(6)

 船の医務室のベッドには3人の男が横たわっていた。

 突然暴れ出して、突然倒れたおっさん。まぁ、おっさんと言っても、あと十年ちょっとぐらいで「爺さん」になりそうな齢だが。

 そのおっさんにタコ殴りにされたデブ。自称「クリムゾン・サンシャイン」。どっかで聞いた名前なので……「ヒーロー」か「悪党」としての自称コードネームなんだろうが……こいつをタコ殴りにしたおっさんが喚き散らしてた事とタコ殴りにされた時の様子からして、本物の「クリムゾン・サンシャイン」とやらは別に居て、こいつは贋物の「クリムゾン・サンシャイン」か自分をその「クリムゾン・サンシャイン」とやらだと思い込んでる痛い阿呆の可能性大。

 そして、船から逃げようとして、海で溺れた若造。

「あんた……河童に変身出来るのに、泳げないのか?」

 俺は正直な感想を口にする。

「普通の人間よりは泳げるよ……。あの姿になれば……」

「スポーツなんかを何もやってない普通の人間の基準では『凄い』ですが、本職の水泳選手に比べれば……イマイチ程度です」

 この若造を「若」と呼んでたおっさんが解説。

「あと……素潜り出来る時間もそこそこですが……素潜り漁をやってる漁師さんなんかに比べると……」

「黙れ源田……」

「何だよ、そのイマイチな能力は?」

 俺は正直な感想を述べた。

「うるせえぞ、源田。お前の能力だってイマイチ極まりないだろ」

「おっさん……あんたの能力って?」

「恐しい能力です……使うと寿命を削ってしまうような……。でも……使わずにはいられないんです」

「はぁ?」

 いや……待て……このおっさんがデブをタコ殴りにした時の様子は……「普通の人間よりチョイ強い」ぐらいだった気がするんだが……?

「この源田は……一時的に身体能力を上げられる。力は普段の倍ぐらい。走る速さは一・五倍って、所かな」

「へ? 結構凄くないか?」

「あのな……力が倍って言っても……普段、全く鍛えてない五〇男の『普段の倍』だ」

 …………。

 ……た……たしかに、ビミョ〜過ぎる……。

「そして……その状態は、一分から一分半しか持たない」

 つ……使えねぇ……。

「あの……寿命を削るとか言ってたけど……どう云う事だ?」

「ああ、時間切れになると、急激に血圧が上がり、逆に血糖値は大暴落だ。気を失なうレベルでな。そりゃ健康に悪いに決ってる」

 ……。

 …………。

 ……………………。

 俺も「男の子」の成れの果てだ。

 中学ぐらいの頃は……その手の「大人が『中学生ぐらいが好き』だと思っているようなモノ」が好きだった……。いや、その手のモノが好きだとバレると、もう「大人っぽいモノ」に憧れ始めてた大半の同級生から馬鹿にされるんで、ひた隠しにしてたが……。

 もちろん、その手のマンガやアニメに出て来る「使うと寿命が減る能力」なんてのは……大好物だった……。

 だが……。

 まぁ、その何だ……。

 現実に「使うと寿命が減る能力」なんてのが有った場合、どう云う理屈で「寿命が減る」のかは……今後、絶対に訊かないようにしよう……。

 思春期の頃に憧れてたモノが完膚無きまでにブチ壊される。

「だから、こいつ、俺の護衛だったのに、何か有る度に、俺がその『護衛』の介抱をしなきゃいけなかったんだぜ。何かおかしいだろ」

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