8月7日(土)【13】計算された傾斜角

 ラジオ体操を終え、無事帰宅。


 ゆきこが昨日学校でぼくに渡すといっていた旅行土産を、もってきていた。昨日もていねいに断ったが、受け取らなければ捨てると言い出したので、捨てるのはもったいないと思い受け取ってしまった。



「昨日さ、小山内さんからチョコいただいたんだけど欲しい?」


 そういうと母は、そうめんの入ったステンレスボールを机に置く。


「小山内のおばちゃんから?」

「そう。お供え物でいただいたものなんだけど私は食べないから、もしよかったらあきくんにって」


「へー。食べる」

 もらったものは感謝して食べるのが、ポリシーだ。


「あっ。思い出した。ゆきこからも、お見上げもらったから」

「えっ、何もらったの?」


「なんかご当地バージョンのキャラクターキーホルダー」

「お礼いったの?」

「うん」


 いった記憶はない。心が微動だにしなかったので、嘘偽りなく記憶していない。が、反射的にいっただろうと自分を信じる。


「高いの?」

「500円くらいじゃないの」

 この夏7回目のそうめんをすくいながら答えた。


「そしたら、ゆきこちゃんにも何かお返ししないと。半分出してあげるから500円くらいでお返ししなさいよ。あとで払うからレシートはもらってきて」

「わかった」


 こうなることもわかっていて断ったのだが、貰ったものはしょうがない。ケイタの家で遊んだ帰りに駅の近くのスーパー2階おもちゃコーナーに寄って、女の子遊びに使えそうなやつを適当に選ぼうと思った。


「あと、小山内さんにこれ持って行ってくれる? お菓子ありがとうございますって」


 そういうと母は、淡くてぼやんとした丸模様の紙に包まれた、平たい菓子折りを持ってきた。


「さて! 箱の中身は何でしょーう......か?」

「ゼリー」

「ピンポンピンポン――」


 過去問も含めて、ゼリー以外の解答を出されたことが無い。


 母のパート先スーパーのお土産コーナーで売られている、下から2番目に安いゼリー。

 大げさに見えるようカットされたフルーツが、おわん型の色付き透明ゼリーの中に保管されている。適度に生臭く、果物の生っぽさを凝縮したのち水で戻したような味がする。

 そのゼリーが6つ、人様にあげても恥ずかしくない箱に、オン・ザ・テーブルでフタを開けると、顔にゼリーの正面が向くよう計算された傾斜角をつけて、入っている。

 その箱をさらに一階サービスカウンターに持っていくと、パートさんの慣れた手さばきで、いやらしく見えないように包装してもらえる。

 母は二階の日用品コーナー担当なので、この技は習得していない。


 同じ金額で標本されていない生の果物が買える。でも、お礼は箱に入れて返すものらしい。


「お礼をいうからには食べておかないと」


 薄くなったダシ醤油を飲みほして箸を置き、お供え物の箱を開けた。ミルク成分の少なそうな1粒を手に取り口の中へほうり込む。


「かあーらっ」


 お土産用のチョコにはすべて、お酒が入っているものなんだろうか。だが、この種のチョコの食べ方は攻略済みだったので、歯を高速で上下させ口の中で混ぜ合わせた。


 2粒目は中身の液体を取り出して――3粒食べた。残りは大切に食べようと思い、冷蔵庫の一番上の棚に保管した。

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