第2話 悪役令嬢(仮)の育成日記(2)sideR
よく見渡せば、背景、小物にちらほら見覚えがある。
高級そうな金の壺とか、特に背景素材にするときに目立っていたっけ……って、そうじゃなく!
冷静に、冷静に考えなさい。私。
これってもしかして、流行りの流行りの異世界!?
確かに私はブラック会社の従業員で、朝6時出勤、帰宅は夜2時のブラック会社に勤めていた。会社に泊まることも週2であったし、シャワーを浴びれない日もあった。
でも仕事は楽しかったし、やりがいがあった。
そして、私のもう一つのやりがい――それはスマホゲームだった。
ときにアイドルを育てたり、ときに女神を育てたり、仕事の合間にするのが癒やしだった。
――だから、もし私を異世界に飛ばしたド鬼畜がいるなら、そいつに言いたい。
なんでよりによって、
「あわわわわ……」
――くすくすくす。
と笑い声がドアの方角から聞こえてきた。
「やっと思い出したんですね。ローゼリア様」
そこにいたのは、さっき私を起こした男の子だった。
「どうですか? 自分の創ったゲームの世界は?」
金色の目を猫のように細めて、彼は言った。
◆
「ななな、なんっ、なんっ、な、な……」
「なんでって聞きたいみたいですね。うーん。どこから話せばいいんでしょうか」
少年は見た目以上に落ち着いた感じで、私の言いたいことを汲み取ってくれた。
「俺――じゃなくて、私は前世の貴方に仕えてた従者です。名をアッシュと申します」
アッシュと名乗った少年は、床に膝を付き、私の手の甲に口づけを落とした。
「えっと、えっと……ちょっと、待って。ちょっと落ち着かせてくれませんか?」
「では、落ち着くためにハーブティを淹れますね」
14、15歳とは思えないほどテキパキと動くアッシュ少年。
ハーブティも予め用意していたのか、すぐ私の手元に渡された。
りんごのように甘酸っぱそうなのに、ほっとする香り。
「胃もたれにも効きますし、安眠効果もありますよ。お嬢様は本日特に悪夢に悩まされていたようですので」
「あ、ありがとう……ございます」
出されたお茶を一口含む。
――えっ、カモミールってこんなに美味しかったっけ!?
紅茶や珈琲は淹れ方次第で味が変わるというけれど、現代の私が飲んでいたティーパックのカモミールとは全然違う!
というか……ハーブティなんて飲んだの、いつぶりだろう。
会社に通っていたときは、麦茶代わりにエナジードリンクを飲んでいた。
ご飯を作る時間も食べる時間もなくて、ろくにご飯も食べてなかったっけ。
……そりゃ死にますね。
自業自得という言葉がずんっと頭に響いた。
「落ち着きましたか? お嬢様」
アッシュ少年がニコニコの笑顔を向けてくる。
「え、ええ……なんとか。気はおちつきました。頭の中はまだパニックですけど」
「敬語はやめてください。私は貴方様の従者でございます。敬語はなしで、気軽にアッシュとお呼びください」
「え、ええ……わかりまし……わかったわ」
前世から家族以外に敬語を使うことに抵抗があった。
けど、こんなに小さい子だし、本人も言っているから、敬語じゃなくていいわよね。
私は、こほんと一回咳をして、目の前にいる彼と向き合った。
「さっき思い出したんだねって言ってたけど――――」
――きゅるるるるるるるるるる
お腹が鳴った。もちろん私のお腹だった。
「あはは、さすがロ―ゼリア様」
真剣に訪ねようとしたのに、全てが台無しだ。
主としての威厳も、このシリアスモードも。
アッシュ少年はケラケラと笑って、笑いすぎて涙が出たのか、目元の涙を拭った。
――泣きたいのはこっちの方だった。
「まぁ、話は朝食のあとにしましょっか。アップルパイがお嬢様を待ってますよ」
「アップルパイ!」
また私は大声を出してしまった。
その様子をみて、アッシュ少年は更に笑った。
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