おばけなんてないさ

内山 すみれ

おばけなんてないさ


「おばけなんてなーいさ」


 歩く度にヒールの音が響く。


「おばけなんてうーそさ」


 大きな荷物を背負った女は楽し気に歌っている。


「ねーぼけたひーとがみまちがーえたのさ」


 女が歩くこの道は、最近有名になった幽霊スポットだった。この道を歩いていた人間が何人も行方不明になっているらしい。


「だけどちょっと、だけどちょっと、ぼーくだってこわいな」


 歌いながら、女はある一点を見つめ笑みを浮かべた。


「なんてね」


 女は荷物を下ろす。中から出てきたのは正方形の箱のようなものだった。


「君がこの怪異の犯人だね?」


 女の声に呼応するように、何もないと思われた場所から半透明の女が現れた。長く垂れ下がった黒髪から覗く目は血走り、憎しみに満ち満ちていた。半透明の女はこの世の者ではなく、所謂『悪霊』と呼ばれる存在であった。


『お前、私が見えるのか』

「ええ」

『邪魔をするなら殺してやる』

「あら、成仏する気はないの?」

『殺してやる!』

「交渉決裂だね」


 襲い掛かって来た悪霊に、女は箱に付いていた扉を開ける。悪霊の身体が箱に引き寄せられてゆく。


『な、なんだこれは?!』

「有名な歌であるでしょ?ほんとにおばけがでてきたら、冷蔵庫に入れてカチカチにしちゃうんだよ」

『やめろ、やめてくれ!!』

「なら、私達とお友達になる?」


 にっこりと笑む女。背後には数多のこどもの霊がじっと悪霊を見つめている。


『ぼくとあそぶ?』

『ずっとあそんでくれる?』

『とちゅうでやめたらゆるさない』

『みんなでいじめちゃうから』

『何だこの餓鬼共は!私は餓鬼のおもりなどやらんぞ!』

「……うーん、君は私達とは遊んでくれそうにないね。じゃ、さよーなら」


 悪霊は悲鳴を上げながら箱の中に吸い込まれていった。


「よし!これでお仕事終わり!」


 すると、先程まで無表情だったこどもの霊達が笑みを浮かべた。


『やったー!』

『おわった!』

『ぼくのえんぎどうだった?』

『えんぎは!えんぎは!』

「はいはい、騒がないの。家に帰ったらたくさん遊んであげるから。帰るよ」

『はーい!』


 楽しそうにふよふよと浮かびながら、女の後ろをついていく沢山のこども達。彼女はゴーストバスターズ。彼女の元にはたくさんの依頼が寄せられている。彼女は日夜悪霊と戦う日々を送る。たくさんのこども達と共に。


つづく

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おばけなんてないさ 内山 すみれ @ucysmr

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