我が主は、悪役令嬢でこの世界の創造主~味方の従者は何故かヤンデレ~

六花さくら

【第一章 悪役令嬢編 幼年期編】

第1話 悪役令嬢(仮)の育成日記(1)sideR

 寝苦しい夜だった。

 私はスーツを着て、毎日電車に乗って、タイムカードを押して、朝礼まで待機。

 これがいつもの朝の生活。

 変わらない朝の生活の夢の中に、学生時代の私の夢が混ざり合う。

 学校いきたくないな。もうすぐ試験だ。宿題は……学校は――


「うーん……」

「お嬢様。お嬢様。早く起きてくださいな」

 ハスキートーンの声が耳元をくすぐる。


「じゃないと、食後のアップルパイを食べ逃してしまいますよ」


「アップルパイ!!」


 私はベッドから飛び起きた。

 そうだ。食後はアップルパイを食べないと。

 じゃないと一日が始まらない。


 料理長ってば、私がご飯を食べるのに遅れたら、アップルパイをすぐに下げてしまうんだもの。


 とか、考えながら、顔を上げる。

 その先には――美少年がいた。


 夜の帳のように黒い髪。

 思わず目を奪われてしまいそうな金色の瞳。

 見た目、12、13歳ほどだろうか。

 彼は私と目があった瞬間、にっこりと笑った。


「起きたようなので、これで俺……私は戻りますね」


 こほんと咳き込んで、一人称を訂正していた。


「お嬢様、朝の支度をしますわよ」

 少年の出ていった向かい側、そこにメイド服を着た女性が立っていた。

 アキバとかで見るきゅるるん系のメイドじゃなく、しっかりとしたクラシック系の服。

 紅茶淹れるの上手そうだ。


 私は何がなんだかわからないまま、新しい洋服を着せられる。

 朝のセットが終わり、鏡を見た。

 そこには、私じゃない女の子がいた。


 長い金色の髪に、宝石のようにキラキラと光る青色の瞳。

 見た目はどう見ても一〇歳前後。

 髪の毛はくせ毛なのだろうか。

 いくら梳いてもくるくるんの巻き毛になっている。

 メイドさんは私の髪を丁寧に2つに結んでくれた。


 きれいに整えられた服はドレスで、シミやシワひとつない。


――どゆこと?


「あの、メイド? さん?」

 私は年の近そうなメイドさんに声をかけた、


「あら! お嬢様、私のことは気軽にアニーとお呼びくださいとお伝えしましたのに」

「えっと、それじゃ、アニー? 何が起こってるの?」

「何が……とおっしゃられても、お嬢様はいつもどおりお可愛いですわよ」

「いや! そうじゃなくて! 今頃だったらスーツを着て電車に揺られて通勤しているはずよ! なのに、私は金髪だし幼女だし髪の毛くるくるだし、どういうことか説明してほしいわ!」


「電車? 通勤? ドレスではなく、スーツを……お嬢様が?」

 怪訝に眉をひそめるアニー。

 私がおかしいことを言っているみたいだ。


 頭がズキズキする。


 そういえば部屋もおかしい。高そうなツボがあったり、床はなんかフッカフッカしているし、ベッドも憧れのレースまでついている。


 これって……どこかで?


 私は恐る恐るアニーに訪ねた。


「アニー。私はだれ?」


「えーっと……あなたはローゼリア・マリィ・クライン公爵令嬢でございますよ」


 あっけらかんと。

 さも当然のように、彼女は言った。


「ローゼリア……」


 私はぼそりと呟く。ローゼリア・マリィ・クライン。

 聞いたことがある。というか何度も書いた覚えがある。


「あの、アニー? 少し部屋から出てもらってもいいかしら?」

「え、ええ、ドアの前でお待ちいたしますね」


アニーは首をかしげながら、ドアから出ていった。


「ローゼリア!? ローゼリア・マリィ・クライン!!!

 私が創ったゲームキャラの名前じゃないの!!」


 よく見渡せば、背景、小物にちらほら見覚えがある。

 高級そうな金の壺とか、特に背景素材にするときに目立っていたっけ~って、そうじゃなく!


 冷静に、冷静に考えなさい。私。

 これってもしかして、流行りの流行りの異世界!?


 「異世界転生で自作ゲームの世界に飛ばされるなんて聞いたことがないわ!」

 

 ローゼリアの叫びは屋敷中に響き渡った。

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