第5話 悪役令嬢(仮)の育成日記(5)sideR
「魔法学園があるってことは、魔法があるのよね!」
木陰の下、ティータイムをたしなみながら、私は机に身を乗り出した。
「あるっちゃありますけど……」
アッシュは苦笑いをする。
「ねぇねぇ、やってみたいわ! 私、魔法を使ってみたいわ! 風魔法でこの剛毛を乾かしたり、水魔法でヘッドスパとかしてみたいわ!」
「お嬢がとりあえずヘアスタイルに悩んでることはわかりました。
でも、自分で設定忘れてません?」
「……設定」
そうだ。設定。『星靴』の世界観はあくまでヒロイン重視
悪役ヒロインはすぐに退場するし、魔法を使うシーンなんて描写した覚えがない。
「正直、一〇年くらい前に作ったゲームだから詳細は覚えていないのよね」
「お嬢、ゲームを作った作った言ってますけど、そういうのって共同作業じゃないんすか? なんか仲間からのアドバイスを思い出すとか」
「……ひとりでやったわ」
ぼそりと私は呟いた。
アッシュが首をかしげる。
「一人でやったの! シナリオも絵も音楽もスクリプトエンジンも! 全部一人でやったの!」
「なんで一人でやっちゃったんですか……複数いたらそんな黒歴史って連呼しないでいいのに」
「し、仕方ないでしょ! 当時学生だったし、学生同士でゲーム作ろうって言ったら必ず締め切り守らない子とかでてくるし、結局企画制作全部私がやることになって……」
「要するに、ぼっちだったんですね」
「ううううう、うるさい! というかあんた、七回もループしてるなら、そのくらいの私の諸事情とか知ってるんじゃないの?」
顔が熱い。絶対にアッシュが挑発したせいだ。
アッシュはニッコリと、天使のようなスマイルを浮かべて
「最初から知ってましたが、なにか?」
「もっ、もぉおおおお!!!!! 嫌い! 嫌い! アッシュ大嫌い!」
そうでした。そういうキャラでした。
私の顔が真っ赤に染まってるのが面白いらしく、ケラケラ笑っている。
なんで私、このキャラを従者にしたんだろう。
……まぁ、悪役令嬢になるなんて思いもしなかったから、仕方ない、か……。
「まぁ、思い通りお嬢が赤くなってくれたので、話を続けましょっか。
魔法は空、風、火、水、地の五大元素で出来ています。たまに光と闇の魔法を使える人材もいますが、なかなかいません。俺が知ってる限りでは、ヒロインちゃんくらいっすね」
「ふむふむ」
「属性は色々ありますが、一人一つという誓約はないので、色々な魔法を応用することはできますよ。例えば――」
アッシュは手のひらの上で小さな渦巻を作り出した。
「これは風魔法と水魔法の応用ですね」
「すごいすごい! それ、私も使えるかしら!」
私はワクワクしながらアッシュに聞いた。
アッシュは変わらずニコニコして――
「残念っすけど、お嬢には魔法は使えません」
絶望の言葉を吐いた。
「そ、それは練習不足だから、かしら……」
「……うーん。なんといえばいいんでしょう。お嬢の場合は特殊なんすよね。鑑定スキルで観てみます?」
「そんなことできるの?」
「はい。開示<<オープン>>」
私の目の前に青い画面が表示される。あ、これ、ゲーム作ったときに見たことある。
カラー色初期設定にしていたら、青色になって、めんどくさいからそのまま使ってたのよね……。
「お嬢のステータスは、ざっとこんな感じですね」
そこには私の名前と詳細が書かれていた。
ローゼリア・マリィ・クライン
職業:公爵令嬢
年齢:一〇歳 身長:130cm 体重――
「ああぁあああああっ! ちょ、たい、体重!」
「大丈夫っすよ、お嬢の体重はりんご三個分って前のお嬢に言われましたから」
「ぜんっぜん大丈夫じゃない!」
本当に、この男はわかって私をいじってる。
いちいち突っかかってたらキリがない。体重には犠牲になってもらって、他のステータスを観ることにした。
空魔法:適合率0%
風魔法:適合率0%
火魔法:適合率0%
水魔法:適合率0%
地魔法:適合率0%
「ちょっと待って、色々突っ込みたいところがあるんだけど……」
「お嬢、眉間にシワよってますよ。可愛いお顔がパグみたいになっちゃいますぜ」
「余計なお世話よ! ――って、なによこれ! 適合率0%? これって修行すればなんとかなるのかしら?」
「お嬢。
「じゃあ無理ってこと? で、でもおかしいじゃない! それだったらそもそも魔法学校なんて入れないじゃない!」
「まぁまあ、そんな涙目にならずに、下のステータスも見てくださいな」
青く透明な画面を、アッシュがスッとなぞる。
そこには――
光魔法:適合率-10
闇魔法:適合率40
「や、闇魔法!? でも適合率40って微妙じゃないかしら……」
「まぁ、闇魔法適合している人なんてザラにいませんから」
「というか、光魔法-10ってなに?」
「光魔法に嫌われてるんっすね。ご愁傷さまっす(笑)」
「きぃいいいい!! もうあんた! 主を弄ぶなんて従者失格よ!」
いーっと歯を向けてやる。
はぁ、この従者と話しているだけで疲れる。
私は別項目に注目した。
HP:100 (平均)
MP:10,000,000,000
特記事項:
――もう、あの、どこから突っ込めば
「いつ見てもお嬢のMPは面白いっすね。属性魔法闇しか使えないのに、MP100億って……ぷぷ」
アッシュが腹を抱えて笑う。
さすが中二の頃の私…。なんでもありだわね。
「ねぇ、アッシュのも見せてよ」
「……えっ、俺のっすか? 面白みもないっすけど」
「どういうのが普通なのか知りたいの!」
「いいっすけど。
アッシュ・ウィル・ヴォルフガング
職業:公爵令嬢付きの従者
年齢:12歳 身長154cm 体重46kg
空魔法:適合率60%
風魔法:適合率50%
火魔法:適合率60%
水魔法:適合率60%
地魔法:適合率30%
光魔法:適合率0%
闇魔法:適合率0%
HP:1500
MP:4000
「……面白みもなにもない」
「人の恥ずかしいところを無理やり観るように強制して、それはないでしょう!」
アッシュもちょっと焦っている。
でも大体がこのくらいなのね。
「でもアッシュ、HPが私とぜんぜん違うわ」
「そりゃ男ですし、鍛えてますからね」
「そ」
男女差は確かにありそうだなぁ。これが普通。
私が魔法学校に入れたのは、闇魔法の加護なのだろう。
――でも私、単なる悪役令嬢にそんな設定をしたかしら。
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