第50話
酷く心が揺れた。
この絶望的な状況の中、それでもこうして笑うライルハート様に縋ってしまいそうになって、そんな自分を必死に抑える。が、それは無駄な足掻きでしか無かった。
「もし、アイリスが修道院に行くなら、俺はコネを使って神官にでもなるさ。そしたら、二人でこっそり結婚しよう。……まあ、修道院は結婚禁止だから、ばれたら逃げないといけないけどな」
心底楽しそうに顔を輝かせて、ライルハート様はさらに続ける。
もう、私だって気づいていた。
「貴族位を剥奪されて、平民になったら俺も王子なんて辞めて平民になるさ。知っているか?実は今までアイリスに持ってきていたお菓子って俺の手作りなんだぜ。それを活かして、スイーツでも販売しよう」
──本気で、ライルハート様は私と共にいる未来だけを望んでいると。
身分を剥奪される未来を物語っているにも関わらず、私と共に歩く未来を物語るライルハート様の目は心の底から楽しそうだった。
「処刑されそうになったら、もちろん逃げるぞ。実はだな、こういう時のことを考えて、森の中に小さな家を作ってあるんだ。ネルバに命じて小さな、……その、俺達の子供くらいなら十分に暮らせる畑も作っているしな」
この人にとって王子という立場は、豊かなこの生活は、決して重要なものでは無いのだと。
もう私は、自分の思いを押し込めることができなかった。
「────っ!」
どうしようもない喜びが、ライルハート様様への愛しさが爆発して、拭っても拭っても途切れない涙が、顔と服の袖を濡らす。
そんな私を優しく撫でながら、ライルハート様は小さく告げた。
「どんな立場になろうが、状況になろうが、俺はアイリスと一緒に居られればいい。それに、そもそも別にまだ未来が決まったわけじゃないだろう?だから、遠慮なんかするな。本当の思いを教えてくれ。アイリスはどうしたいんだ?」
もう私には、自分の思いを抑えきることなんて出来なかった。
溢れ出る感情に、私は何とか顔を上げて口を動かす。
「助けて、くだ、さい」
途切れ途切れの嗚咽混じりの言葉に、ライルハート様はとても嬉しそうに笑った。
その言葉を待っていた、そう言いたげに。
「任せろ」
──私の中に、もう絶望はなかった。
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