第955話 “天空ダンジョン”の威容を思い切り体感する件
ところで来栖家で高い所が苦手な者だが、意外と少ない事が判明した。ハスキー達は、度胸があるのかこんな吹き
目的地は今の所は1つだけで、出発点の浮遊石の広場から進めるのはすぐ前の宮殿風の建物のみ。そこに辿り着くには、幅が3メートルほどの架け橋を50メートルほど進む必要があるみたい。
一応は
ハスキー達に続いて、姫香も茶々萌コンビとルルンバちゃんを率いて橋を渡り始める。巨体のルルンバちゃんが少々不安だが、架け橋は揺れもしないので平気っぽい。
ところが長女の紗良は、そんな場所は通りたくないと体が拒絶反応を示していた。それが自身の運動神経の無さのせいか、その辺は定かでは無いとは言え。
香多奈に手を引かれて進む姿は、既に見慣れた風景となってしまった。それでもまぁ、お互い助け合うのが家族なのでそれを茶化す者もこの場にはいない。
逆に中衛を進む姫香は心配そうに振り返って、後衛陣の進み具合をチェックしている。そうしている内に、前衛陣は早くも架け橋を渡り切って宮殿風の建物に到着。
続いて中衛陣も、無事に最初の難関とも言えないルートを渡って建物のチェック。そこは割と広い柱の立ち並ぶエリアと、そこから続く廊下で構成されていた。
それから最初の敵との
それが数匹、体をうねらせながら襲い掛かって来た。それらをハスキー達は、あっさりと武器を振るって次々迎撃して行く。
「いい感じだよ、ハスキー達っ……茶々萌コンビも、あのムカデは毒持ちっぽいから気を付けて戦いなさいっ!
ルルンバちゃんは、いつも通り遠隔支援でお願いねっ!」
「お姉ちゃん、後衛陣も到着したよっ……頑張って戦ってね、みんなっ! うわあっ、それにしても凄い建物だねぇ。窓からもしっかり、外の景色が丸見えだよっ。
空しか見えないけど、何か意味があるのかな?」
「香多奈ちゃん、いいから早く建物の中に入ろうっ?」
足元の景色がどうにも見たくない紗良は、そう言って末妹の前進を急かす素振り。とは言っても、建物の中はハスキー達が絶賛戦闘中で、入れるのは入り口部分のみ。
そこは階段状になっていて、左右には草木の植え込み花壇があってお洒落な演出が素敵。ただし、その建物に住まうのは現在では恐らくモンスターのみだろう。
そんな事を考えていたら、ハスキー達の
敵は意外と大きくて、1メートル半のサイズだったのに雑魚扱いは酷い。そんな事を口にする後衛陣は、このダンジョンのランクの高さに戦々恐々としている所。
一方の護人だが、ここの攻略方法を考えあぐねていた。何しろ今回の探索目的は、間引きやお宝回収ではなくて
まずは速度、これはマストである……こんな所で戸惑っている間にも、子供たちは危険に
そのためにかなり悩ましく、速度は上げたいけど抜けがあると本末転倒と言う。ハスキー達の嗅覚も、さすがにこの広いエリアの隅々まで嗅ぎ分ける事は不可能だろう。
ここは定番だが、定期的に子供たちに呼びかけを行なって進むしか無いかも。そのせいで敵も余計に招くかもだが、それは甘んじて受けるしかない。
幸い、子供たちの名前は全て聞き及んでいて、不審者と間違われる事は無いだろう。そして、定期的に異世界+土屋チームと通信を取れは、案外すぐに決着はつくかも?
まぁ、向こうは放り込まれた階層も分からないし、上に進むか下に進むかも勘頼りなのだ。余り過度な期待は、掛けない方が良いのかも知れない。
「どうだろうねぇ、私の勘だと随分奥の階層にいる感じを受けるけど。取り敢えずは5層とか10層までにはいないんじゃないかな、分かんないけどさ。
ただまぁ、呼びかけは定期的にした方がいいかもね?」
「アンタの勘はバカに出来ないから、本当に嫌になるよねぇ……今日は予期せぬ形の、午後から探索だから長期戦になるとしんどいかも?
ただまぁ、迷子の子供たちはなるべく早く確保したいよねぇ」
「そうだな、ただまぁ……その辺の塩梅は、こちらじゃ制御出来ないからな。なるべく遅くまで探索を頑張って、駄目だったらここで1泊も仕方無いかな。
そんな訳で、香多奈の予見が正しければ今日はハードモードだぞ、みんな」
そのリーダーの言葉に、了解と尻尾を振るハスキー軍団と茶々萌コンビである。それから、探索を再開するよと、メインの通りを真っ直ぐ進み始める。
それを見ながら、ゲートはこの奥の右側かなぁと魔法のコンパスを見ながら告げる末妹。この宮殿エリアは、壁や床も立派で天井も高いし、建物内と言う感じがあまりしない。
通路も広くて、チームの移動も不便は無くて快適そのもの。その分、何だか巨大な敵が出て来そうで怖くはある。そう話す末妹に、四方から避難の目が向けられる。
それはいつもの事なので、華麗にスルーする香多奈は強心臓の持ち主。そして前衛陣は、ようやく次のモンスターと接敵を果たした。
そいつ等は、トンボの顔と羽根を有した獣人で、半透明な剣を手に何だか強そう。青い槍持ちも半分いて、何だかシオカラトンボを思い起こさせる。
1ダースのその群れは、統制も取れていて良い動きを示して来た。しかし、それ以上に統制の取れたハスキー達は、さほど苦労もせずに連中を倒して行く。
そうして数分後には、宮殿の通路は来栖家チームしかいなくなった。それを確認して、護人は取り敢えず大声で捜索中の子供たちの名前を順に発してみる。
それなりの大声だったが、返って来たのは迷宮エリアの静寂だけ。いや、空中を浮遊して来る物体を、末妹が発見して一行にアレはナニと問うて来た。
「ああっ、アレは……恐らくだが、空を飛んで移動中の子蜘蛛かな。連中は、糸を尻から出して風に乗って移動するからね。
ただまぁ、サイズ感が違うから、恐らくはモンスターだろうな」
「何だ、ただの敵かぁ……このダンジョンは、蟲型の敵が多いのかな? ルルンバちゃん、それならこっちに近付く前に撃ち落としちゃっていいよっ。
ガンバレ無敵だルルンバちゃん、ゴーゴー♪」
「応援に妙な節をつけないでよ、香多奈っ……そう言うのって、意外と耳に残るんだから」
妙な姉妹喧嘩を挟んでいる間に、ルルンバちゃんはゆっくり宙に漂って来る敵を綺麗にお片付け。為す術もなく魔石に変わって行く蜘蛛の子は、結局どんな攻撃をするか分からず仕舞い。
その先の、香多奈が右に曲がってと指示を出した場所では、飛翔する大ゴキみたいなモンスターも出て来た。そいつ等もあまり強くなく、簡単にハスキー達が撃破出来た。
それを確認して、香多奈の推測は正しいみたいだねと姫香が意見を述べる。天空のダンジョンなんて初の探索なので、当然情報も全く無い状況だ。
敵の強さもそうだが、何度か戦ってみた感じだとそれほど手強い敵はいない気が。ただし、まだ1層目だし途中に出て来たトンボ獣人は結構強かった。
それを踏まえて、この“天空ダンジョン”の攻略を話し合う一行。出た結論は、定期的に子供たちへの呼びかけを行なっても大丈夫だろうとの事に。
そこで護人は、ゲートまで辿り着いた際にもう1度見知らぬ子供たちに呼びかけを行なってみる。それからハスキー達と目配せして、この層には何も無い事の確認作業。
多少面倒だが、各層でこの遣り取りをしながら進むほかは無さそうだ。それから定期的な、土屋チームへの通信での確認も怠らずに。
そちらは香多奈がやってくれて、向こうは割と深層で進むのも大変との情報を得る事が出来た。そして子供の姿は、影すら捕まえる事は出来ないとの話。
まぁ、まだ捜索から30分、そんな簡単に終わらないのは百も承知。
そして2層目に移動を果たしての、同じ感じの宮殿内の探索開始である。最初のエリアは、中庭仕様でとっても綺麗……ただし、ブロックの隙間からは抜けるような青空が窺える。
本当に床が抜けているので、そこに足を踏み入れたら洒落にならない。綺麗な景色のダンジョンだと思うが、その分リスキーで危険な香りがプンプン。
思わず隣の香多奈に抱きつく紗良だが、その肩の上のミケなど全く平気な模様。さすがにスーパーニャンコでも、空は飛べないと思うがどうだろう?
いや、ついこの前に雷龍に乗って飛翔してた覚えが。
そんな事を話し合う子供たちと、周囲の探索を始める勤勉なハスキー軍団。彼女達も、しっかりと迷子の子供の捜索任務は理解して、異変が無いか嗅ぎ分けようとしてくれている。
本当に頼もしい限りだが、当然ながら敵の排除と階層渡りも同時に大事となって来る。やる事が多くて大変に思えるけど、ハスキー達はお仕事大好きなのだ。
ご主人たちの役に立って、褒められるのをモチベーションに探索に励むその姿。そうして護人の上げた呼び声に、今回も応えたのはモンスターの群れだった。
まずは例の飛びムカデが数匹、その奥からはトンボ獣人が半ダースほど。それを確認して、嬉々としてそいつ等を迎撃に向かう前衛ズ。
「今回も、子供たちの返事は無かったかなぁ……この方法もさ、考えてみたら微妙だよね。だって知らない人に名前を呼ばれても、私だったらお返事しないもんね。
まぁ、こんなダンジョン内で、誰も知り合いとかいなかったら分かんないけど」
「それなんだよなぁ、とは言え子供たちの親を連れて来る訳にも行かなかったし。それだと護衛の手間が掛かって、また難易度が上がるから拒否したんだけど。
結局は、ハスキー達の嗅覚頼りなって来るのかなぁ」
それが一番確実だよねと、来栖家としてはハスキー達への信頼は揺るぎない感じ。そんな訳で、護人の呼びかけ作戦+ハスキー達の嗅覚の二重チェックで捜索は続行の運びに。
もちろん完全では無いし、そもそも子供たちの生死も不確かな現状で確実な方法など無い。来栖家チームとしては、出来る事を可能な範囲で行うのみ。
後衛陣も、取り敢えず違和感があれば全員でチェック&報告は怠らない構え。そんな取り決めを行なって、さあ2層目も探索続行である。
進行ルートだけは気を付けてねと、紗良はあまり吹き抜けに近寄らぬよう注意を飛ばす。その気持ちはよく分かる、抜けるような空の景色は仰ぎ見るから気持ち良いのだ。
間違っても見下ろすなんて、普段の生活ではほぼ見ないアングル。そんな高所にいますって感覚から起きる恐怖は、理性ではとても抑え切れない。
そんなの関係ないねと、先行するハスキー達は本当に肝っ玉が太過ぎる。姫香でさえ、吹き抜けの端っこは怖くて近寄れないと言うのに。
それでも中庭エリアを抜けて宮殿の建物エリアに入ると、そんな危険な場所は無くなってくれた。ホッとする一行だが、宮殿エリアは逆に出て来る敵が増える模様。
今回はバッタ獣人がピョンピョン飛び出て来て、そいつ等は1メートル半の体型ながら跳躍力は凄かった。それを利用して、跳躍からの槍や小刀の攻撃は鋭いモノが。
それを見て、仮面ライダーみたいとの末妹の呟きはやや的外れな気が。正義のライダーキックは、間違ってもあんなピョンピョン飛び跳ねて繰り出す類いの必殺技ではない。
そんな感じで、宮殿内も決して気は抜けない仕様みたい。
――“天空ダンジョン”の探索は、まだまだ始まったばかり。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます