第36話

それから私は抵抗虚しく、男達に連れていかれることとなった。

人気のない屋敷の中を通され、私が連れてこられたのはそこそこの広さがある広場。


「……中々に、第二王子を誘惑しているようじゃないか」


多くの傭兵達に囲まれたお父様がいたのは、その中央だった。


「まさか、第二王子がアリミナの誘惑も効かない一途な男だと思わなかったよ」


「お父様、話が違います!ライルハート様がなびかなければ、手を引くと言っていたはずです!」


「アリミナのことを諦めると言っただけだろう?その他に何もしないなど言っていない」


「……っ!」


お父様の目に浮かぶ、怒りの炎。

それを目にし、私は自分の怒りも忘れ口ごもる。

お父様の今の様子は、それだけの何かを秘めていた。


……そして同時に、私は自分の思い違いに気づくことになった。


今まで私は、ライルハート様をアリミナが狙うのは、いつものわがままだと思っていた。

だが、今のお父様の態度を見て、私はその考えを改める。

今回の件は、アリミナではなくお父様が何かを狙って起こしたのかもしれないと。


いや、そもそもアリミナのわがままでさえ、お父様の意図が込められていたかもしれない。

そう考えた瞬間、私はお父様へと問いかけていた。


「お父様は一体……」


しかし、その問いを私は途中で止める。


お父様の目的など、分かりきっていることに気づいて。


半ば確信を抱き、それでも外れることを祈りながら私は問いかける。


「……お父様は、まだ諦めていないのですか?」


「ああ。そうだ」


その私の問いに、お父様は醜く口元を歪め、笑みを浮かべる。

それで、答えは十分だった。


その瞬間、私は数年前のできごとを思い出す。

それはライルハート様が愚鈍に振る舞う理由。


……ライルハート様を王太子にし、重鎮の地位を手にしようとした貴族の暴走を。


「今度こそ私は、第二王子を王とする」


そしてお父様は、熱のこもった目でそうせんげんした。

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