第972話 ようやく任務が終わって隠れ里に戻って来た件
マダム・マリィの依頼も、2日掛かりだったが無事に達成する事が出来た。4人の迷子の子供達の無事を確認して、それを巻貝の通信機で各方面に伝達する護人。
紗良はその間にも、甲斐々々しく子供達の面倒を見てあげている。軽い食べ物をそれぞれ差し出したり、温かい毛布で包んであげたり。
それが一段落したら、何はともあれ安全圏への脱出である。異世界+土屋チームと示し合わせて、“天空ダンジョン”を『帰還の巻物』の使用で後にする。
そうしてダンジョンの前で、昨日の午後振りの対面を果たす両チームであった。お互いに苦労を称え合いながら、取り敢えず隠れ里に戻ろうと言う話に。
その方法だが、行きは“西海の魔女”の転移魔法に頼ったけど帰りはそうもいかない。とは言え、来栖家には頼りの『ワープ装置』があるのでこれを使えば大丈夫。
そこまでしっかり計算しての、この異界のダンジョン探索である。幸いにも、使用可能なゲートは今は崩れかけた遺跡の入り口に存在するので問題は無し。
「それにしても、本当にカタナの言う通りにそっちのチームが見つけたな。まぁ、こっちも良い探索経験を積めたし、魔石や回収品はそれなりに入手出来たしな。
この儲けに関してだが……被害に遭った隠れ里の復興に寄付しようと、こっちでは話し合ってるんだが」
「ああ、ウチもそのつもりだよ……里に残った凛香と隼人には、ウチの食糧庫からの支援も伝えてあるし。残念ながら、一緒に飛ばされた食料品はダンジョンに呑まれて発見出来なかったよ。
その後の補給については、入手した魔石を換金して、他の市場から購入すれば平気かな? 隠れ里にも、その辺の伝手は多分あるだろう」
「そうね、それにしてもマダム・マリィもトラブルメーカーよねぇ。襲撃に遭った隠れ里は不運だったけど、その後の対応をもっと感情を抑えて取り組んで欲しかったわ。
お陰で尻拭いするコッチも、凄く大変だったわよ」
その通りだねと、リリアラの感想に大いに頷く来栖家の子供達である。本当に2日に渡る探索、もとい子供達の捜索は物凄い高難易度ミッションだった。
それを本当に、見事に成し遂げられたモノだと土屋チームの女性陣は末妹をヨイショする。それを見ながら、図に乗るから止めてよと姉の姫香の釘刺し。
とにかく和やかな雰囲気の中、救出された子供達は今は半分夢の中。ダンジョンの中では全く気が抜けず、眠る事も
毛布に包まって、お互いに寄り添い合って眠る子供達はそれなりに
何しろ、ダンジョンのモンスターになった時点で、昔の意識など取り除かれている筈。それが残っていたのは、ある意味強烈な意志のなせる
異世界チームの面々は、その騎士団は恐らく西の王国の所属だろうと推測していた。強力な魔女の噂を聞いた国王が、彼女を配下にしようと過去に考えていたそうで。
何度も断りを入れる魔女を、しつこく勧誘した経緯があったのだ。
「うわっ、それは迷惑な王様だねぇ……それが何で、騎士団出動の騒ぎになるの? 私達が見たのは、40人くらいの鎧を着た死霊騎士団だったけど」
「いや、国王が派遣したのは確か300人以上の一団だった筈だよ。それが戻って来なくて、西の王国は一気に弱体化したんだ。
それが元の俺たちの活動地域で、今は滅んだって報告を受けてるな」
「1人の従わない魔女に対して、300人もの騎士を送る王様って何なの? 巻き込まれた騎士団の人は、本当に災難だったよねぇ。
それでも、亡霊になってもか弱い一般人を守ってたのは立派だよね」
確かにその通りで、その行為が無ければ任務は失敗に終わっていただろう。護人は毛布ごと、子供達をルルンバちゃんの簡易座席へと移動させてロープで固定する。
それから出発の準備が出来たと、紗良に合図して『ワープ装置』を起動させる。休憩と軽く昼食をとっていた2チームは、さあ帰還だと立ち上がって移動の支度を始める素振り。
今日の午前中の探索も、随分と無理をして疲労も溜まっていた両チームである。向こうでドタバタして、お昼ご飯を食べ損なうのも面白くないので、この場で軽い昼食となったのだ。
報告は凛香からして貰っているので、今更急ぐ必要もそんなにない。いや、子供達の両親は一刻も早くその無事な姿を確認したい気持ちは分かる。
ただまぁ、探索とは無事に
そんな訳で、遅ればせながらの帰還を果たす一行であった――
そして『ワープ装置』によって“鼠ダンジョン”の3層へと出た一行は、そのゲートを通って異界の隠れ里へ。このルートが最短で、待っていたのは熱烈な集落の住人の歓迎だった。
そこにはドワーフ親方やお弟子さん達もいて、それからもちろん“西海の魔女” マダム・マリィもいた。両親の元に無事に戻った子供達は、涙と笑顔で再会を喜んでいる。
凛香と隼人は、実際にかなり上手く立ち回っていたようだ。集落の広場に炊き出しの拠点を作って、山の上から持ち込んだ食糧や生活用品を分け与えていた。
美登利も応援に呼ばれたようで、加工された豚汁とお握りが無料で住民に振る舞われていたようだ。もちろん集落の住人も、手が空いた者はそれを手伝ってくれていた。
襲撃犯による被害だが、建物や食料品の補填は今回の2チームによる寄付で何とでもなりそう。それを集落の長と話し合う護人とムッターシャは、何度もお礼を言われて何とも言えない表情に。
被害に遭った集落が、大変なのは恐らくこれからである。亡くなった人も何人もいるので、その被害から立ち直るのも相当な作業となるだろう。
お金を少々寄付しただけで、そこまで感謝される程ではない。
「いやいや、ダンジョンに一緒に飛ばされた子供達を、無事に救出してくれたじゃねえか。出会った頃から並じゃねえなと思っていたが、ここまで凄腕となるとはな。
こっちからの礼として、何でも遠慮なく鍛冶でも錬金でも依頼をしてくれ。兄ちゃんの鎧なんて、随分とボロボロじゃねぇか。
他にもチームの装備、全部ただで見直してやろう」
「やった、それだけでも大儲けだよねっ……ルルンバちゃんもメンテが必要だって叔父さんが言ってたし、この際だからもっと格好良くしてもらおうよっ!」
「ああっ、確かにオーバーヒートの後遺症と装甲にもガタが来てるし、魔導ボディをメンテして欲しいかな。俺の鎧もだけど、最近かなり激しい戦いがあってね。
そう言えば、親方の鍛冶場は大丈夫だったのかい?」
鍛冶場は普段から大きな音が出るので、集落の端っこに建っていて被害は
現在の一行は、その炊き出し地点で追加のお昼を食べながらの復興案の計画中。今は昼過ぎで、夕方までは2チームともこの隠れ里にいる予定。
そしてマダム・マリィの懇願で、隠れ里の復興を手伝う流れとなりそう。それを受けて、異世界チームの面々が魔石の換金と食糧の買い込みへと出掛ける手筈に。
ついさっき、ダンジョン探索から戻って来たと言うのに何ともタフな連中である。半ば呆れながら、正直ぐったりの護人は今日はもう動きたくない思い。
子供達は、豚汁とお握りでお腹が膨れると、それぞれ仕事の手伝いへ向かって行った。建物破損個所の片付けやら、夕飯の炊き出しが主な仕事だろうか。
異世界チームの連中は、“西海の魔女”から魔法の鞄を受け取って、大きな町へと転移して貰った所。来栖家も、今回儲けた魔石を手渡し済みで、軍資金は申し分ない筈。
来栖家のペット達は、子供達について行ったり護人と一緒に広場で休憩したりと様々。ベースとしてセットしたキャンプ拠点には、土屋チームも一緒に休憩中。
それはそうだろう、2日に渡る探索を終えたばかりで、バリバリ働く方がどうかしている。おかしいのは、高確率で異世界チームや子供達の方だ。
土屋や柊木も、護人と同じくぐったりしてキャプ用品の椅子に深く腰掛けていた。自分よりランクの高い連中への同行は、恐らく相当に疲弊するのだろう。
護人も同じく、戦闘しっ放しの前衛とは違った疲労でクタクタである。それでも集落の住民やマダム・マリィに喜んで貰えて、悪くない気分で休憩中。
ちなみに、“西海の魔女”からは『帰還の巻物』を10冊と、魔法の鞄(特大)を報酬に貰ってしまった。どちらも貴重品で、今後の探索で重宝しそう。
特に魔法の鞄(特大)だが、かなりの大容量で素晴らしい性能らしい。これなら、今まで諦めていた乗用車サイズの回収品も持ち帰れるかも?
同じ報酬を異世界+土屋チームも貰っていて、“西海の魔女”は太っ腹ではあるらしい。少々思慮は足りず、今回の騒動を起こしたがそこは掘り返さない事に。
一緒に転移させられた襲撃犯たちだが、結局ダンジョン捜索の途中で見掛ける事は無かった。どうなったかは不明だが、恐らく300名の騎士団と同じ運命を辿ったのだろう。
それに関しては、全く同情の余地もなくて出遭わずに済んで良かったとさえ思ってしまう。そんなまったり中の護人達だが、たまに住人が感謝を述べに来たりと少々落ち着かない。
そこに鍛冶屋の親方からお呼びが掛かって、メンテの相談をしたいとの事。丁度良いと鍛冶屋へと向かう護人に、同伴するレイジーやルルンバちゃんである。
土屋たちもついて来るようで、彼女達も居心地は良くなかったのかも。感謝の念は嬉しいが、会うたびに言われると確かに
そんな訳で、一行はドワーフ親方の鍛冶場へと拠点を移す事に。
「おうっ、皆して来たか……ただとは言ったが、修理の材料費くらいは出して貰うぞ。良い品を造るには、それなりの素材も必要じゃからな。
嬢ちゃん達も、メンテや新しい装備が欲しけりゃ言うがええ」
「取り敢えず、来栖家チームとして早急なのは、俺の鎧の修理とルルンバちゃんのオーバーホールかな? 酷い戦いがこの前あってね、神剣2本がなきゃ危なかったよ」
「そう言えば、姫香ちゃんが
私も“聖女”とは言われてたけど、祟り解除スキルなんて持ってないし」
そんな雑談と共に差し出された鎧を見て、ドワーフ親方は怪訝な表情に。鑑定モノクルを操りながら、護人の鎧を念入りに調べ始める。
それからその興味は、とうとう護人本人へと移って行った。上着を脱ぐよう
ただまぁ、そこまで
肩の上にいたムームーちゃんは、地面に転がされて抗議しようか悩んでいた。ただし、それを行なっている親方の表情は真剣そのもの。
そうして、険しい口調で呪いの痕跡の発見を告げるのだった。
「案の定、この『黒檀の鎧』には耐呪効果があった筈なのに、それが綺麗に消し飛んとるわい。余程強烈な呪いを浴びたとみえるな、その痕跡が肌にマークされとるぞ?
まぁ、数か月は放っておいても大丈夫じゃが、それ以上は危険かもしれんな――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます