第9話

 宴は集落の中央にある広場で行われた。


 中央にある大きな焚き火が広場全体を灯す。周辺にはいくつかの大きな布が敷いてあり、いくつもの料理と酒が所狭しと並ぶ。


 エルフたちは、おもいおもいに食べて、飲み、騒いでいた。族長であるアリアの挨拶と俺の紹介、そして乾杯のあとは自由に談笑し、酒を楽しんでいる。


 俺は、アリアとアルクとともに、もっとも大きな集団にいた。乾杯とともに盃は交わしたものの、手に取ったエールという酒を飲めないで5分ほど観察している。


 近くにいるエルフたちは興味深そうにその様子を見ている。飲まないという選択肢はなさそうだ。


 聞けば、麦から作った酒とのこと。透明な金色でわずかに発泡している。嗅げば、麦らしく香ばしい。酒独特の臭いはどぶろくや白酒(日本酒)より少ない。


 ペロッと少し舐めてみる。やや、苦味があり麦茶を薄めたような味がする。


「それは一気にグビッと飲むもんだ。安心しな。骨は拾おう」


 にやにやとしながらアリアは諭す。


 こうとなってはあとには引けない。俺はエールが入ったコップに口をつけると一気に傾け喉へと流し込んだ。


 グッ


 グビッグビッグビッ



 ぷはぁー


 全部飲み干した後大きく息を吐いた。


「これは神の飲み物か?」


 ドッ


 先程よりも大きな笑い声が起こる。


「気に入ってくれたようで何よりだ」


 恐ろしくうまい。いや、体が欲しているというべきか。


 エールが喉を抜ける際の爽快感がたまらない。確かにこの感じは一気に飲まなくてはわからない。麦の風味が鼻を抜け、後味も清々しい。


 日本酒よりも好きかもしれない。味がないというより、最小限というべきか。これは肉と合う。


「エールは肉を食べながら飲むのが一番だ。お前の狩った肉も惜しみなく使わせてもらった。さぁ、やってくれ」


 俺の気持ちを見透かしたようにアリアは言う。俺は手を合わせて、命への敬意を払い、並べられた料理を食べることにした。殆どが肉主体だが、葉物はものやソースと合わせるなど創意工夫がされているのは明らかでとわの料理も食欲をそそる。


 目の前にあるのはおそらく狼の肉だろう。大きな塊肉の切れ込みに葉を詰めてこんがりと焼き上げている。


 それを、一つつまみ上げて、豪快にかじる。肉汁が口いっぱいに広がる。


 たまらず、エールを口に入れようとすると、隣りにいたアリアが、コップを持った俺の手首をつかみ、動きを静止する。


 アリアは口をもぐもぐとさせて、もっと噛んでから飲み込めと無言で諭す。


 エールをお預けされた俺はそれに従うしかない。


 しばらく噛んでると香草の香りや密の甘みが肉の旨みに相乗し、料理としての奥ゆきを増す。


 アリアが手を離すと俺は一気にエールを流し込む。


 グビッグビッ


 グッ


 転生した喜びを噛みしめる。


 確信した。肉と酒は日本に勝る。そして女も。


 横を見るとアリアはニカッとした笑顔を浮かべていた。


 酒のせいだろう。俺の心臓は明らかに高鳴っていた。


「お兄ちゃん」


 小さな声に振り返ると、ルーがいた。

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