あるね。ヒューマンの平均値といったところだろう。だいぶ奥に潜んではいるが確かにある」


つまり、俺はまだ強くなれる。

おれは自分で自分の胸に手を当てて、目を閉じた。だが何も感じないし、変化もない。


「俺はどうすればいい?」


「『魔纏まてん』を習得しな。」


「魔纒?」


「魔力を肉体に纏ってまとって戦う技をそう呼ぶんだ。肉体が持つ力と魔力が相乗し、人としての枠組みを超えた所業を成す」


「例えば何ができる?」


「水破斬が切れる」


俺は素直に驚いた。


あの技が切れる?大銀狼を一瞬で両断したあの技を?俺は躱す手段すら見つけていない。


だが、アリアの目は真剣そのものだ。

俺を励ますためのでまかせを言っているとは思えない。


「私が魔道の使い手に会ったのは一度きり。だがこの目ではっきり見た。そして、その使い手に私は尋ねた。『その技は何だ?』と」


俺は唾を飲み込んだ次の言葉を待った。


「『我欲を張れ。それが魔道を拓く』。そう叫んで勝ち逃げしていったよ」


「なんとも要領を得ない言葉だな」


「だね。だが、お前が私に勝つ術は確かに存在する」


アリアはニカッと笑った。

この笑顔を信じよう。




―――「話は終わったか?さて、湿っぽい話は終わりにしよう。今日は宴だ」

アルクが俺の肩をポンと叩いて言う。


クルクは空になった俺とアリアのコップにエールを注いだ。


二人は俺とアリアのやり取りを静かに見守ってくれていた。


改めて乾杯をし、一斉にコップに口をつけ、エールを乾ききった喉へと流し込む。


ングッ グッグググ


「ぷっはぁぁぁぁ」


俺たちは4人ともエールを一気に飲み干し、わざとらしく感嘆の声を上げた。


その日は前の晩より遅くまで飲み明かした。


飲んでいる最中、アリアはふいに顔を近づけ耳元でささやいた。


好きな女をモノにすること。それも我欲だと。

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