火球 ―流るは吉か凶か―

神無月そぞろ

蒐集家 2

火球

東京地震


 冬のある日、東京で震源不明の地震が起きた。


 布団の中でまどろむ早朝、まずはゆらりと動いた。日本では地震は珍しくないので、またかと思うだけで気にせず眠り続ける。今度は横に大きく体が傾き、左右に短く揺れ始めると次第に振り幅が激しくなっていった。この段階になって過去の大地震を思い出し、恐怖がよみがえって一気に目が覚めた。


 立っていられないほどの激しい揺れが続いて動くこともままならない。家族が心配なのに助けに行くこともできず、互いに名を呼び合って無事を確認する。身を守るために頭から布団をかぶるしかなく、誰もが生命いのちの危機を意識した。



 同じ時、揺れが始まってすぐに霊力チカラのある異能者は異変を察知した。


 すぐさま屋外へ出ようとしたが揺れに翻弄ほんろうされて阻まれる。立つのも困難なほど地面がぐらつくなか、身を守ることよりも今すぐ確認すべきことのために、いずりながら外を目指した。


 ある者は庭に出てそらを仰ぎ、外にいた者はそらが広く見える場所へ移動する。さえぎる物がない空の下、小さな星を探すように隅から隅まで目を移していく。


 日本各地にいる霊力チカラのある者たちは、まるで示し合わせたかのように一様にそらを仰いでおり、北の空へ目をやるとそこで視線は固定された。微動だにすることなく一点を見つめ、みるみるうちに蒼白になっていく。



 晴天には火球が走っていた。



 高い位置にある火球は、くるりくるりと踊りながら流れる。あかい炎をまとったように全体がゆらめき、飛行機雲のように後ろに跡を残しながら、これ見よがしにゆっくりとそらを走る。


 火球は北の先から出現して南の端まで時間をかけて日本を通過すると、あっけなく姿を消した。


 身じろぎせず火球を見ていた霊力チカラのある者たちは、これから起きることを察知して戦慄せんりつした。






 暗闇では……




 吊られた振り子のようにぐらんぐらんと暗闇が動いた。制御できない揺れは気持ちのいいものではない。


(また……地が揺れた。この国は地震が多い)


 うんざりしながら自然のたわむれのような揺れに身を任せていたが、どうも今回は様子が違う。揺さぶるリズムがいつもより短く、上下左右に激しく動く。暗闇のあちこちから、みしりみしりときしむ音が響く。


(これは……もしかしたら――)


 目を開ければ、闇しかなかった空間がほのかに明るくなっており、我が身が見える。見上げると、線のようなひずみから光がもれている。うつろだった目に妖しげな光が灯り、口元を不気味にゆがめた。


 すぐさま四肢を起こして身をかがめると力強く跳躍した。裂け目にぶつかったと同時に、乾いた板が割れたときのような音が大きく鳴り、闇から現世にナニカが飛び出した。


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