「悪の組織」からの足抜けを手伝いますッ♥/第一部「安易なる選択−The Villain's Journey−」
@HasumiChouji
プロローグ
組織壊滅
『悲劇は、法律は人間のために作られているのであって、天使や悪魔のために作られたのではないという点にあった。法律とすべての「永続的な制度」は根源悪の猛攻撃だけでなく、絶対的潔白の影響力によっても破壊されるのである。法律は罪と徳のあいだを揺れ動くのであって、それを超越するものを認めることはできない。そして、法律は根源悪にむけられるべき罰則をもっていない』
ハンナ・アレント「革命について」より
『これは言い換えれば、善と悪には、人間の社会で通用しうる、そして通用している規範には閉じ込められない
國分功一郎「中動態の世界:意志と責任の考古学」より
爆炎も爆煙も見えない。
次々と爆音だけが聞こえる。
それでも、周囲のビルと云うビルの屋上で起きている事は……多分、「爆発」なのだろう。
いくつかのビルからは炎に包まれた人間が落下しているのが見える。
「気にするな……。狙撃手が潜んでいそうな場所を掃討しているだけだ。念の為、確認するが、君が連絡をくれた山田一郎氏だな?」
どう考えても、十代の女の子にしか思えない声で、俺にそう訊いたのは……。
いや……待て……何で、こいつがやって来たんだ?
「ご……護国軍鬼4号鬼?」
「御名答だ。あと、私をおちょくるつもりか、私に喧嘩を売りたいのでなければ、例のダサい渾名は口にしないでもらうと有り難い」
銀色の装甲強化服に身を包んだそいつは……別名「悪鬼の名を騙る苛烈なる正義の女神」。
そして……俺の所属組織だった「英霊顕彰会」が「2位以下に大差を付けたNEO TOKYO最大最強の自警団」から「単なる中の下ぐらいのテロ組織・犯罪組織」にまで堕ちぶれる原因となった
次の瞬間、凄まじい轟音。
あの「NEO TOKYOの最も長い夜」事件で一気に数を減らした「英霊顕彰会」の虎の子である4m級軍用パワーローダー「国防戦機」は……現在、整備中・修理中のモノを除いて一瞬にして全滅した。
「終ったよ」
そう言ったのは、「機械仕掛けの天使」「機械仕掛けの
だが……何が起きた?
魔力や霊力の類は何も感じないし……そして銃もミサイルも爆弾も使っていないのに……俺達を追い掛けていた「国防戦機」は1つ残らず手足が千切れた粗大ゴミと化していた。
そして……判らない事は更に有った。
千切れた「国防戦機」の手足の断面は……熱によるモノらしい焼け焦げや損傷は
何が、どうなってるんだ? この「正義の味方」どもは……通常の「魔法」「超能力」とも違う未知の「特異能力」を使えるのか?
「じゃあ、社会復帰訓練の受講場所と、その後の居住地の希望は後で聞くね」
そう言ったのは……青いもう一体の「護国軍鬼」。日本語だが……若干の「外人訛り」が有るような気がする。
そして……アメコミの「キャプテン・アメリカ」のファンなのか、胸には銀色の星のエンブレムが有った。
「おい……やり過ぎんなよ」
続いて、そう言ったのは……民生用の強化服を改造したらしいモノを身に付けたスレッジ・ハンマーを持ったヤツ。
「
護国軍鬼4号鬼は、追手にそう呼び掛けながら……ま……待て……何だ、あれは……。
馬鹿過ぎる……ヤツが
「レールガン使うんで、ロック解除して」
続いて、青い護国軍鬼は折り畳み式の馬鹿デカい……しかし、オモチャか何かに見えない事も無い銃を展開しつつ、誰かと無線で話していた。
ひゅん……。ひゅん……。ひゅん……。
ぶ〜ん……。
続いて銃撃の音。
「やれやれ……いつものパターンか……」
護国軍鬼4号鬼が放った矢は……何だ、あの
その矢は装甲車に突き刺さり……えっ?
装甲車の乗員達が涙と鼻水と涎を流しながら装甲車から飛び出した。
どうやら、あの矢は、刺さると先端から催涙ガスか何かを出す仕掛け……うわあああ……。
護国軍鬼4号鬼の放つ矢が装甲車の乗員に命中した途端……。
「今の映像を後で『工房』に送ってくれ。何が『対人用の矢』だ? まだ威力がデカ過ぎる。ロクにテストしてないだろ」
その矢が命中したヤツらの体には、直径1㎝以上の穴が空いて、そこから噴水のように血が吹き出ていた。
続いて、別の装甲車からも乗員が飛び出て……いや、何だ、ありゃ? 何で、全くダメージを受けてない装甲車の乗員が、茹で蛸みたいに真っ赤になって汗をダラダラ垂らし……ぎゃあああ……。
茹で蛸になった装甲車の乗員は、別の装甲車の銃弾を浴びて、あっと云う間に肉片と化し……味方を誤射した装甲車の機銃手は混乱し過ぎて顔の筋肉が固まり、気味の悪い薄笑いでも浮かべてるような
「レールガンの威力を落とせ。ここは人工島だぞ。島の底を撃ち抜いて、島ごと沈める気か?」
「工房への不具合報告その2。レールガン起動時の威力を状況によって変えられる仕様にしといて」
一体全体、何が起きてんだ……。
物理攻撃どころか……魔法攻撃も、こいつらにはロクに通じてない……。
火薬も無い場所で爆発が起こり……俺を追って来た兵器や兵士は、針鼠になり……穴だらけになり……。
魔法系の攻撃は……そ……そんな……どうなってんだ? あの装甲強化服「護国軍鬼」は……「英霊顕彰会」の「魔法使い」達が呼び出した「死霊」どもを次々と「食って」いった。
そ……そして……ば……馬鹿な……まさか……。「護国軍鬼」の背中には……。どうなってんだ? あと、本日何回目の「馬鹿な」「まさか」「どうなってる」だ? 他の「組織」に入る時の手土産にするつもりだったモノは……「正義の味方」どもにとっては、山程有る「量産品」に過ぎなかったのか?
俺が「英霊顕彰会」の「お宝」だと思って、ようやく1個だけ持ち逃げした……富士山の噴火による関東壊滅より前に、旧政府が開発した「魔法と科学を融合させた未知の画期的エネルギー源」である「幽明核」は、2体の護国軍鬼の背中に合わせてざっと五つ以上は装着されていた。いや、下手したら一〇近くかも知れない。
俺は……自分の組織から足抜けしたい、と「本土」の「正義の味方」どもに連絡しただけだった。
ヤツらが始めた新しい「商売」である「悪の組織からの足抜けと社会復帰の支援」を利用して、今の組織の「お宝」を、この「東京都千代田区」の名を騙る「関東難民」が暮す人工島から持ち出し……他のもっと景気のいい組織に入る為の手土産にするつもりだった……。
しかし、のっけから、全ての目論見は狂った。
俺の元の所属組織は……その日、壊滅した。「正義の味方」とは言え、たった4人のメスガキが……俺を「足抜け」させるついでに、俺の所属組織を徹底的にボコボコにしてしまったのだ。
そして……日本のテロ組織・犯罪組織の勢力地図や組織間の関係は、たった1日で大きく変ってしまい……そのせいで、俺の計画の練り直しの必要が有る事だけは判ってはいたが……その後の数日間、俺の頭は真っ白になったままだった。
俺がこれから辿る人生についての物語は……中二病っぽい言い方をするなら「『
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